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「ブラックボックスシアター」とは?日本では馴染みがない劇場形式


ブラックボックスシアターとは、名前の通り「黒い箱」のようなシンプルな空間を指し、舞台と観客席の配置が自由に設定できるフレキシブルな劇場です。日本ではまだそこまで一般的ではありませんが、欧米を中心に多くのプロダクションで使用されている劇場形式です。ブラックボックスシアターは、演出家やパフォーマーにとって、自由度の高い創造的な空間を提供し、従来の劇場とは異なる観劇体験を可能にします。

ブラックボックスシアターの特徴


ブラックボックスシアターの最大の特徴は、そのレイアウトの自由度です。通常、劇場はプロセニアム型という舞台と客席の関係が固定されたものが多いですが、ブラックボックスではその制約がありません。
観客席や舞台の配置を自由に変更できるため、作品ごとに異なる劇場空間を作り出すことができます。

ブラックボックスでは、演出家が空間全体を使って物語を展開することができ、客席が舞台の周囲を囲む形や、観客がステージの一部になるような形式まで、さまざまな配置が可能です。これにより、観客は舞台の異なる側面を様々な角度から見ることができ、作品に対する理解や感情移入がより深くなります。

また、ブラックボックスは照明と音響の使い方が重要な要素となります。シンプルな黒い空間だからこそ、光や音の効果がダイレクトに観客に伝わり、感情や物語の動きが強調されます。このように、シンプルな空間の中で、演出家やパフォーマーが創造的な自由を発揮できることが、ブラックボックスシアターの大きな魅力です。

プロセニアム型シアターとは?


一方、ブラックボックスシアターと対照的なのが、プロセニアム型劇場です。プロセニアム型とは、舞台と観客席の間に「プロセニアムアーチ」と呼ばれる額縁のような構造があり、観客は舞台を一方向から鑑賞する形式です。このタイプの劇場は、観客と舞台の距離が一定で、主に視覚的な観劇体験が重視されます。

プロセニアム型では、舞台の正面からのみ作品を見ることになるため、観客の視点は固定されます。この形式は、映画のスクリーンのように舞台全体をフレーム内で見る形で、舞台のデザインやセットに統一感を持たせることができます。劇場自体が大きいことが多いため、豪華なセットや大掛かりな照明を用いた大規模なパフォーマンスに適しています。

ブラックボックスシアターの歴史


ブラックボックスシアターの歴史は20世紀初頭に遡ります。
特に1960年代、実験的な演劇が隆盛し、従来の舞台設定に囚われない新しいパフォーマンス空間が求められました。
欧米では、前衛的な劇団や演出家たちがブラックボックスシアターを使って創造的な挑戦を行い、観客に新しい観劇体験を提供しました。この劇場形式は、狭い空間でも自由な表現が可能であり、実験的な演出や小規模な作品にも適しています

私のブラックボックスシアターでの経験


私自身、マサチューセッツ州のフランクリンThe Black BoxケンブリッジのArrow Theatreという2つのブラックボックスシアターに出演しました。
それぞれの劇場では、作品ごとに全く異なる空間が作り出されており、ブラックボックスのフレキシビリティを最大限に活かした演出が行われました。

フランクリンのThe Black Box

この劇場では、『リトルマーメイド』『ブライトスター』『ターザン』という3つの異なるショーに出演しました。
全く異なる作品にもかかわらず、ブラックボックスならではの自由な空間設定が毎回行われ、観客は毎回新しい視点で作品を楽しむことができました。例えば、ある公演では観客席が舞台の左右に配置され、別の公演では中央に舞台が配置されていました。

Tarzan
Bright Star
The Little Mermaid

ケンブリッジのArrow Theatre

Arrow Theatreでは、オペラ『星の王子さま』にゲストアーティストとしてパフォーマンスを行いました。
この劇場では、観客との距離が非常に近く、俳優の細かな表情や動きを観客が直に感じ取れる環境が整っていました。
このような空間でのパフォーマンスは、より一体感を持たせる効果があり、観客と俳優が一つの世界を共有するような感覚を体験できました。

日本でのブラックボックスシアター


日本ではまだあまり知られていないブラックボックスシアターですが、若手の演出家や実験的なパフォーマンスを行う劇団によって少しずつその魅力が広まりつつあります。多くの日本の劇場はプロセニアム型ですが、ブラックボックスのような柔軟な空間が提供できる劇場も増えてきており、特に現代演劇やダンス、パフォーマンスアートの分野で注目を集めています。

ブラックボックスシアターのメリット


ブラックボックスシアターの大きなメリットは、創造的な自由度です。
演出家やパフォーマーは、劇場の空間全体を使って物語を描くことができ、舞台の設計や観客席の配置を工夫することで、観客に新しい観劇体験を提供することができます。特に、観客が舞台の周囲を囲むような形式では、物語の異なる側面がそれぞれの角度から見えるため、より立体的な作品の鑑賞が可能です。

また、観客にとっては、パフォーマーとの距離が近いため、より親密な空間で演技や物語を体験できるという利点があります。特に、感情表現が強調される場面では、ブラックボックスの小規模で親密な空間が大きな効果を発揮します。

結論


ブラックボックスシアターは、日本ではまだ一般的ではないものの、欧米では広く使われている劇場形式です。
そのフレキシブルなレイアウトと創造的な自由度が、演出家やパフォーマーに多くの可能性を与え、観客にも新しい観劇体験を提供します。
これからの日本の演劇シーンにおいても、ブラックボックスシアターが持つポテンシャルが注目されることが期待されます。

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