手懐けるにはコツがいる(途中)
手懐けるにはコツがいる
こいつにどんな音楽を聴かせても
激しさを増して荒れ狂うばかり
周りでそよぐ雑草でさえ眉をひそめて
唸り声を上げる
じゃじゃ馬め
*****
テンポよく心臓を踏み鳴らす靴底
勢いよく前へと進む
飛沫をあげて纏わりつく水気を弾く
澱みが透き通るほどに激しく
*****
ほら、これもそうだ
糖衣で誤魔化している
真っ白い魔物の姿
迷いの森の中
一つ一つと落としてゆけば
道に迷わぬ代わりに
光からお前を遠ざける
正解がある
正義がある
ぽつりぽつりと灯った朧げな外灯は
近寄る蛾を残らず焦がす
親しみに似せて作ったという明かり
あそこに笑顔がある
ほら、人間がいる
*****
重力のなすがままに
*****
ベッドが生ぬるい
午前はあっという間に溶けて消えた
耳を澄まして拾った呼吸の音は
もう幾つかしか覚えていない
陽は平等に照らし出す
影も隠したい過去も
通り過ぎたままにしておけばよかった
歩みを止めてもなお進もうとする一夜を
*****
隅の欠けたガラスを撫でて
自分を薄く傷つける
幾重にも敷かれた私という層
つまんで鼻をかんで捨てるほど蓄えた
私は私だ、それとも違う人間か
*****
眠りにつく
ささくれ立つ神経に薬を嗅がせた
倒れる姿は見事に美しいものだ
陶酔にも似たその動き
*****
燻んだ硝子に映した指は
やっと一つの色に落ち着いた
複雑なものは執拗に答えを欲しがる
*****
浮かび上がる足元をたしなめる
静かにして、と
そうじゃないと何も聞こえなくなる
純にも研ぎ澄まされた声が
*****
馬鹿にされたくないために
鍛えたこの心も
*****
幻の中に棘を探し
それに自ら触れ
痛い、と叫ぶ
誰からも言われていない言葉で
深く傷つき、涙を流す
*****
染み出す温もりが包み込んでくる
*****
消えたはずのビー玉が
排水口の底で溶け残った
流れに身を任せても
置いてけぼりをくうのは分かってた
はじめてかもしれない
変わらずにいてくれるものは
もう残り少ない
だけど溶け残ったビー玉は
いつまでも冷たく、淋しく
そして美しいままだ
*****
存在価値
在ること、その意味、値段
守ってくれるものの喪失
煌めく夢の痕跡
自分の価値を探している
草の根を掻き分けて
石ころ一つの裏を覗いてでも
暗い物陰に潜んでいるかもしれない
怖くて隠れているのかもしれない
弱々しい存在となった自分の価値を
水滴一つで滲んでしまいそうになったその価値を
必死の思いで見つめ返す
虚なまなこで私のことを探しているのに
それに気付けないなんて
そう自分を責め立てて
また自分という器の正体を見失う
巡っては繰り返す痛み
こだまになって飛び交う言葉
名前は意味を為さなければ雑音となり
小さくなってやがて消える
慰めが欲しいのか
影に形が欲しいのか
もう一度生まれたいのか
もしくは全く別の何かに変わりたいのか
価値を自らで産めない体は
もう救いようがないのか
繰り返し、教えてみよう
名前のありかを
体がどう動くのかを
繰り返し、数えてみよう
*****
喜びたいのか
*****
白い飴玉を手のひらに落とす
"転がり落ちたら負け"
そして床から拾い上げたその甘味を
親指と人差し指はどう思うのだろう
綺麗に諦めたかった
さすがだと思った
*****
ネガティヴも人の一側面
人を構成する重要なファクター
ネガティヴは生きる上での覚悟を産む
*****
干からびた花びらを捨て去って
転がり落ちた黒い種
物陰に隠れる様に根差した体は
とうとう腰が砕けて朽ち果てた
あたりの明かりを吸い取って
下へ下へと根付く種
暗がりの形を手探りで確かめる
結局
*****
ネガティヴも必要
忘れずに、大切に持っておきたい
自らを傷つけ貶めるが
上手く操れるようになりたい
そうすれば創造性に繋がる
ネガティヴに人は操られやすい
じっくりネガティヴの重力に従い沈んでいきたい
時間をかけてネガティヴを味わいたい
ネガティヴは人を乗っ取りやすい
ネガティヴと共に成長したい
ネガティヴは思考を遮るのか?
ネガティヴは視野を霞ませるのか?
ネガティヴに乗っ取られない様にしたい
*****
(meridian)
足取りは緩やか
物音から逃れて忍び込む
両手で屋根を形どる
こんな風に宿れる隙間があれば
うまく息が続いたのかもしれない
ひっそりと茂る
雑草すら光に枯れていく
振り返ってみて欲しい
本当に失うものなど無かったのか
あれは捨てていいものだったのか
*****
ありのままが愛されることはない
ありのままが愛されるはずがない、と
ありのままを愛すること
ありのままを愛することって難しいと思う。
気付かぬうちにこうあって欲しいと相手に思ってしまう。
自分が望む鋳型に相手を押し込めてしまう。
いつも通りでいいよ、と言いながら。
*****
初めてなのは
あなたも一緒だった
*****
ありのままを愛するのは絶対に不可能だと気づいた
人にこうあって欲しい、こうなって欲しいと
自分の都合のいいように人を変えたがる
だから諦めることは人を自分から解き放つことかもしれない
これは失望からか?再びその人を愛し直すことは可能か?
