【ショートショート】バナナを焼く少年

「うるせぇ!!邪魔をするな!!!」

 少年は刃物を持って叫んだ。
 少年の父親は叫ぶ。

「やめろ!やめるんだ!そんなバカなことはやめろ!!」

 少年の母親は泣く。

「お願い!やめて!なんで、そんなことをするのよ!!」

 刃物を振りかざす少年。

「うるせぇ!うるせぇ!!親父も、お袋も、いつも俺のことを縛りつけやがって!!俺はお前らの人形なんかじゃない!!」

 少年は刃物を握りしめる。

「やってやる……やってやるよ!!」

 少年の父と母は叫んだ。

「やめろぉおーーーー!!!!」
「やめてぇええーーーー!!!!」

 少年は刃物を握り、台所に立つ。
 まな板の上にある皮をむいた一本のバナナを斜めに切って、真っ二つに。
 それから、少年はフライパンの上にバターを入れ、弱火で熱した。
 バターが溶けると、少年は切ったバナナをフライパンの上にのせ、1、2分ほど焼く。
 バナナに焼き色がつくと、少年はバナナに砂糖をふる。

「なんてことを……」

 少年の父親は拳を握って涙を流す。

「バナナを焼くなんて……そんなことをする子じゃなかったのに……」

 少年の母親はとめどなく涙を流し続けた。
 焼いたバナナを皿の上にのせる少年。

「……ハハハ!アッハハハ!!!やったぜ!!やってやったぜ!!俺は、バナナを……バナナを焼いてやったぜ!!アハハハハハ!!!」

 少年は手を震わせて、狂気じみた笑い声を上げる。
 少年の両親は、絶望した。
 一体、なにが少年にバナナを焼かせるまでに至らせたのか?
 どうして、少年がバナナを焼きたがっているという心の闇に気づけなかったのか?

 だが、時はもう既に遅かった。

 少年はバナナを焼いてしまったのだ……。

 ……。
 少年が焼いたバナナを食べる父親と母親。

「あ、うんまいな、コレ!」
「まあ、本当!バナナって焼いても美味しいのね」

 少年の両親は、少年の焼いたバナナを絶賛。
 少年は台所でフライパンを洗っている。

「だから言っただろう。バナナには無限の可能性があるって。なんでもかんでも、頭ごなしに否定しちゃあ可能性は広がらないよ」
「こりゃあ、コイツにいっぱい食わされたな。バナナだけに!!」

 少年の父親がそう言うと、3人は大きな声で笑うのであった。

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taka田taka夫
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