受付のお局、小鹿みたいな店員。
脳疲労の多い金曜日、まだ少し作業は残っていたが定期通院があるので強制的にパソコンを閉じる。週明けの自分に期待を託す。主治医と復職してからの日々を話し、順調ですねと言われる。この人は自分が何を言っても否定しないので、もし「やっぱりまだ無理でした」と言ってもそうだねと頷いて診断書を書くんだろう。否定されるよりいいか。今まで飲んでいた薬は引き続き飲み、年明けくらいから徐々に量を減らしていくことになった。次回の診察日を決め会計を待つ。
クリニックの受付には女性の職員がいつも3人いる。大して広いわけでもないのに随分手厚いなと思っていたが、時々職員さんが付きっきりで対応しないといけない患者さんが現れる。そんな時自分のように定期的にサッと行ってサッと帰るような患者がスムーズに診察と会計を済ませ、より丁寧なケアが必要な人に時間を費やせるような工夫なのだろう。
この女性職員たちの人間模様を観察するのは通院の些細な楽しみで、3人の力関係は確実に対等ではなく、おそらくベテラン枠であろう職員Aのお局っぷりはカウンターを隔てた患者側にもうっすらと伝わるものがある。自分が通い始めた頃からまだ一年くらいしか経っていないがAは随分と幅を効かせた態度を取るようになった。Aのお局ぶりが原因かは他の職員たちの入れ替えは激しく、新人さんと思しき人にAが温度のない声で予約や診断書の対応方法を教えている様子をよく目にする。狭い受付カウンターの中は、自分が感じるよりもずっと濃い人間模様が繰り広げられているのだろう。
会計を済ませて薬を受け取り少し歩く。在宅勤務でデスクワークをしてると部屋の中しか歩かないので1日の歩数が76歩、みたいな事態になる。歩くと血流が良くなり自律神経も整うので、晩御飯の店を探しがてら無作為にあちこち曲がって歩く。夕方ごろから焼肉の気分になっていたので適当な店を見繕い入ってみる。四人掛けのテーブルに一人で座り、隣の卓は大学生っぽい青年たちで盛り上がっていたが気にせず一人の時間を過ごす。一人で焼肉屋に行くのはたいして抵抗がない。一皿の量が多いので色々な肉を頼むのは難しいが、さほど食通でもないのでとりあえず肉を食ったという感覚に浸れれば満足できる。焼き奉行でもないのであっさり系のタンとタレ物のロースを交互に焼いたりする。多分こういうのをひどく嫌う人もいるんだろうなと思いながら、うるせーうるせーと肉を焼く。フロアの店員はおそらく学生なのか、ずいぶん若い青年で黒目が大きく潤んで小鹿みたいな雰囲気を纏っていた。愛想はとても良くて好感が持てる。
肉を焼くことでしか得られない多幸感みたいなものがあると思う。一人で食べても焼肉はうまいし、一人で飲んでてもビールはうまい。この金曜日は俺だけのものなのだ、と軽く酔った体で幸せに浸る。そういえば今日ほとんど人と会話を交わしていない。金曜の夜を誰かと過ごしてたら、受付にお局がいることや店員が小鹿みたいな顔をしてることに気づいただろうか。
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