相手を諦めた後に、その相手を再び愛し直すことは可能か?
ありのままを愛するということはつまりそういうことだと思う
諦めた先に何がある?
結局自分の都合のいいように周りを変えたがる
誰もありのままを愛せない
そんなことを誰もがもう知っていて
だけど、いつも通りでいいよ、と嘘をつく
動かないものを動かそうとして
人を傷つけ、自分を見失う
*****
時間が早く過ぎてよかった
*****
かじかんだ手に
無理な温もりを注げば
霜焼けが痛むに決まっている
なのに、でもなぜ
温めることが最善だと
信じてやまないのか
指先はもうこんなにも
その感覚を失っているのに
みじろぐ手は
望んでいなかったその結果に
*****
幸せを感じれば感じるほど
幸せを受け取りたがる懐が広くなる
幸せを受け取れない箇所は途方に暮れ疑問する
なぜ幸せに選ばれなかったのだろう、と
そしてあれこれ思案して
原因を自他に求める
自分を傷つけ、あるいは人を罵って
*****
ささやかな喜びを
ささやかな笑いを
*****
キスをすれば
そのまま離れなければいい
*****
味わえば味わうほど
元の味じゃあ物足りなくなる
次を欲しがり
得られないのを悔しがる
得られない自分を責める
得られない責任を人に押し付ける
足りない自分を責め
足りない原因を人に追及する
控えめが欲しい
少なめが得たい
大袈裟じゃない方がいい
ささやかな幸せでいい
静かな木陰でいい
小さな声で構わない
*****
味わえば
味わうほどに
味わえず
渇いたままの
舌がうそぶく
*****
大袈裟で
ない方がいい
しあわせは
ささやかでこそ
喜びが増す
*****
得ようとすれば
無限に欲しがる
どこまで欲しいかを自分で決められればいいのに
どこまでが
いいかを決められたらいいのに
保持する良さを
*****
何もないことがこんなに重たいとは
*****
枯れ上がった空の耐えきれない重さ
*****
あられもない裸の腕で掻き回すも
擦りひとつすらしないほどの青い空に
まるで責められているように感じる時
*****
あなたと
永遠に終わらない鬼ごっこを繰り返す
追いかけても追いかけても
捕まえられない捉えられない
あなたは立ち止まってくれないから
私は走るのをやめられない
あなたにただ付いていくことしかできない
*****
変わり映えしない空気
今日も同じように時間が過ぎる
陽は昨日と同じ場所に影を差す
注げばいいじゃないか
鋳型の中へ
それを拒むかの様に舞い立つ火花を
払いのければいいだけのこと
*****
今日という日もまた地平の奥へ沈んでいく
七日の記憶も形を留めぬまま
目にも止まらぬ速さで
次の未知へと、次の既知へと
捨て去れぬ意地と、ありもしない意気地と共に
*****
本当はそんなこと分からない
誰にも分かるわけがない
辛さなんて誰にも分からない
*****
そこまで言うのなら
鏡を一度見てみればいい
お前の真正面に浮かぶ顔は
何を忘れ去ってきたのか
何を置き去りにしてきたのか
*****
電車の隅の席が好き
*****
音楽
隙間を縫ってくれてありがとう
だらしなく開いた空間には
ほとほとうんざりしていたところだった
隣にいてくれてありがとう
*****
明るい声で罵って
明るい顔して咽び泣いてみせて
*****
幸せはそこにしかない、みたいな言い方しないで
いろんな生き方が許されるべき
*****
何も気にしない強い心が欲しい
粉砂糖のように何もしなくても溶けていく
そういう心が欲しい
*****
今の心の姿を言い当てる歌は存在しない
こんな、生きづらいだけの鎧なんて捨ててしまいたい
だけど、捨ててしまえばそれはもう、死ぬということなんだろう
*****
存在意義を増やしたら
いつか存在意義に潰される日が来るのではないか?
*****
こんなので働いていけるのか
行っては戻っての繰り返し
経験だけが積み重なって
体を重く沈ませる
自分にかけるハードルは低くなるけど
高いハードルには前よりも辟易するようになった
自分に甘く構えるほど
自分のできなさに辛くなる
いつかはきっと、と思えなくなる
希望は消えて無くなっていく
早く人生に終わりが来ればいいのに
辛いばかりの世の中は嫌だ
終わりが来ればいいのに
許す自分を許せなくなるのはもう嫌だ
終わりが来れば
*****
自分が損なったもののように感じる
*****
誰かに助けてもらいたいのかもしれない
*****
やめておいた方がいい
悩みは底なしだよ
悩みは掘れば掘るほど現れる
悩みたい人は永遠に掘り続ける
解決策を傍に置いてでもね
苦しむ人は苦しみ慣れているから
苦しまない環境を想像できない
だから想像しやすい環境を求める
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自分に優しい声をかけるのは
また別の力がいる
力を養うのは安らかな場所だ
自分が自分自身でいられる貴重な場所
なんの根拠もない"大丈夫"も
ここでなら自分に呟ける
それだけで本当に大丈夫になる
不思議だけど
普通ならそれでも大丈夫になれない自分に絶望するところだけど