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【中医基礎理論 第45講】 -人体の基本物質- 気って何?気の概念、生成、運動、機能のまとめ!

中医学における「気」の理論は、人間の体内における「気」の概念、生成、運動、変化、および生理機能について研究します。


1. 人体における「気」の基本概念

「気」とは、人体内で非常に強い活力を持ち、絶えず動き続ける非常に微細な物質であり、人体の生命活動を構成し維持するための基本的な物質です。

《宝命全形論》は、「人以天地之気生。(人は天地の気を以って生ずる)」と記しています。また、「天地合気,命之曰人。(天地の気が合して、之を人と名づける)」ともあるように、人は自然界の産物であり、天地の気を受けて生まれます。

気は人体に存在する極めて精微な物質であり、生命活動の物質的基礎です。気は絶え間なく運行し、人体の生命活動を維持します。人の生存に必要なものはただ「気」のみです。気が集まれば生を成し、気が散じれば死を迎えます。気の運動が停止することは、生命の終焉を意味します。

中医学における「気」の理論は、古代哲学の「気一元論」の深い影響を受けていますが、中医学で論じるのは主に人体の「気」および自然界と関連する「気」です。

また、中医学の専門用語としての「気」は、文脈によって異なる意味を表します。例えば、六気は風、寒、暑、湿、燥、火という六つの正常な気候の変化を指し、邪気はさまざまな病気を引き起こす要因の総称です。薬物の気は薬性を示しています。

2. 人体の「気」の生成

人体の「気」は、両親から受け継いだ「先天の気」、食物から得られる「水穀の気」、および自然界の「清気」が、腎、脾胃、肺といった臓腑の生理機能を通じて生成されます。

(一) 物質的な基礎

  1. 先天の気
    先天の気は、両親から受け継ぐもので、先天の精が化生(変化して生成されること)して先天の気となります。人体の気の根本であり、生命活動の原動力となる気です。

  2. 後天の気:水穀の気と自然界の清気
    後天の気には、水穀の気と自然界の清気があります。飲食物から水穀の精が化生し、水穀の精が化生し水穀の気となります。全身に分布され、人体の気の重要な一部となります。また、人は自然界の清気を吸収します。これも人体の気の重要な一部となります。「食べ物の栄養素」と「空気中の酸素」ととらえればイメージしやすいですね。

人体の気が不足するのは、気の生成の源に関連します。先天の気が不足している場合や、後天の気(水穀の気や自然界の清気)が消耗した場合、気虚と呼ばれる状態になり、さまざまな病変を引き起こします。

(二) 気に関連する臓腑

気の生成には、全身の臓腑の総合的な働きが必要ですが、特に腎、脾胃、肺との関係が深いです。

  1. 腎は「生気の根」である
    腎は精を蔵します。その主体は先天の精です。先天の精が化生した先天の気は、人体の気の根本です。腎精(先天の精と、それを補う後天の精が合わさったもの)が充実していれば元気が充実します。一方、腎精が欠乏すると元気が衰え、文字通り元気がなくなります。

  2. 脾胃は「生気の源」である
    脾は運化を主り、胃は受納を主ります。これらは共同で飲食物の消化と吸収を行います。飲食物は脾胃によって運化・受納・腐熟され水穀の精が化生します。この水穀の精が水穀の気に化生し、全身の臓腑に分布して人体の気の主な供給源となります。そのため、脾胃は「生気の源」と呼ばれます。もし、脾胃の機能が失調すると、水穀の精が不足し、水穀の気も不足します。その結果、全身の気が衰えてしまいます。《霊枢・五味》には「故谷不入,半日則気衰,一日則気少矣。(飲食をしなければ、半日で気が衰え、一日で減少する。」と記されています。

  3. 肺は「生気の主」である
    肺は気を主り、宗気の生成を司ります。肺は呼吸により、自然界の清気を吸い込み、体内の濁気を吐き出すことで、人体の気の代謝を維持しています。また、肺は吸い込んだ清気と、脾から上昇してくる水穀の気を結びつけて宗気を生成します。宗気は胸中に蓄えられ、呼吸を促進し、心脈に入り気血を循環させ、丹田に送られ元気の生成を支えます。もし、肺の機能が失調すると、清気や宗気が不足し、全身の気が衰えてしまいます。

