今、訃報を知った(途中)

(みずきへ)

今、訃報を知った
私たちの知り得ない世界で生きていた君
横たわったその姿はいつもの顔つきをしていた
しかし、私たちには見せた事のない表情をするのだという

今、訃報が届いた
私たちが想像できないほど遠くを旅していた君
私たちを煙たがっていたそのぶっきらぼうな頬は
仲間達の間では親しみと優しさを滲ませていたという

英雄だったという君は今、
様々な騒音を隔てた距離の向こう側にいる
もしくは、目には見えない無音の海底に
もしかしたら、わずかな期待すら許されないかもしれない
けれどももしかしたら、呼べば返事が返ってくるかもしれない
空気は依然として分厚く、
何も無いかの様に透明なままだ

君が住処に選んだ世界では
一つに没頭できる人間は強いのだという

君が生きると選んだ道では
孤独を味方につけると強さに変わるのだという

君が闘い続けた足跡には
挑んだ岩に砕かれ貫かれた痛みではない、
岩に形を成した一滴の雫の辛抱を知った傷跡が残るのだという

知らなかったということは
恐ろしく愚かしいことだ
だから、ごめんなさい
知らずにいたということは
陽のぎらつきを一身に背負う、焼け爛れた君の姿を
二度と白い壁に刻めないということだ
ぶつかり合う電撃の中にのみ開花する火花を湛えた君の命を
一切無駄にしてしまったということだ

さて、君をどこまで追いかけたなら
この果てしのない距離は縮まるのだろう?
追いかけるための跡すら残さぬ遠い君に
一体何がその影をここまで伸ばしてくれるのだろう?

いったいどこへ行ったのだろう
肉体は灰となった
ならば魂は?意識は?心は?
話しかければ言葉が返ってくるかもしれないとかぶく、この眼に見えない無音の距離は?
しかしこのままでいいんだと後ろから支えてくれる糧になることはきっと違いはない
思われ続ける頭の奥の方で
声を掛けたら返ってくるかもしれないと期待する空間の間で
君は生き続けるのではないか

君はそこにいる
あそこにいる
この中にいる
あの人の中にもいるかもしれない
ここにいるし
ましてやここから動こうともしないかも知れない
足跡に窪んだ岩の中にいて
また
滴り損ねた鍾乳石の形を借りながら

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