からメシ 第176話 西片と恐竜

早朝、高木さんの家の前にバイクを停める。
スマホで着いたよと電話しようと思ったのだが、バイクの音に気づいたのか、高木さんが玄関を開ける。

「おはよ~西片。」

「おはよう。高木さん。よくオレが来たって分かったね」

「玄関の前で待ってたからね。西片が来るのを今か今かと」

そんなして待ってたのか。
高木さんのそういう所かわいいと思うし、愛されてるんだなあって実感する

「大変じゃなかった?」

「全然、だって、好きなんだもん❤」

「……///」

高木さんにヘルメットをしっかり被せて、自分もしっかりヘルメットをかぶってバイクを走らせ土庄港に向かう

フェリーに乗って高松港に向かう
フェリー内で朝ごはんに、うどんを食べ
朝早かったので2人で寄り添いながら、お互い肩にもたれ掛かりながら仮眠をとる

昔だったらこういうのも恥ずかしがってできなかったかもしれない。
今だって本質は変わってない。恥ずかしくはあるけど、でも、それよりも愛しい。

フェリーから降りて、またバイクに乗る。

8時前とはいえ、日が登りしばらくした時間帯は、8月だともうめちゃくちゃ暑い。
シャツも汗だくだ。
ヘルメットを被るとさらに暑い

「ごめん、高木さん。背中汗びっしょりで気持ち悪いかもしれないけど、危ないからしっかりつかまってて」

「ううん、むしろ気持ちいいよ。私。……」

高木さんが俺にしっかりつかまる
さ、いざ出発、と思った時

くんくん
くんくん

汗びっしょりな俺の背中、首筋、腋とかを高木さんが嗅ぎ回る

「か、嗅いじゃだめっ///」

「えー。息吸ったり吐いたりするのは仕方ないよー」にやにや

めっちゃにやにやしてる!
絶対わざとだ!
高木さんめ!

「あ、危ないからっ///」

「ちぇー。わかったよ~。」

そうして出発進行。高松の街を進んでいく
ぎゅーっとよりいっそう高木さんがオレの背中を抱きしめる

「幸せだなぁ。」

「高木さん、なんか言った?」

「なんでもないよ~。」

そんなこんなして、途中休憩して飲み物を飲んだりしながら、今回の目的地付近にたどり着く

「この辺だよね、西片。」

「旧石切場って書いてあったけど、詳しい住所わかんないんだよね。」

「Googleマップでそれっぽいところいくつかあるけどどれだかわかりにくいね」

「うーん。どうしよ。しらみ潰しに当たっていくしかないのかなあ」

「西片、こういう時こそ地質図サイトの出番だよ。私今からこの付近の地質図サイト見てみるから西片の開いてるGoogleマップと照らし合わせようよ」

「なるほど。和泉郡層と兼割の住所の重なってるところでそれっぽい場所探せばいいのかな」

「あ、こことかどうかな?開けてる感じで、旧採石場っぽくない?」

「そうだね。行ってみよっか。」

「うん。」

とりあえずナビ通りに行ってみる

国道を走っていき
途中曲がって荒いアスファルト舗装の道に入ると目的地にたどり着いた

開けた景色に地層が広がる。昔採石場だった場所っぽい。

「これ入っちゃって大丈夫かな」

「立入禁止とかも書いてないし、柵もないし、今は採石場じゃないって話だし大丈夫だよ多分」

「た、多分!?」

「それにネットで調べたら化石掘りに来てる人いるみたいだよ?」

そ、それなら大丈夫なのか?
まあでもせっかく来たんだし、
ダメとは書いてないわけだし、大丈夫、なのかなあ。

「さ、早速初めよっか西片。」

とりあえずまあなんか言われたら謝ってやめればいっか

さっそく準備をして発掘を始める

トントントン

カンカンカン

い、石が硬いっ!
あとゴーグルがこもって暑い
こ、これはなかなかキツイぞ
高木さん大丈夫かな

「高木さん大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

トントントン

カンカンカン

しかし硬いなこれ
明らかに化石ってわかるようなのも出てこないし

あれ?た、高木さんがいない
どこだ?