このように、腎は先天の気の生成と密接に関連し、脾胃および肺は後天の気の生成と深く結びついていることが分かります。臓腑間の機能が協調し、密接に連携することで、人体の気は充実し盛んになります。一方で、腎、脾胃、肺などの臓腑の機能が失調すると、気の生成が不足する原因となるのです。

3. 「気」の運動と変化

人体の「気」は絶え間なく運動しています。生命という過程そのものが「気」の運動とそれに伴うさまざまな変化の過程です。

(一) 気機

1.気機の概念
「気」の運動を「気機」といいます。人体の「気」は絶えず運動し、全身を巡り、内は五臓六腑に至り、外は筋骨や皮膚、体毛に達して、人体のあらゆる生理活動を促進します。

2.「気」の運動の基本形式と意義
人体の「気」の運動形式は、一般的に「昇」「降」「出」「入」の四種類にまとめられます。

  • :気が下から上に向かって動くこと。

  • :気が上から下に向かって動くこと。

  • :気が内から外へ向かって動くこと。

  • :気が外から内へ向かって動くこと。

例えば、肺は宣発という働きで体内の濁気を呼気として体外に排出します。これは肺気の「昇」と「出」の運動を表しています。また、肺気は粛降という働きで自然界の清気を吸気として体内に取り込みます。これは肺気の「降」と「入」の運動を表しています。

人体の気の「昇」と「降」、「出」と「入」は対立しながらも統一して運動しています。そして臓腑の生理的特性によって、それぞれにメインとなる気機があります。たとえば肝気や脾気は主に「昇」がメインで、肺気や胃気は主に「降」がメインで働きます。全体的な生理活動として、「昇」と「降」、そこから派生する「出」と「入」の間において、常に調和と均衡が取れています。

気の正常な運動を「気機調暢」といいます。これは「昇降出入」の運動が均衡し、調和され、滞りなく流れている状態を指します。気の昇降出入の運動は、人体の生命活動の根本です。この運動が停止すれば、生命活動も終焉を迎えることになります。《素問・六微旨大論》には、「出入廃則神機化滅,昇降息則気立孤危。故非出入,則無以生長壮老已;非昇降,則無以生長化収蔵。是以昇降出入,無器不有。(出入が廃絶すれば、神機=精神活動が消滅し、昇降が止まれば、気は孤立し危機に陥る。出入がなければ、生長壮老已の過程は成り立たず、昇降がなければ、生長化収蔵過程は成り立たない。よって昇降出入の運動は、あらゆる臓器に備わっているものである。」と記されています。

3.臓腑の気の運動規律
気の運動は、全身の臓腑、経絡、形体、官竅などのあらゆる生理活動を推進し、活性化させます。全身の臓腑、経絡、形体、官竅は気の運動の場であり、それらの生理機能は気の運動の具体的な表れでもあります。

臓腑の気の運動規律は、臓腑の生理的特性を反映しているため、それぞれ異なる傾向があります。

たとえば、心肺は上部に位置するので、気は降りる傾向があります。 一方、肝腎は下部に位置するので、気は昇る傾向があります。 そして、脾胃は「土」に属し中央に位置するので、脾気は昇り、胃気は降りる傾向があります。そうして脾胃は四臓の気の昇降を調整しています。

脾気が昇ることで、肝腎の気も昇り、胃気が降ることで、心肺の気も降ります。脾胃は臓腑の気機「昇降の中枢」なのです。脾胃の気の昇降が失調すると、飲食物の消化や水穀の精微の吸収に影響を及ぼし、気血の生成が滞るだけでなくれ、他の四臓の気の昇降運動が失調する恐れがあります。たとえば心腎不交や、肝と肺の昇降バランスの失調といった病理変化を引き起こす可能性があります(肝と肺は全身の気機の循環を調整しています)。

