からメシ 第43話 みんなの文化祭と変なおじさん
さて、文化祭当日。
家庭科室の調理スペースはお客さん立ち入り禁止になっていて、被服スペースを客席にしてる感じの使い方。
接客班の方はみんな女子はメイド服、男子は執事服である。
密かに高木さん、メイド姿でラーメン作るのでは?とほんのちょっと期待してたが、そんなことはない。
朝家によった時からずっと体操着だった。ただ、高木さん、ちょっと形から入るところもあるのか、ねじり鉢巻をしていた。こういうとこ、かわいいと思う。
俺と高木さんは、調理班としてラーメンを作っていく。俺と高木さんは看板商品の
超濃厚燻製激にぼにぼ燻製ソーラーメン~オリーブ薫るエンジェルロード仕立て
超濃厚燻製激にぼにぼソーラーメン~ごま油薫る中山千枚田仕立て
という、魔術の詠唱並に長い2商品の専属担当である。といっても高木さんが手際よく作っていくため、ほとんど高木さんの仕事だ。
器を用意したり、たまにスープの味見をしたりするくらい。
このラーメン、原材料費が高いせいか、値段も高い。なんと1000円。下手な店より高い。なので最初のうちはあまり注文する人が居なかったが
リピーターがリピーターを呼びどんどん注文する客が増えていった。大忙し。
どんどん売れていき
慌ただしく時間が過ぎていく
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俺の名前は小田島三郎
しがない中間管理職だ
実はもう一つの顔があり
趣味のラーメン巡りが高じて、東京のラーメン四天王、渋谷のサンちゃんなどと呼ばれている。
東京勤めの俺だが、金曜日に出張で高松まできていた。
土曜にそのまま帰るつもりだったが帰り際に
サンちゃん「小豆島の高校の文化祭で凄まじく美味いラーメンを出すだと?」
気がつくと俺はフェリーに乗り、高校最寄りの港、池田港へ向かっていた
SNSで評価をチェック
美味すぎる!
こんなの食べたことない!
やべえ神。いや神をも超えし存在
失神、いや、失禁しながら今書き込んでる!
と高評価ばかり
四国のラーメン四天王、超辛口評価で有名の鳴門のラーメン辻斬り侍ですら
麺の茹で加減が☆4、あと7秒早く麺をあげて欲しかった。ってだけでほかは最高評価☆5だと!?
これは本当なら到底文化祭の域を超えているぞ
...
ゴゴゴゴゴ
着席する
もちろん頼むのはソーラーメン。さて、どちらが最適解か...悩みどころだ...
オリーブか、ごま油か...両方頼むと麺がのびかねない...悩みどころだ...
ミナ「お客さん、あの~ご注文は...」
サンちゃん「すまない、もうちょっと待ってくれ。ここが天下の分け目なんだ...」
ミナ(何言ってるのかなこの人...)
さて。どうしたものか、オリーブオイル仕立ては、おそらくちょっとイタリアンな感じで、爽やかな感じだろう。最近の若者は恐らくこっちを選びインスタとかにあげがち。
しかしだからといってもちろん馬鹿にはできない。そんな最近の若者のインスタ映えなんかお構い無しに圧倒的な美味しさで押し潰し、インスタにあげるのを忘れさせるくらい美味いラーメンを作るはず
でもやはり、ごま油仕立てか?こちらはやはり王道中華って感じなのだろうか。恐らく奥深さがある味わいだろう。しかし...
こういう時は、周りの状況を見て判断だ
となりのテーブルを見る。ちょうど食べ始めた所である。
夏凜「な、なんてことなの...どういうことなの...どうしてこんな美味いの...?」
春信「これは煮干しの教科書に載る...煮干しの歴史を変える逸品だ...」
こ、これは四国ラーメン四天王の一角、煮干しラーメンしか興味無い伊吹島の煮干支配者(ルーラー)三好兄妹じゃないか
妹がオリーブ仕立て兄がごま油仕立てか
おや、妹のラーメンにおそらく仕上げにちょこっとかかってるのは...あの色つや香り...
小豆島産オリーブを使ったオリーブオイルだ...小豆島産オリーブのオリーブオイルは値ははるが、普通のオリーブオイルとはまるで別格の味わい...なるほど、決まったな
ゴゴゴゴゴ
サンちゃん「それでは...超濃厚燻製激にぼにぼ燻製ソーラーメン~オリーブ薫るエンジェルロード仕立てを」
ミナ「かしこまりました...」
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高木さん「ラーメン今の注文で終わりです」
西片「あれ?茹でてる量注文より多くない?」
高木さん「あ、これ西片のまかないの分だよ?オリーブ仕立てとごま油仕立てで2玉分」
西片「え、俺が食べちゃっていいの!?」
高木さん「もう茹でちゃってるし。西片に食べさせたくて作ってたんだからさ」
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ミナ「おまたせしました~超濃厚にぼしの...えーとオリーブのやつです」
接客下手な店員さん
杞憂、やはり高校の文化祭の域を出ないのか...?
いや。でもこの香りは
凄まじく濃厚かつそれでいていやらしくない
香り、いや、薫りといっていい。
食べる前からわかる。
このラーメン、只者では無い...
まずはスープから...