そうすると首筋にしっとりとした感触が
ぺろっ

「ひゃああああ!」

「あははははは。驚きすぎだよ~」

「首筋ぺろっとしないでよ///」

「誰もいないしいいじゃん。えへへ、西片の汗舐めちゃった」

にこにこしながら舌をぺろっと出す高木さん
全く、いたずらっこなんだから

「ぺろってしたのには他にも理由あってさ、ちょっとしょっぱいね」

「汗なんだから当たり前だよっ///」

「違う違う。クーラー効いてる部屋でぺろっとした時の西片の汗とか、冬場にぺろっとした時の西片の汗よりしょっぱいからさ」

「ち、違い分かるの?///って言うかいちいち味確かめてんの!?///」

「うん。わかるよ~。西片ソムリエだからね私は。」

す、好きだからこそなのは分かるけど
汗の味の違いまでわかるとか言われると
は、恥ずかしすぎる...///

「普段よりしょっぱいってことはさ、水分足りてないんだよ。飲み物のんでお昼ご飯にしよ?塩分補給できる梅に醤油おかかに塩鮭、塩昆布のおにぎりだよ」

「ありがとう。いただきます。」

まず冷えたお茶を飲む。
喉が渇いているからか格別に美味い。

そしておにぎりを食べる。それぞれ半分こずつかじって

「美味しいよ。高木さん。ん。これご飯にも塩かかってる?しかもちょっと海っぽい」

「ありがと。よくわかったね。西片。暑さで塩分出てくと思ったからね。ミネラルたっぷりの藻塩をかけてみました」

なるほどだからかこの海っぽい風味は
そして醤油おかかも梅干しも塩昆布も塩鮭もしょっぱい具だから、この炎天下だと特に美味しいのだ

「醤油おかかはいつもより多めにお醤油入れてるんだ」

「美味しいよ。高木さん。やっぱ炎天下だと塩辛いのがすごく美味しく感じる」

「そうだね。良かったよ西片に喜んでもらえて」

「「ごちそうさまー」」

高木さんのおにぎりを食べ終わる。
すると高木さんが後ろから抱きついてきて
また、首筋を
ぺろっ

「ひゃあっ///」

「あははははは。さっきよりしょっぱくなくなってるや」

「そうやって熱中症かどうか計測するのやめてよっ///」

「あはははは。でも気付かないと大変なことになるからさー。定期的にやるよ。」

「頻繁に水分とるからやめて!///」

そんなこんなで化石掘りを続行する。高木さんにぺろってされないように水分は取りながら

「高木さん、これとかどうかな。やたら全体的にゴロゴロしてるけど」

「うーん。化石というより石がゴロゴロしてる感じだし、ここにそういう地層もあるみたいだから礫岩なだけだと思うなあ。ちょっと調べてみるよ。」

「ありがとう」

「うーん。やっぱ礫岩っぽいね。」

「そっか」

そんなこんなで
水分取ったり休憩しながら作業を続ける
それにしても石が硬くて腕疲れる

……高木さん大丈夫かな?

