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【中医基礎理論 第39講】 - 五行学説 - 相乗・相侮・母子相及は異常な関係

これまでに、五行の相生関係と相克関係について学んだ。

この2つは人体が正常であるために必要な関係性である。

何かのきっかけで、この関係性が崩れてしまったら人体に異常が生じる。

異常の関係性には「相乗(そうじょう)」、「相侮(そうぶ)」、「母子相及(ぼしそうきゅう)」がある。

相乗、相侮は相克の異常、母子相及は相生の異常である。

今回は、これら五行の病理関係について学んでいく。



五行の相乗・相侮

相乗

克する相手に乗り上げます

相乗とは「五行中のある一行が所勝に対し過度の克制をすること」だ。
*所勝とは「勝てる所」という意味。例えば「木」の所勝は「土」である。

つまり、相乗とは相克関係の異常である。
*相乗の「乗」は「凌ぐ、いじめる」という意味

そのため、相乗の順序は相克と同じで、「木乗土・土乗水・水乗火・火乗金・金乗木」となる。


相乗が起こる原因は2つ

木と土の相乗は日本人に多い


相乗が起こるパターンは「過多(太過)」と「不足(不及)」の2つがある。


過多パターン

過多による相乗とは、五行中のある一行が過度に亢盛することにより、限度を超えた克制が起こり、所勝の虚弱を生み出した状態である。

木と土の関係を例にみていこう。

何らかの原因で、木の力が過剰に増えたとする。

そうなると、木が土を過剰に制約する状態になる。

結果、過剰な制約を受けた土は傷つき弱まってしうのだ。


強いストレスを感じた時にお腹を壊すことがありますが、それはまさにこの状態だ。

これを五臓に置き換えてみよう。

ストレスによって、肝(木)が過剰に脾(土)を制約した結果、脾の機能が低下して、腹痛や下痢を引き起こしてしまう。

この状態を「木盛乗土(木が盛んになり土をいじめる)」という。

この場合は、過剰になった肝(木)のパワーを抑える治療をする。


不足パターン

不足による相乗とは、五行中のある一行が過度に虚弱することにより、所不勝の正常な克制に耐えられず、自身がより虚弱になった状態である。

これも、木と土の関係を例にみていこう。

何らかの原因で、土の力が弱まったとする。

そうなると、本来は何ともないはずの、正常な木の制約に土が耐えられなくなる。

制約を受けた土はさらに傷つき弱まってしまう。

これも五臓に置き換えてみよう。

脾が弱っているため、正常な肝の制約に耐えられず、結果的に脾の機能がさらに低下して腹痛や下痢を引き起こしてしまう。

この状態を「土虚木乗(土が虚弱になり木にいじめられる)」という。

体質的に胃腸が弱い人や、暴飲暴食で胃腸が弱っているときに、普段は平気なレベルのストレスでもお腹を壊すことがある。それはまさにこの状態である。

この場合は、弱った脾を補う治療をする。


パターンを見極める

相乗には「過多」と「不足」の2パターンがある。

これを間違えると大変なことになる。

なぜなら、治療方針が全く逆だからだ。

「過多」の時は「瀉法」といって、過剰なものを取り除く手法を使う。

もし、「不足」のパータンに対して瀉法をしてしまうと、ただでさえ不足しているエネルギーが更に不足してしまう。

「不足」の時は「補法」といって、足りないものを補う手法を使いるのだ。

一方、「過多」のパータンで補法をしてしまうと、ただでさえ過剰なエネルギーが更に増え、相手をより制約してしまう。

臨床では、しっかりと「過多」と「不足」を見極めて治療することが必要不可欠である。


相侮

勝てない相手に勝つ!

相侮とは「五行中のある一行が所不勝に対し逆方向の克制をすること」だ。
*所不勝とは「勝てない所」という意味。例えば「木」の所不勝は「金」である。

つまり、相侮は本来勝てない相手に勝ってしまう関係を意味する。

相侮も相克関係の異常でおこりる。
※相侮の「侮」は「なめる、いじめる」という意味

勝てない相手に勝つ関係なので、、相侮の順序は相克と「逆方向」で、「土侮木・水侮土・火侮水・金侮火・木侮金」となる。


相侮が起こる原因も2つ

下克上!

