B52の池は周辺が素晴らしい
ベトナム国内には独立、つまり戦争に関連した博物館が多い。歴史を紹介する中で避けては通れない部分であるというのも大きいし、軍事博物館といった直球ネーミングの博物館も少なくない。
その中で博物館というか、ベトナム戦争の爪痕のひとつとして見ておきたいのが、アメリカの大型戦略爆撃機B52ストラトフォートレスの墜落現場だ。残骸が少ないので、特になにというわけではないが、むしろ注目したいのがこの現場の周辺だ。ベトナムの一般庶民が暮らすエリアのど真ん中なので、その様子を垣間見られる。案外そういった場所が観光エリアに少ないので、珍しい場所だとボクは感じた。
ここはB52の池とでも言うのだろうか。このB52墜落現場は観光客が多いホアンキエム湖周辺から見ると、国鉄線路の西側にある。ちょうどホーチミン廟やホーチミンの家の裏手といったエリアにあり、廟からも徒歩で行ける距離だ。
B52の墜落現場は表通りから奥に入っている。表通りには「B52戦勝博物館」なるものがある。ボクが初めて行ったのは2011年で、そのときはB52の残骸はほとんどなかったし、建屋の中にはなにもなかったはず。今は中庭にB52の残骸が展示されているらしい。そんなもの当時はなかったと思う。だから、この残骸が近くに墜落したものかどうかはわからない。
B52がこの池に落ちたのは1972年12月27日の午前中だそうだ。ゴックハー村に落ちたという話が残っており、実際に上のマップを見ても「Ngoc Ha」が見えるので、日時は間違っていないはず。
当時はラインバッカーⅡ作戦で北爆が再開された時期に当たる。おそらくグアムの基地から発進したB52が撃墜されたのではないか。大打撃を受けた絨毯爆撃の最中、ベトナム軍の脆弱な兵器でアメリカの最新爆撃機を撃墜したことでハノイは歓喜に沸いたという。
B52はハノイの防衛軍に撃墜され、ゴクハー村のヒューティエップ湖に墜落した。上のマップだとヒューティエップ湖(Ho Huu Tiep)は博物館の右側にある。しかし、墜落現場はさらにその上にある池だ。かつてはこの辺り一帯がヒューティエップ湖だったのだろうか。
ヒューティエップ湖は湖といっても広大ではない。知らずに行けば、ちょっと大きめな池にしか見えない。上の画像が表通り寄りのヒューティエップ湖だ。
ヒューティエップ湖の周囲はこういった建物が並ぶ。こう見ると建物は新しいので、やっぱり埋め立てられたのではないかと思ってしまうが、実際どうなんでしょう。
墜落現場にはこういった建物の間にある小さな路地を入って行く。こういう大通りに対する路地はタイではソイというが、ハノイではンゴー(Ngo)という。ちなみにホーチミンではヘム(Hem)と呼んだり、サイズによっていろいろな呼び方があるらしい。
ンゴーの中はこういう雰囲気で、ここに住んでいる人しか入れない威圧感というか拒否感がある。これこそが、ボクが墜落現場ではなく周辺をおすすめする理由だ。
ホーチミンの場合、ヘムの中にも外部の人向けの店がある。2011年は基本的に表にしか店がなかった。しかし、ネットが発達して集客の方法が変化して店を表通りに構える必要がなくなってきたことで、近年はホーチミンでは路地の奥にも多数の店がある。
しかし、ハノイは基本的には裏路地は住民のための場所で、部外者が入るにはちょっと躊躇ってしまう空気を感じる。だから、なかなか裏を見る機会がないのだが、ここならじっくりと、堂々とンゴーの中を散策できる。
ボクはここを初めて通ったとき、インドはガンジス河の聖地バラナシの街を思い出した。川沿いの住宅密集地はこういった狭い路地に商店が並んでいて、陽の当たらない感じとか、バラナシのような印象を浮けた。
こういった路地は地元民の体臭が香るような雰囲気があって、まさにベトナムといった感じだ。バラナシなら路地を牛が塞ぎ、上からゴミが降ってくるが、ここはそんなことがないので、安心して歩けるのもいい。
ものすごく背の低い門などもベトナムっぽくていい。こういう感じを見たいのだが、なかなかハノイではみつけられない。そもそもこれはなんなんだろうか。全然憶えていない。廟みたいなものか、墓みたいなものか、あるいは普通に住宅だったのか。
道端では貝を売る人がいた。道で洗面器に入れるだけで商売が始まっている。こういう感じも日本では見かけない光景なので、海外っぽさが強い。
売っているのはなんだろうか。タニシのような巻き貝だった。ベトナム人は貝類をよく食べるので、こういう道端での売買でも需要があるのだろう。
別の店では小魚を売っていた。日本人の感覚からすると、こんなの食べて大丈夫なのかと思うが、買う人がいるから売っているのだと思う。
これはサンマのように見える。イカが売られていた形跡があるが、すでにほぼ完売だ。やっぱり需要があるのだ。
今のベトナムはバイクが多いが、自転車も健在だ。なんかレトロなのか新しいのかよくわからないデザインの自転車を所有する男性が金持ちに見えてくる。
ハノイではないが、港湾都市のハイフォンにボクが子どものころにみんなの憧れだった、ふたつめライトにセミドロップハンドル、車みたいな変速ギアのレバーほか、いろいろなギミックがついている黒い自転車が売っていた。今調べたら、ジュニアスポーツ自転車というジャンルだったらしい。それがベトナムで売っていたので、買ってタイに送ろうかと思った。
表のヒューティエップ湖からまっすぐ歩いてくれば10分もかからない辺りにB52が墜落した池がある。一応、こういった記念碑も建っている。
しかし、残っている残骸はこれだけだ。一説では墜落後、あるいは戦後に困窮していたころ、近隣住民が現金を得るために残骸の鉄を盗み、売ってしまったという。それでこれしか残っていない。
世界三大ガッカリがシンガポールのマーライオン、ベルギーの小便小僧、デンマークの人魚姫だという。しかし、ボクとしてはマーライオン、札幌の時計台、そして残りにこの池を入れたい。
墜落の池の向かい側にも小さな池があった。こういう地元民の生活を垣間見られる点を考慮できるなら、世界三大ガッカリは返上でもいい。
自宅前がこんな雰囲気なんて、なんかいい家だなとボクは思う。住みたいくらいだ。
釣りの仕方は国によって全然違うのもおもしろい。この人の釣り竿は一見リールのようにも見えるが、ラインは糸巻きの筒についたままで、手でぐるぐる回しながら巻き取っていく。画像はないが、針も4方向だったか6方向に出ている、変わった形をしていた。
B52の爆撃は、我々日本人にはB29の空襲を思い出させるので他人事には感じられない。とはいえ、墜落現場は池がある程度の大したスポットではないのも事実だ。ここを訪れる場合は、その往復の道中で見られるものを大切にしたい。