カントーの水上市場に感動【前編】
ベトナム南部の主要都市のひとつであるカントーは、アグリツーリズムだとかグリーンツーリズムと呼ばれる旅行形態が外国人観光客から人気のエリアだ。メコンデルタと呼ばれる地域であり、ベトナムの米生産の50%がこの辺りということで、農業や自然環境を観に来る旅行が好まれるのだ。
その中のひとつにカントー市内から出発する日帰り水上市場見学がある。複数の水上市場があるらしく、早朝から小舟に乗って自然を満喫しながら、地域住民たちの生活を身近に感じるツアー内容になっている。ボクもそんなカントーの水上市場を見学してきた。
ベトナムは大きく分けると北部、中部、南部に分けられるが、その中には3つずつくらい地方があるので、実際には計8の地方に分かれているのだそうだ。南部はホーチミンを中心にした東南部、カントーのあるメコンデルタ地方に分かれている。
カントーはホーチミンからバスで3時間くらいだったろうか。それほど遠くない。日本のODAで造ったカントー橋が2010年に架かったことでかなり行きやすくなったと言われる。カントー市は主要都市でもあるので、ベトナムでは省と同等の扱いになる中央直轄市でもある。
メコンデルタというくらいなので、近くにはメコン河も流れる。ただ、カントーの横の水流はハウ河とカントー河になる。次回で説明するが、ホテルに来た船頭に勧められた水上市場はハウ河沿いにあるのだとか。朝早く出て朝日を拝み、市場を見学して、生春巻きの皮の工場見学をして夕方に帰ってくるという。日本で米所と言えば日本酒醸造を連想するが、ベトナムではライスペーパーを作るようである。
さすがにそこまでロングなデイトリップに興味はないので、カントー市街地から最も近い「カイラン水上市場」に行ってみた。上のマップで見ると下の中央よりやや左寄りにあるのがわかる。ここなら2~3時間で帰ってこられるという。
朝、ホテルで待っていると船頭が迎えに来てくれた。ボクはちょうど川沿いに泊まっていたので、そこから歩いてカントー市場に連れて行かれる。
市場の中ではなく、建物の横の路地を通っていく。ボクはひとりだけなので、考えてみるとこんな場所を連れて行かれるなんてちょっと怖い話である。
通路を抜けると目の前にはカントー河が広がっていた。どの船に乗るのかワクワクする。ボクは高校進学で水産科を考えていたほど船が好きなのである。
上の画像はまさかこれではないよね、というつもりで撮影したものだ。そして、乗ったのはまさにこの船であった。
早朝のカントー河は風が涼しくていい。しかし、陽差しはすでに強くなりつつあった。この画像は2017年9月6日、朝6時半のものだ。帽子と薄手の長袖は必須かもしれない。
こういう風景を観るのもボクは好きだ。中国もそうだが、なにもないのにそこにひとつだけなぜか大きな建物がある、みたいな雰囲気が日本ではあまりイメージできない景色のような気がして。
東南アジアでは当たり前の風景だが、客を乗せながら給油をする。しかし、タイでは水上ガソリンスタンドなんて見たことがないので、なかなか珍しい光景だった。
受け取ったガソリン(?)は緑色だった。ガソリンも色が国によって違うのでおもしろい。
タイは何色だったかな。パタヤなど地方の観光地に行くと路上で瓶に入れたガソリンをレンタルバイク向けに売っている。そのときの色ってなんだったか。赤だったような気がするが。とはいえ、日本で燃料を瓶詰めにして売っているなんて論外だろう。タイも最近は厳しくなっているが、まだガラス瓶に入れているだけマシだ。上の画像はペットボトルである。
船が遅いので、30分くらいかかって市場に到着する。実はツアー発注の際にデイトリップは1時間程度でいいと言ったら、最低でも2~3時間はかかると返ってきた。そのときは距離の関係と思っていたが、単に船足の問題だったことをこのときに理解した。
東南アジアの水上市場というと、タイのダムヌンサドゥアク水上市場が有名だが、ここは全然様子が違った。あちらは完全に観光地化されている。一方、カイラン水上市場は今も市民や業者向けの市場になっていて、ちゃんと商取引が行われていた。主に農産物が売買されているようだった。
おもしろいのは、問屋となる船はどの船もこのように棒を立て、そこに野菜などを括りつけていた。船頭によると、これは看板で、扱っている商品を掲げることで遠くからでもなにを売っているかわかるようになっているのだとか。
これはスイカ専門船であるが、画像で寄り添う小舟は買いものではなく、船員たちに朝食を売りに来る屋台船だ。この水上市場には問屋、仕入れに来た船、観光客の船、そして屋台船が入り乱れる。タイの水上市場よりずっといいのは、外国人からボッタクリをしようという人がいないことだ。
ボクも試しに朝食を頼んだ。メコン河が近いということはカンボジアも近いということだ。実際にカントーから北に直線距離で100キロほどでカンボジア国境になる。カントーの北西に200キロもない場所にはカンボジアの首都プノンペンがあるほどだ。
だから、タイの米粉麺クイッティアオと原型を共にするといわれるフーティウが食べられるのではないか、と。フーティウはカンボジア経由でベトナムに入ってきた米粉麺だからだ(諸説あり)。ちなみにカンボジアではクイティウと呼ばれるし、原型の中国広東省潮州県ではクエティオウ(粿条)という名称で親しまれている。
そして、実際にこの小舟で食べられたのはフーティウだったのだが、思ったほどおいしくなかった。米粉麺はやっぱりクイッティアオがいい。フォートと同じように、フーティウも麺のコシが足りなかったからだ。麺類のコシは国あるいは地域によって好まれるものが全然違うので、ベトナムではコシがある麺は期待できないのかもしれない。
タイで船の麺類といえば丼が小さいクイッティアオ・ルアになるが、この屋台船の丼サイズは街中と同じだった。しかも、ボクは小舟なので丼を置くところがない。陶器の器が熱いので、その下に皿を当ててくれ「ここを持ちな」と言ってくれた(のだと思う)。おばちゃんは優しいのだが、その皿も陶器製なので、全体が鬼のように重く、思わず腱鞘炎になるところであった。(次回に続く)