相侮が起こるパターンも「過多(太過)」と「不足(不及)」の2つがある。


過多パターン

過多による相侮とは、五行中のある一行が過度に亢盛することにより、所不勝が正常に克制できず、逆に逆方向の克制を受けた状態である。

う〜ん・・・日本語は難しい、笑

ここでは、木と金の関係を例にみていこう。

何らかの原因で、木の力が過剰に増えたとする。

そうなると、金が木を制約できなくなるどころか、逆に木から制約を受けてしまうのだ。

(下剋上みたい)

結果、制約を受けた金は傷つき弱まってしまうのだ。

強いストレスを受けた時に、咳き込んだり、呼吸が苦しくなることがある。それはまさにこの状態だ。

これを五臓に置き換えてみよう。

ストレスによって、肝(木)が過剰になり、本来勝てない肺(金)を制約した結果、肺の機能が低下して呼吸器症状を引き起こす。

この状態を「木盛侮金(木が盛んになり金をなめる)」という。

この場合は、過剰になった肝(木)のパワーを抑える治療をする。


不足パターン

不足による相侮とは、五行中のある一行が過度に虚弱することにより、所勝を正常に克制できず、逆に逆方向の克制を受けることになった状態である。

これも、木と金の関係を例にみていこう。

何らかの原因で、金の力が弱まったとする。

そうなると、本来は負けるはずがない木に、逆に制約にされてしまう。

制約を受けた金はさらに傷つき弱まってしまうのだ。

これも五臓に置き換えてみよう。

肺(金)が弱っているため、いつもとは逆に肝(木)に制約された結果、肺の機能がさらに低下して呼吸器症状を引き起こす。

この状態を「金虚木侮(金が虚弱になり木がいじめる)」という。

体質的に肺が弱い人や、病気で肺が弱っているときに、普段は平気なレベルのストレスでも咳き込んだり、息苦しくなることがある。それはまさにこの状態だ。

この場合は、弱った肺を補う治療をする。


パターンを見極める

相侮にも「過多」と「不足」の2パターンがある。

これを間違えると大変なことになる。

治療方針が全く逆だからだ。

相乗と同じ様に、しっかりと「過多」と「不足」を見極めて治療をしよう。


相乗と相侮は同時に発生する

同時攻撃はしんどい

相乗と相侮は、相克関係の異常な側面であり、両者には類似性と相違点がある。

相乗と相侮の主要な違いは、前者は五行の相克順序に従った過度な制約であるのに対し、後者は逆方向の制約現象というところだ。

相乗と相侮の関連性には、同時発生もある。相乗が発生する際、同時に相侮も発生する可能性があるのだ(あるいはその逆も)。

たとえば、木の気が過剰に強い場合、土を強く制約するが(木盛乗土)、同時に金を制約することがある(木盛乗土と金虚木侮の同時発生)。

また、金が弱っていれば、木から逆に制約を受けるが、同時に火からも制約を受けてしまうことがある(木盛侮金と金虚火乗の同時発生)。

《素問・五運行大論》には、「気有余,則制己所勝,而侮所不勝;其不及,則己所不勝,侮而乗之,己所勝,軽而侮之。(気が過剰であれば、自分が制御できる要素を制御し、自分が勝てない要素を侮る。しかし、気が不足していると、自分が勝てない要素に侮られて乗っ取られ、自分が制御できる要素からも軽んじられ侮られる。)」とある。

