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金沢に行ってきた

この2月22日から23日に金沢に行ってきた。
以前からイヴ・クラインの展示が気になっていたので、行けたらいいな、ぐらいに思っていたのだけど、たまたまこの時期に時間が取れたのと、ちょっと気分を変えたい気持ちもあったので。
以下はそのメモ。
まとまった記事ではないけれど、よかったらどうぞ。

1日目

今回、安かったので飛行機を利用した。自宅からの移動時間は同じぐらいだった。
利便性でいったら新幹線のほうがいい。ゆっくり座って朝ご飯を食べながら行くのは、初手から旅行モードに切り替わる。
飛行機を利用すると本当に移動の感覚でしかない。朝から電車、飛行機、バスと乗り継ぐのは慌ただしいし、旅情も生まれない。ただ、飛行機からの眺めは普段見ないので気分がいい。冠雪した富士山や、白い山々はとても綺麗だった。

金沢に着いたのは昼までもうすぐという時間だったので、そのまま回転寿司に入って昼にした。
金沢なら海産物、海産物なら寿司、という安直な発想である。
どの店もノドグロ(アカムツ)が名物としてピックアップされていた。
美味しいものにもタイミングがあると思うのだけど、今が旬なのかどうか知らない(調べたら秋の魚だそうだが、味は一年を通して落ちないらしい)。その辺りが非常に疎く騙されやすいが、騙されていても気付かないくらい味覚に自信がない。だから売り口上に乗ってホイホイ頼んで、美味しい美味しいと言って食べてしまう。単純にできている。
ひとり旅の楽なところは、そういうところを指摘してくる小うるさいグルマンがおらず、蘊蓄を聞く必要もないし、あれこれ意見を言い合うこともないことだろう。気分を害することもなく、自分でコントロールできる。

サッと食べて、金沢21世紀美術館へ。
クラインの展示については、出発の前の日、大学の恩師がfacebookにケチョンケチョンに書いていて、行く前から気持ちでつまづいていた。観るにあたって、少しだけその影響があったはず。ただ、観たら観たで楽しめた。
他人の文章なんて所詮他人のモノで、他人の視線を覗き見ているわけではないのだ。
以下、雑感をメモしたもの。

  • クラインは日本に滞在していたことがあって、柔道では黒帯をとったとか、薔薇十字団に入団していたとか、プロフィールを掘り下げる感じもあったけど、彼を中心とした影響関係のほうがメインに据えられているように思えた。

  • 例えば具体美術協会と同時代で関心もあったことから共通点も多い、という指摘。それゆえ、白髪一雄や元永定正と並べていた。また、フォンタナ、草間彌生なども併置されていた。この展示の主張なのだと思うが、少し安易に思えた。しっかりした繋がりを証言するのではなく、匂わせる程度に終わっている。

  • 「人体測定」の動画が上映されていた。あのパフォーマンス中、モデルたちはクラインに敬意を払った上であれをやっているんだろうか、それともこれはなんなの? と思いながらやっていたんだろうか? クライン自身は指揮者として何を考えていたのか? 絵具は、体の跡が残る程度に塗ってください、というような指導があったのだろうか?

  • キャプションには、「身体、物質、空間」とか、「金、青、薔薇色」、「精神、空間、生命」と、3つの構成要素がたびたび目についた。それを3つの頂点とした三角形とした際、彼は、その中にあるブランク、「空虚」さを作り出そうとしたかったように思えた。白い部屋の展示。非物質化された空間。

  • その空虚を見出すための制作。どうあっても己の身体性から逃れられない感覚。そんな意識はあったのだろうか。彼は早逝しているが、自殺にまで想いが至らなかったのは、非物質的を求めていたからだろうか(完全な無ではダメで、生きているにもかかわらず物質としての存在はない状態)。

  • 本を紐解くに尽きる。

金沢21世紀美術館の中は写真撮影している方が多く、ブラブラしているとバツが悪くなる瞬間がある。彼等だけの瞬間に、僕なんかが映り込んでしまわないかと不安になる。
撮影場所を見つけようと、彼らは行ったり来たりしていた。目ざとい。同じ目があれば、邪魔しないよう、そういった場所を避けて歩くことができたのに、と思う。
タレルの部屋は逃げ場もなく、ポーズをとっている最中に入ってしまった。SANAAチェアは、座って撮るために並んでいた。ペイントされた壁や、光が映り込んだ白壁なども背景にしていた。
入場するだけなら料金がかからないからか、この美術館の敷居はとても低い。建物の構造もあるんだろう。上野の美術館ではこれがやりにくい。

金沢21世紀美術館を後にして、チェックしていた古本屋に行った。
ウェブで見た店内風景とずいぶん違うので戸惑った。整理が追いついていないのか、買い取った本が積まれている場所がほとんどで、棚を見て歩くことができなかった。というか満足に棚を見ることができなかった。倉庫として利用している店舗なのかもしれないが、ともかく話が違う。
よせばいいのに、別の店舗(2店舗あるのだ)にも足を伸ばしたが、こちらは前の店舗よりは整理されていた。が、目ぼしいものはなく無駄足を踏んだ。