「腕とか手のひら痛くなってきちゃったや」

「もんであげるよ」

「……///あ、ありがと。西片///じゃあお願い」

そういうと高木さんはシャツのボタンを…
ってなにやってんの!?///

「なにやってんのさ!高木さん///」

「あ、こっちじゃなかったの?」

「手だよ!///手が痛いって話だったじゃん!///なんで胸揉むって話に……///」

「私、胸なんて一言も言ってないんだけどなー。やらしー西片。」にやにや

高木さんめ!
高木さんの手の平や腕を揉みほぐす

「ありがとね。西片。すごい気持ちいいや」

「それはよかった」

「あっ❤きもちい❤」

「変な声出さない!///」

「あははははは。西片もやったげる」

すると高木さんの手がオレの足の付け根の方に……

「ってそっちじゃないからっ!///」

「ああ、そっか。間違えちゃった。」

「手が痛くなってきたって話なのに何をどうしたら間違うんだよっ!!///」

全く油断も隙もない。

高木さんに手をマッサージしてもらう

...でもこれ、気持ちいいな。
強すぎず弱すぎないマッサージ
ちょうど俺が気持ちいいなあって思うくらいの。
……やっぱ高木さんはさすがだなあ。

そんなこんなひたすら休み休み
地層を掘っていく

恐竜の化石を発掘するぞ!と意気込んで来たのに恐竜どころかアンモナイト、いや、化石自体見つからない。

日が傾いていく。

「…そろそろ帰ろっか。西片」

「……うん……」

「まあ恐竜化石なんてそんなゴロゴロ出てこないよー。もし出てきてたらもっと発掘調査隊で賑わってるし、もっと話題になってるよ」

「まあそうだけどさ……化石ひとつも見つからないなんて」

「私は西片と一緒に化石を掘りに行けたって経験自体が楽しくてしょうがないけどなあ」

「そ、そうかもしれないけど、それでもせっかくここまで来たんだから」

少なくとも暗くなってくる前に高松港まで帰らないと危ない。
なのでトボトボと帰ろうとしたその時だった

「あれ?西片、西片の斜め後ろにころがってる石…その模様って」

「え?どれ?」

「右足の右側斜め30cm後ろくらい」

よく見ると細かい縞模様があって
……これって貝じゃないか?

「高木さん!これ貝の化石じゃない!?」

「そうかも!アンモナイトじゃ無さそうだけど…二枚貝かな」

よくみると、完全に貝の化石で細かく縦にしっかり入った縞模様、うっすら横に入った縞模様が特徴的だ

早速ネットで調べてみる
和泉郡層で取れる貝の化石を調べてみると
どうやらこの化石はナノナビスって貝の化石っぽいことが分かった。

「やった!やったね!西片。」

「うん。ありがとう。高木さんのおかげだよ。高木さんが見つけてくれたんだから、高木さんの化石だよ」

「ううん、違うよ。西片と一緒にじゃなきゃそもそも化石掘りにも来なかったしさ、…こういう楽しい経験ができるのも全部西片のおかげだよ。だからさ」
「これは二人の化石だよ」

「そうだね。うん。」

「じゃあ化石を大事にしまって、帰ろっか」

「うん。」

そうしてオレは高木さんをバイクの後ろに乗せて、バイクを走らせる

「これで自由研究は完璧だね」

「うーん。でもやっぱり、恐竜についても書きたいかな~。」

「恐竜の化石は見つからなかったからね~。ま、そんなに甘くないってことかな?あ、そうだ。明日もバイトないし明日は博物館行かない?恐竜の展示があるとこ」

「そうだね。行ってみよっか」

「行こ行こ。そこで恐竜の展示見たり、説明読んだりしたら恐竜についてのことも書けるでしょ?」

「そうだね。…自由研究って結構楽しいかも」

「うん。楽しいよね。…西片と一緒だから」

「…お、オレも……た、高木さんと一緒にやってるから楽しい…///」

「…うれしい///」

そんなこんなで安全運転で高松港まで帰る
高松港に着くとちょうど夕方。日没時間くらいだ。

帰りのフェリー、高木さんは疲れたのか
寝ちゃって俺にもたれかかってきた

かわいくて、愛しくて
自然と、頭を撫でてしまう

「…西片……好きっ……」

寝言でまで高木さんは俺に好きって言ってくれる。本当に愛されてるんだなあ俺は、と思う。
だから、頭を撫でながら

「お、オレも好きだよ…///高木さん///」
照れながらもしっかり答える

「……うれしい。大好き…西片///」

高木さんの寝言と会話しながら、フェリーが土庄港につくまで、高木さんの頭を撫で続けた

第176話 完

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