日本のタイ料理店にはなかなか行けない
初訪タイ後の1999年春、渋谷のタイ料理店でバイトをしていた。そこでタイ語をいろいろと憶え、東京に住むタイ人の生活などを見せてもらった。当時は東京でもタイ料理店はあまり多くなかったと思う。だから、タイ料理フリークは東京のタイ料理店すべてを網羅しているなんて驚くべきことではなかった。すごい人は厨房のタイ人の名前まで把握していたほどで、業界としての規模が当時はそれほど大きくなかった。
近年はナンプラー、パクチー、ガパオなどタイ語名がそのまま通じるようになったほどタイ料理が定着し、同時にタイ料理店も増えた。地方の辺鄙な場所にもタイ料理店があったりなど、かつての状況しか知らないボクからすると驚きである。
とはいえ、これだけタイ料理が身近にあっても日本のタイ料理店にはなかなか行くことがない。行く機会がないというよりは、あまり行きたくないというのが本音だ。
※今回の記事はあくまでもボク個人の考えであり、日本国内のタイ料理店を否定するものではありません。画像もたまたま撮影したもので、本文とは関係ありません。
前提として、日本のタイ料理は高い。いや、日本に限らず、タイ料理は海外だと基本的に高級なジャンルに入る。これは90年代ごろのタイ料理がオリエンタル料理、あるいはスパイシー料理として海外でもちらほら見かけるようになったころからそうで、ボクがタイ料理店で働いていた当時も、ボクがいた渋谷の店と大久保の屋台街みたいなところ以外は内装も高級な雰囲気と料金設定が相場だった。
今はこれだけタイ料理店が増えたので、あらゆるコンセプトがある。屋台風もあれば、テイクアウト専門など、高級店以外にもニーズに合わせたジャンルだ。しかし、変わらないのは値段だ。ガパオやソムタムでさえ安めとはいえ600円以上はする。単純計算で200バーツ以上ということになる。
タイにおいては和食は高級だ。寿司とかならともかく、定食だって日本より高い。高品質な外国料理というイメージでやっているので、タイ料理が日本で高いのと同じことだ。なにより、現地では生産していない食材や調味料などがあるので、コストが上がってしまうので仕方がない面もある。タイ料理も調味料のほか、野菜は特に日本にはないものもある。だから値段が高くなるのは仕方ない。
とはいえ、日本のタイ料理で1000円くらいまでの設定ならわりと高くない良心的な店かとは思う。新宿歌舞伎町にタイ人向けのカラオケ店などがあるのだが、そういうところは料理の値段設定が1000円、1500円、2000円の3段階が当時は多かった。物価的に考えたって、日本人向けのタイ料理屋よりもずっと高かった。それと比較すれば、むしろ600円くらいなら安い。
ボクが日本でタイ料理店に行かない理由は値段だけではない。先述のように、食材が必ずしも日本国内で手に入るものとは限らない。ボクが働いていたころはクイッティアオでさえ、タイからすら入れていない店も少なくなかった。当時はベトナムの同じ米粉麺であるフォーを入れていたところもあった。
最近は行っていないのでわからないし、タイ国内でも乾燥麺が増えていて、その技術も向上しているが、かつてはクイッティアオは細麺であろうが太麺であろうがすべて乾燥されたものだった。タイ国内なら生麺もあって、食感がよくておいしい。しかし、日本だと一度水で戻してから茹でるので、コシもなければ、食感もボソボソしていた。今は乾燥麺を水で戻しても生麺と同じくらいのクイッティアオも増えているが。
パクチーは日本でも生産しているそうだが、残念ながらタイのパクチーとは別物だと思う。水と土が違うから同じようには育たないのでしょう。日本産のパクチーならパクチーサラダなどとしてパクチーだけを食べたりできるが、タイではそもそもパクチーだけを食べることはしないし、サラダとして食べるには苦すぎるのではないだろうか。
日本は食材の生産者からテーブルまでの距離が長すぎることと、日本国内で生産していたとしてもオリジナルとは味が違う。日本で手に入るすべての肉や野菜類はタイのものとは違う。もっと正直に言えば50バーツで食べられるものに200バーツを出すのは抵抗があるというのもある。
ま、そんな事情よりも、単純にタイ料理はタイで食べた方がおいしい。同じ理由から、和食も日本で食べることがベストである。ということは、日本にいる間はおいしい和食を安く食べた方がいい。日本はなんでも食事がおいしいので、タイ料理も当然悪くはないのだが、タイが拠点の自分としてはタイ料理以外がいい。だからボクは日本でタイ料理に行かないのだ。