臨床では、相乗と相侮の同時発生はよくみられる。五行の異常が、他の五行にどのような影響を及ぼしているかを慎重に見極めることが大切だ。


五行の母子相及

母子相及は「相生」の異常である。

母子相及は、母から子へ影響が及ぶ「母病及子」と、子から母へ影響が及ぶ「子病及母」の2パターンがある。


母病及子

母病及子とは「五行中のある一行が異常になったとき、その子に影響が及び、結果、母子共に異常となること」だ。

木と火の関係を例にみていこう。

何らかの原因で、母である木の力が過剰に増えたとする。

そうなると、子である火を過剰に生成する状態になる。

その結果、木火共に過剰な状態になってしますのだ。

これを五臓に置き換えてみよう。

怒りによって、肝火(母)が心火(子)を生み出した結果、イライラ、顔の紅潮、目の充血等の肝の症状と、動悸や不眠等の心の症状が生じる。

怒りが爆発して、激しく怒っていると、動悸や不眠を併発することがある。それはまさにこの状態だ。

これは「心肝火旺証」といわれる状態だ。

親子関係を熟知して対応することが重要

この場合は、肝火と心火を取り除く治療をする。

この場合の治療に関して、「難経六十九難」に有名な治療原則が記されている。それは次回に学んでいく。


子病及母

子病及母とは「五行中のある一行が異常になったとき、その母に影響が及び、結果、母子共に異常となること」だ。

こちらも木と火の関係を例にみていこう。

何らかの原因で、子である火が不足したとする。

そうなると、母である木をもっと燃やして火を生みだすが、やがて木も不足していく。

その結果、木と火の両方が不足状態になってしまうのだ。

これを五臓に置き換えてみよう。

例えば、考え事が過ぎると心の血(心血)を消耗する。

すると心は、肝が貯めている血(肝血)を利用し始める。

やがて肝血も不足していき、その結果、肝と心の血が両方とも不足状態になってしまうのだ。

すると、動悸や不眠、健忘等の心の症状と、眩暈や視力低下、手足のしびれや月経異常等の肝の症状が合わさってみられるようになる。

これは「心肝血虚証」といわれる状態だ。

親子関係を熟知して対応することが重要

この場合は、不足した心血と肝血を補う治療をする。

これもまた「難経六十九難」に記載されている治療原則を用いることができる。*次回紹介


最後に

五行の生克制化は五行学説の理論的基礎と主体内容であり、木・火・土・金・水の五行の間には「比相生、間相克(比びて相い生じ、間を開けて相い克す。)」とわれるように、互いに生み出し合い、抑制し合う関係がある。

五行の各要素は他の行を生み出すこともできれば、他の行によって生み出されることもある。また、他の行を抑制することもできれば、他の行によって抑制されることもある。

五行の相生と相克、制化、勝復などの関係は、自然界の万物がもつ普遍的なつながりを表している。五行の相生関係の異常は、母病及子や子病及母として現れ、相克関係の異常は、相乗や相侮として現れる。

中医学は五行学説を応用して、天人相応のシステム構造の構築、五臓間の生理病機の関係の解明、内臓疾患の伝播の説明、病気の診断と防治および養生の指導などに用いられている。多元的な関係を研究する主要な思考方法の一つなのだ。


まとめ

今回は五行学説の病理関係である「相乗」、「相侮」、「母子相及」について学んだ。

ポイントは3つ。

  1. 「母子相及」は相生関係の異常で、「相乗」と「相侮」は相克関係の異常である。

  2. 相乗と相侮には、「過多」と「不足」の2パターンがある。

  3. 母子相及は、「子から母へ」と「母から子へ」の2パターンがある。


今回学んだ病理関係は、臨床でよく診られるものだ。

五行の関係性に、臓腑機能を合わせることで、より深く病態を理解することができ、予防や治療に応用することができるようになる。

例えば、腎が虚したら子である肝も虚していく。五臓の機能を学ぶと、「腎精が不足すると、腎精から髄が作られず、その結果、髄から作られるはずの肝血が作られず不足してしまった。」と詳細な機序を理解することができる。

相生・相克とは五行同士の繋がりである。

中医学は繋がり=整体観念を以て人を診ていく。

重要な繋がりの一つとして、五行の関係性はしっかりと学んでほしい。

次回は、「難経」に記載されている、相生・相克を利用した代表的な治療法を学んでいく。


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