サンちゃん「美味い!いや、旨い!なんだこの濃厚なスープは!濃厚ながらどこまでもやさしい味わい!」
麺をすする
茹で加減は...完璧。もはや神業と言えよう。
サンちゃん「茹で加減も神業だ」
しかし、ラーメン四天王ラーメン辻斬り侍は茹で加減だけほんの少し苦言を示していた。奴が耄碌したのか...あるいは...
ふと、隅の方で、体操服姿でラーメンを食べている、ここの生徒と思わしき男女が目に入る
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ラーメンを売りきったので遅めの昼ごはん。
高木さん「西片、熱いからふーふーして食べさせてあげるね。」ふーふー
高木さん「はい、あーん!」
西片「恥ずかしいから///!こんな人前で白昼堂々!自分で食べるから!」
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全てを悟った。何もかも全てを。間違いない。このラーメンはお客さんに作ったラーメンでは無い。あの女の子が、あの男の子一人のためにだけに作ったラーメンだ。
サンちゃん「なるほど...ロット...それでか...」
そう、あの男の子のまかないのために茹でたラーメンと同ロット、つまり同時に茹でたラーメン...
サンちゃん「好きな男の子に完璧な茹で加減のラーメンを食べさせたい!そんな恋する少女の
想いがつまっているからこそ!
このロットのラーメンは神業としかいえない茹で加減なのか!そんなもはや奇跡、いや運命の一杯を召し上がることができるとは!なんたる幸運!」
サンちゃん「なるほど、この煮干しのあとに残る心地よい苦味と、輪切りのさらに1/4、一片だけ添えられた、これは小豆島レモンか...この爽やかな酸味は
大好きだからこそ、ついからかってしまう、愛に満ちたからかいの味...そして口の中にいつまでも色褪せず広がる強烈な煮干しの旨み。これは、愛情。それもそんじょそこらの愛情ではない。
恋の味なんてレベルのものではない。全人生をかけて一生幸せにするよという覚悟を伴った愛の、そして幸せの味だあああ
でもなんだこの旨みの後に残る優しく包み込むようなコクのあるマイルドさは...」
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高木さん「......なんかちょっと恥ずかしいね...///」
西片「......うん...///」
西片「た、高木さんも食べようよラーメン」
高木さん「え、いいよ、西片のために作ったんだし」
西片「高木さんも、食べて欲しいな...自分がどれだけ凄いものを作ったのか。確かめて欲しい。2つともね。」
高木さん「...わかった。ありがと。西片。じゃあ。頂くね」
高木さんが自分で作ったラーメンを食べる
高木さん「自分で言うのも変かもしれないけど、凄く美味しい。西片が提案してくれたバターがいい感じにマイルドにしてくれて最高だよ」
まず褒めるところが俺が提案したバターを入れてみるって所なあたり、本当に高木さんらしいなと思う。
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サンちゃん「なるほど、バターか!それもバターは彼の方の提案なのか!つまりそれは、彼女の一生かけて幸せにするという覚悟に対する答えとして、
彼も一生かけて彼女を幸せにする!と返しているのと同義!どっと押し寄せる煮干しの愛情をやさしくまろやかに受け止め包み込むバターの愛!まさにお互いの愛と幸せの重ね合わせの味!
なるほど、確かにこれは店では到底出し得ることなど出来ない境地。つまり長年連れ添った妻が最愛の夫に美味しいって言ってもらいたい一心で極めに極めたラーメンだこれはっ!感服だ!感服致す!
そして鼻に残るこの心地よい香り...これは...燻香か...なるほど!煮干しを燻製にしているのか!この燻製香が長年連れ添った夫婦のような熟成された奥行きを醸し出しているわけだっ!
目をつぶると情景が思い浮かぶっ!お父さんとお母さん、そして娘が3人でとても幸せな表情でラーメンを嬉しそうに食ってる姿が!」
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さすがに恥ずかしすぎる
俺ももう恥ずかしすぎて下しか見れないし
高木さんも顔を真っ赤にして俯いてる
ラーメン全部食ったらそそくさと退散しよう...
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サンちゃん「ああ、なんで俺はあいつと別れてしまったんだぁぁぁ、俺たちにもこれ程の愛があったら、ラーメン感の違いなんて些細な事だったのに...あああああ
でも、これ程の深い深い愛情は世界中でこの彼と彼女でしかなし得ないだろう。ラーメンひとつで分かる。ああ、俺もこんな恋をしたかった。ううううう...」
ついに泣き出してしまった
サンちゃん「ウエイトレスのお嬢ちゃん...超濃厚燻製激にぼにぼソーラーメン~ごま油薫る中山千枚田仕立て、も頂けるかな」
ミナ「売り切れた...ましたよ?」
サンちゃん「あはあ、なんという事!麺が伸びるなど気にせず二つ注文をするんだった!」
サンちゃん「......嘆いても仕方ない...ときにウエイトレスのお嬢ちゃん。このラーメンを作ったのはあそこに座ってる体操服姿の...真ん中分けのロングヘアーの子だね?」
ミナ「すごい!なんで分かったの!?」
サンちゃん「わかるさ...見てれば...」
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高木さん「美味しかったー!」
西片「ごちそうさま!最高だったよ高木さん。...また作って欲しい...」
高木さん「ありがと、西片。次はもっと美味しいの作ろー」
サンちゃん「君たち...」
西片「はい?」
親指を立てながら
サンちゃん「思う存分幸せになるんだぞ...!」
高木さん「ええ...」
西片「まあ...」
文化祭初日。変なおじさんによくわからないけど、祝福された。
第43話 完