金沢駅前まで歩いて戻って、ホテルにチェックインしてから再び回転寿司へ。今日は寿司の日とした。
小上がりの席になると言われてOKしたところ、8人ぐらいで使う卓を1人で占領することになった。広々とした席は逆にリラックスできず、そそくさと出てしまった。
これならテイクアウトにして、部屋で食べたほうがよかった。

2日目

朝食のビュッフェで食べすぎてしまった。
その結果、昼を抜くことになり、金沢最後の食事が休憩で入ったスターバックスになり悔やむことになるのだが、そのぐらいの心残りがあってもいいだろう。
完璧にスッキリこなした旅は、自身の計画に安堵するだけで、むしろ何も残らないかもしれない。

思い付いたのが、石川県立美術館と国立工芸館ぐらいだったのでそこへ向かった。
どちらも、昨日行った金沢21世紀美術館から歩いてすぐのところにある。
思い付きは、己の了解している範疇に限られるので、見知った、なじみある回答に行きつきやすい。思い付きで、思いがけない何かに出くわすこともあるかもしれないが、自分の持つ思考経路は思いのほか強い。そんな何かに出くわしていても通り過ぎることも多く、気付いていないかもしれない。

県立美術館の常設展示「音楽と舞」と題された小特集がなかなかよかった。
音楽や踊りが持つ感情を揺さぶる高揚感は、画家や彫刻家にとっても魅力的で、それをどうにか捕まえようとしている。
工芸館の「工芸館と旅する世界展―外国の工芸とデザインを中心に」もよかった。
タイトルのとおり、世界の代表的な工芸品(やデザイン)を紹介するような展示で、気楽に見られ、展示されていた作品もバラエティに富んでいた。
そこではルーシー・リーの作品を久しぶりに見ることができた。
いつ見ても魅力的だ。あのピンクとグリーンが程よく共存して落ち着いている感じはとてもいい、と見るたびに思う。

金沢では、観光地への移動はバスが便利で、両日乗った。
バスの降車ボタンを押すことが出来てとても嬉しい。

金箔ソフトクリームののぼりを見かけるたびに、頭の中で「ゴールドフィンガー」のテーマが流れた。
映画では、殺された美女が金粉に覆われてしまう。金箔で覆われたソフトクリームは映画に出すにしてもリアリティがない。

先の通り、くたびれて金沢駅前のスターバックスで休憩した。コーヒーと甘いもの、そして読書。
わざわざ遠方へ行ってまで本を読むのだから贅沢な旅だと思う。
旅行に持って行く本は、すんなり読めて気持ちを邪魔しないエッセイなどがいいと思っている。少なくとも自分と相性のいいモノがいい。旅行先で勉強するわけではないし、必要に迫られてする読書ではない。
今回持って行った本は、藤本和子『イリノイ遠景近景』。100ページも読めなかったが、さまざまな思いを巡らせることが出来た。
旅行先での読書は、脳が活性化しているのか、いつもより変な理解をすることができる気がする。
彼女自身の視線は変わったものではなく、独特な考え方があるわけでもない。文章の癖もあまりない。日常を過ごす中で直面したことを丹念に言葉に起こしている。共感することもそうでないこともあるが、何か特別なことのように表すのではなく、心情に沿った肩肘の張らない文章は親近感がわいてくる。読書の感覚が心地いい。
今回の旅行も、身の丈に合ったものであった。大きな目的はあったものの、肩肘を張らず成り行きに任せるようにした。おかげでいい気分転換になった。
自身で考えられることは限られており、その中でウロウロしただけだが、結果的にとてもリラックスできた。欲をかかずに、体力や見えているものに従ったためだろう。チェックシートのブランクを埋めるような観光は、いまは気が向かない。
半面、いまのぼくにはこのあたりが限界なのだな、という事も分かった。それはなかなかの収穫だ。今後背伸びをするかどうかは、また後で考えればよい。

窓際の日差しが強くなってきたので外に出た。
帰りのバス(小松空港行き)の時間までブラブラすることにした。どこか目的地を定めるとソワソワするような時間しかなかった。
駅前の、地元に人たちが買い物をするようなところに入ると、見たことのあるお店のラインナップに気持ちが落ち着いた。

最後に歩き回ったので、小松空港に着くころにはすっかり空腹になっていた。
前の便が30分遅れとかで待合室が混んでいたから、空港の売店では買う気にはならなかった。
こういう時ラウンジが利用できると楽なのかと思ったが、出入りする人の隙間から見えた内部はごった返していた。
そのまま帰宅。お土産として買ってきた蒲鉾を食べながらビールを飲んで、すっかり日常に戻った。

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