公的財源によるまちづくりとガバナンス:長門湯本温泉の事例
はじめに
まちづくりにおいては様々な財源が必要となるが、その中でも景観保全やインフラ整備といった公共の財産に関する投資が必要となる場合には、公的財源の確保が課題となることが多い。
そして、観光地における公的財源の確保としては、法定外税の導入や分担金・負担金の制度導入等が考えられる。上記の財源の中でも、宿泊税の導入は多くの地域で検討が進んでいるが、これは、京都市や金沢市、倶知安町(ニセコ)といった有名観光地で実際に導入されたことが影響していると考えられる。
なお、個人的にはBID/TIDといった名前で知られる分担金・負担金が今後の観光地のまちづくりにおける公的財源として優れているのではないかと考えるが、現在は法制度が追いついていないこともあり、まちづくりへの活用は限定的である。こうした財源の特徴や確保方法については、観光庁が「観光地域づくり法人(DMO)における自主財源開発手法ガイドブック」としてまとめているため、詳細な説明は割愛する。
宿泊税等を導入する際においては、目的税として導入されることが多いことも影響して、その使途は条例において一定程度限定されていることが通常である。しかし、一度宿泊税が導入されてしまった後、その財源使途に関する民間側からのコントロールは曖昧になってしまう。BID/TID等の分担金・負担金であれば、負担者が事業計画の承認を行う等、最終的なコントロールが民間側にあるが、宿泊税は税金であるため、予算の決定は議会の議決に左右される。
本Noteで取り上げたいのは、こうした公的財源の活用に関するガバナンスである。まちづくりで活用していくことを目的とした際、ある程度の柔軟性は必要であるため、行政或いはまちづくり団体に一定の裁量を与えるべきである一方で、そのコントロールの仕組みも必要とされる。
財源の基金化
公的財源の活用を考える上で、基金化は多くの地域で取られている手段である。ここでいう基金とは、地方自治法241条における基金を指す。
基金化の目的の一つは、単年度主義への対抗である。単年度主義とは、会計年度ごとに予算を編成し、当年度の支出は当年度の収入で賄うべきであるとする考え方であり、基本的に自治体はかかる原則に縛られている。
しかし、まちづくりは中長期的な取り組みが大半であり、財源の活用にあたっても複数年度にわたって機動的な支出が求められる。そこで、自治体として求められる単年度主義に対抗するために、財源の基金化が必要となるのである。
ただし、基金化にはもちろん欠点も存在する。機動的な支出は可能になるものの、その管理や使途などの面で規律が働きにくくなる恐れが伴っているという点である。
長門湯本温泉における取り組み
さて、こうしたまちづくりのための基金活用であるが、長門湯本温泉における取組みが参考になると思われる。長門湯本では、宿泊税ではなく、入湯税の嵩上げという手段によって財源を確保している。入湯税の嵩上げによる財源確保という手段自体は、いくつかの温泉地(阿寒、鳥羽、別府等)で取られている手段であるが、長門市長門湯本温泉みらい振興基金条例で定められているとおり、いくつか特徴的な点がある。
まず、積み立てられているは、嵩上げされた分の入湯税150円分である。なお、長門市において入湯税の嵩上げがなされているのは、長門湯本温泉に限定されている。
そして、積み立てられている財源の使途については、以下のように制限がかかっている。一定の目的に限定することは多くの地域でなされているが、処分に際して特定の委員会に意見を聞かなければいけないという仕組みを、条例レベルで規定している地域は珍しいと思われる。
さらに、上記の委員会について、規則でさらに詳細が決まっている。興味深いのは、会議について公開を原則としており、実際にYoutubeで会議の様子をアップロードしているという点である。通常こうした会議を見ることができるのは一部の人であり、その内容も議事要旨という形でまとめられてしまった後に公開されることが多い中で、原則公開という姿勢は、それ自体がまちづくりに関わる人の信頼を獲得する有効な手段だと考えられる。
公的財源によるまちづくりとガバナンス
宿泊税といった公的財源は、負担者(宿泊客や宿泊事業者等)と利用者(自治体等)が異なっているため、その活用のコントロールが課題となる。導入の際に地域に対して説明があった使途とは、全く異なることに使われているということもあり得るのであり、特に導入から一定の期間が経過した後はそのような可能性が高くなる。基金条例等においても、観光目的に使途が限定されていることは多いが、観光目的は非常に幅広い概念のため、コントロールの実効性という意味ではあまり意味をなさない。
一方で、まちづくりは機動的な対応が求められる領域であり、導入の段階であまりにも詳細な形でその使途を設定することも難しい。計画策定と紐付けて、宿泊税等の導入が検討されることもあるが、コロナ禍に代表されるように、長期的な計画では予測されないことが起こることは容易に想定できる。
必要なのは、行政やDMOに一定の裁量を持たせながら、その裁量をチェックする仕組みである。長門湯本温泉の例は、その一例として参考になるのではないか。
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