4.気の運動異常の表れ
気の運動が滞り、昇降出入の均衡が失われることを「気機失調」と呼びます。気の運動形式は多様であるため、気機失調の現れ方にもさまざまな種類があります。以下はその代表例です。

  • 気機不暢:気の運行が滞り、通りが悪くなること。

  • 気滞:滞りが著しく、局所的な気の阻滞が起こり、流通しなくなること。

  • 気逆:気の上昇が過剰、または下降が不十分なこと。

  • 気陷:気の上昇が不十分、または下降が過剰なこと。

  • 気脱:気が外に出過ぎること。

  • 気閉:気が外に出ず、内に鬱結して閉塞すること。

《素問・挙痛論》には「百病生于気也。(百病は気から生ず)」と記されていて、調和のとれた気機を維持することが病気を治療する基本法則です。

(二) 気化

1.気化の概念
「気化」とは、気の運動により引き起こされるさまざまな変化です。具体的には、精、気、血、津液などの生成、およびそれらの相互転化を指します。

「気化」と「気機」は密接に関連しています。「気化」は「気の変化」を強調し、その基本的な形式は生命物質の新陳代謝です。

一方、「気機」は「気の運動」を強調し、基本的な形式は臓腑の気の昇降出入です。

「気化」は「気機」を前提として成り立ち、その運動を基礎にしています。「気化」の過程は、「気」の昇降出入の運動によって生成され維持されます。「気機」と「気化」は生命活動の最も基本となる概念です。

2.気化の形式
《素問・陰陽応象大論》には、「味帰形,形帰气;气帰精,精帰化;精食気,形食味;;化生精,気生形………………精化為気。(味は形に帰し、形は気に帰し、気は精に帰し、精は化に帰す。精は気を養い、形は味を養う。化は精を生じ、気は形を生じ、……精は化して気となる)」と記されており、気化の過程を簡潔にまとめています。たとえば、精が気に変化し、気が精に転化することや、精と血が同源で互いに転化し合うこと、津液と血が同源で互いに転化し合うことなどがその例です。

また、体内の濁気の排出、汗や尿の生成と排出、さらには便の排泄なども「気化」の具体的な表れです。気化の過程が秩序立って進行することは、臓腑の生理活動が相互に協調し合う結果であり、これにより人体の生命活動が円滑に維持されます。

4. 人体の「気」の機能

気は非常に重要な役割を持ち、《難経・八難》では「気者,人之根本也。(気とは、人の根本である)」と記され、《類経・摂生類》でも「人之有生,全頼此気。(人の生があるのは、この気によるのである)」と述べられています。そんな人体の気には、大きく分けて5つの作用があります。

(一) 推動作用

気の推動作用とは、人体の生長、発育、運動、そしてあらゆる生理機能を促進する働きを指します。主な内容は以下のとおりです。

  1. 人体の生長発育および生殖機能を促進する。

  2. 各臓腑および経絡の生理機能を活性化し促進する。

  3. 精、血、津液の生成とその循環を促進する。

  4. 精神活動を活性化し、興奮させる。

「気」の推動作用が弱まると、人体の生長発育に影響を及ぼし、発育不全や早老を引き起こすことがあります。また、臓腑および経絡の生理機能が低下し、精血・津液の生成不足、またはその循環が滞り、分布や排泄が障害されるといった病理状態を引き起こす可能性があります。精神的には無気力、無感動の症状が現れることがあります。

(二) 温煦作用

気の温煦作用とは、陽気が人体を温める作用を指します。《難経・二十二難》には「気主煦之。(気は温煦を主る)」と記されています。主に以下の点でその作用が見られます。

  1. 身体を温め、恒常的な体温を維持する。

  2. 臓腑、経絡、形体、官竅を温め、それらの正常な生理活動を維持する。

  3. 精、血、津液を温め、これらが正常に循環・分布・排泄されるようにする。これは、いわゆる「血は温まって初めて流れ、冷えると凝滞する」という状態です。

気の温煦作用が失調すると、体温の低下、寒がり、臓腑の機能低下、血や津液の循環不良などの寒証が見られることがあります。そのため、「気が不足すると寒が生じる」とも言われます。

(三) 防御作用

気の防御作用とは、気が肌表を守り、邪気から体を防御する働きを指します。この防御機能には以下の効果があります。

  1. 外邪の侵入を防ぐ。
    《素問・刺法論(遺篇)》には「正気存内,邪不可干。(正気が内に存れば、邪に侵されることはない。」と、正気が充実していると外邪が侵入しにくいとされています。

  2. 邪気を体外へ排出する。
    気の防御機能が正常であれば、邪気が侵入しにくくなるだけではありません。もし侵入されても発病しにくくなり、たとえ発病しても治癒しやすくなります。

一方で、防御機能が弱まると、病原体への抵抗力が低下し、病気にかかりやすくなります。《素問・評熱病論》では「邪之所凑,其気必虚。(邪気が集まるところは、そこの正気が必ず虚している)」とあり、病気にかかりやすくなるのは気が虚弱なためとされています。また、一度病気になると治癒しにくくなります。したがって、気の防御機能は病気の発生、進展、そして治癒の過程に密接な関係があります。

(四) 固摂作用

「気」の固摂作用とは、体内の液状物質(血液、津液、精液など)を保持・統制し、無駄に流出させないようにする働きです。以下の効果が主に見られます。
  1. 血液を脈内にとどめ、正常な循環を維持し、外へ漏れ出さないようにする。

  2. 汗、尿、胃液、腸液などの体液を保持し、不必要に失われないようにする。

  3. 精液を保持し、無駄に排出されないようにする。

気の固摂機能が弱まると、体液が失われやすくなります。たとえば、血を保持できないと、さまざまな出血症状が起こります。津液を保持できないと、自汗、多尿、尿失禁、唾液の過剰分泌、胃液の逆流、下痢などが見られるようになります。また、精を保持できないと、遺精(睡眠時の漏出)、滑精(覚醒時の意図しない漏出)、早漏などが起こります。さらに、気虚によって衝脈や任脈が固摂できなくなると、早産や流産が起こることもあります。

固摂作用と推動作用のバランス重要!
固摂作用と推動作用は、相反しながらも互いに補い合う関係にあります。一方で「気」は血液の循環や津液の分布、排泄を推進し、他方では「気」が体内の液状物質を保持し、無駄な流出を防ぎます。もし、推動作用が固摂作用より強くなると、促進した血流を支えられず出血を引き起こします。反対に、固摂作用が推動作用より強くなると血が流れにくくなり、血瘀(血流低下)や瘀血(血液凝固)を引き起こします。

二つの作用が相互に調和し、体内の液状物質(血液や津液など)の正常な循環・分布・排泄を制御し調節することが、人体の血液循環および津液代謝を維持するために重要なのです。

(五) 仲介作用

気の仲介作用とは、気が情報を感応し伝達することで、全身の連絡を維持する働きを指します。気は全身に充満し、情報を伝達する媒体であり、全身の各部をつなぐ仲介者の役割を果たしています。たとえば、外部の情報が内臓に伝わり、内臓の情報が体表に反映される、または内臓同士の情報が相互に伝達されるなど、これらはすべて気の仲介により行われています。

他にも、鍼灸治療による刺激は「気」の感応と伝達を通じて内臓に作用し、体内の生理活動を調節します。このように、気は生命情報の媒体であり、臓腑、形体、官竅をつなぐ仲介者なのです。

おまけ:栄養作用

特定の気の話になりますが、気は栄養作用もあります。たとえば、水穀精気や営気などがその例です。

最後に

今回は「気」の概念、生成、運動、変化、および生理機能について学びました。

人体の「気」は、その生成の由来、分布する部位、および機能の特徴によってそれぞれ異なる名称を持っています。「気」の分類は、次の三つの層次に分かれています。

  1. 第一層次:人全体の「気」、すなわち「人身の気」、または「一身の気」。

  2. 第二層次:元気、宗気、営気、衛気。

  3. 第三層次:臓腑の気および経絡の気。

次回からは元気、宗気、営気、衛気など、各気について学んでいきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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