【中医基礎理論 第43講】 - 五行学説 - 最後にちょっと「中土五行」の話
中医学で五臓の脾はものすごく重視されている。飲食物を消化吸収し、全身へ栄養を送る働きがあるのだから当然といえば当然である。
この、脾が重要視されたことを表す理論モデルがある。
それが「中土五行」だ。
脾を特に重視した「中土五行」は、五行学説をさらに補完するものになった。
「五行学説」最後となる今回は、「中土五行」を紹介する。
中土五行
中土五行は土を中心とした土控四行モデル(土控四行:土が他の四行を統制する)で、五行学説をさらに補完するものである。
その名が示す通り、土が万物を生み出し中央に位置するという点が特に強調されいて、東、南、西、北の四方に位置する木、火、金、水に対して、中央の土が重要な統括作用を持っていると考える。
由来は河図
中土五行は、古代の人々が方位と季節を理解するために用いた「河図」に由来する。
*河図:伏羲の世に、黄河から現れた竜馬の背のうず巻いた毛の形を写したという図のこと。易の八卦の基になったとされる。
河図によれば、水は北方に位置し、冬に対応する。火は南方に位置し、夏に対応する。木は東方に位置し、春に対応する。金は西方に位置し、秋に対応する。そして土は中央に位置し、四季すべてに対応するとしている。
《内経》の『金匮真言論』や『陰陽応象大論』などの篇では、中土五行について詳細に論述されている。
中土は木・火・金・水の四行を統制する
中土五行は、土が中央に位置し、東西南北の四方に位置する木、火、金、水の四行を統制することである。
土は万物の生成において非常に重要な役割を果たす。《国語・鄭語》には、「以土与金、木、水、火雑,以成百物(土と金、木、水、火を混ぜ合わせて百物を成す。)」とあり、宇宙万物の生成は、土と木火金水が融合する結果として生まれるとしている。
つまり、「土生万物(土が万物を生み出す)」のだ。
《管子・四時》には、「中央曰土,土德実輔四時入出……春赢育,夏養長,秋聚收,冬閉藏(中央は土、土徳が四季の気化を助ける...春は育ち、夏は成長し、秋は収穫し、冬は蓄える。)」と記されている。中央の土は四季の気化においても重要な役割を果たしているのだ。
中土五行に基づき、中医学では五臓の脾が土に属し、中央に位置すると考える。
《素問・太陰陽明論》に、「脾者土也,治中央,常以四時長四臓,各十八日寄治,不得独主于時也。(脾は土であり、中央を治め、四時を通して四臓を養い調整し、各々十八日間治めるが、独自に時を主導することはない。)」と述べられているように、脾は四季を主導し、肝、心、肺、腎の四臓を養い、調整する役割を持つ。
木・火・金・水の四行の関係
木、火、金、水の四行の間には、段階的に発展する関係がある。前にの季節の性質を引き継ぎつつ、各々の性質を持ち合わせるのだ。
木は東方に位置し、春に通じる。春の温暖さは冬の寒さから生じている。木は陰中の陽である少陽に属し、その性質は曲直で、柔和でありながら生発(昇発)の力を持っている。
火は南方に位置し、夏に通じる。夏の熱さは春の少陽の気が次第に発展し旺盛になった結果だ。火は陽中の陽である太陽に属し、その性質は炎熱でありながら、上昇する力を持っている。
金は西方に位置し、秋に通じる。秋の涼しさは夏の炎熱さから生じる。金は陽中の陰である少陰に属し、その性質は収降でありながら散布する力も持っている。
水は北方に位置し、冬に通じる。冬の厳寒さは秋の涼しさから生じる。水は陰中の陰である太陰に属し、その性質は寒冷でありながら、蓄える力(閉蔵)を持っている。
陰中の陽→陽中の陽→陽中の陰→陰中の陰という流れになっていることが分かるだろうか?
「〜中の」は前の季節の性質を指している。最後の陰/陽は各々の季節が持つ性質だ。
自分が前の季節から生じてその特性を受け継ぎ、自分も次の季節を生じる際に自分の性質も次へ受け継がれていく様子が表されている。
四行は各々の性質を持ちつつ、前の季節の性質を引き継ぎ内包している。この特徴は、中医学において肝、心、肺、腎の四臓にもあてはめられていった。
まとめ
中土五行は、中医学における四時と五臓の理論体系を構築するための理論モデルとなった。
中医学ではこのモデルに基づき、五臓を方位、四時、太少陰陽と結びつけた。
肝は木に属し、東方に位置し、春に通じ、少陽に属す。
心は火に属し、南方に位置し、夏に通じ、太陽に属す。
肺は金に属し、西方に位置し、秋に通じ、少陰に属す。
腎は水に属し、北方に位置し、冬に通じ、太陰に属す。
脾は土に属し、中央に位置し、四時を主導し陰中の至陰となす。
このようにして、心は上、腎は下、左には肝、右には肺、脾は中央に位置する四時五臓の理論体系が形成された。
同時に、脾が孤臓として四時を主導し、四方を潤し、臓気の昇降の中枢であるという理論となった。
中土五行は脾胃学説の発展に重要な役割を果たしている。
古代中国哲学終了〜!
気一元論、陰陽学説、五行学説は、古代中国における宇宙観と方法論であり、中医学の理論体系の構築に重要な影響を与えた。その影響は各方面に貫かれていて、中医学理論体系の重要な構成要素となっている。
気一元論、陰陽学説、五行学説はそれぞれ特徴を持ちながらも、相互に関連している(だって、中医学は整体観念=繋がりの医学だから)。
気一元論は、物質世界の根源性を説明した。
陰陽学説は、対立統一の弁証法的観点から、物事の発生、発展、変化の基本的な法則を説明した。
五行学説は、生克制化というシステム論的な観点から、物質世界に存在する複雑で普遍的な関係性や、多様な事物間における安定した構造的関係を明らかにした。
万物は一気に由来し、一気が陰陽に分かれ、陰陽が五行を生じた。
一方で、五行の中にも陰陽が存在し、五行も陰陽も、それぞれが気でできている。
このように全ては繋がっていて、一つの全体として機能しているのだ。
中医学との融合
中医学は気一元論、陰陽学説、五行学説の影響を受け、これらを組み合わせて、気-陰陽-五行の認識論を構築し、人間の生命活動の規律や疾病の予防、診断・治療について説明している。
気:
中医学は、気を生命の本源とし、臓腑経絡、形体官竅(五官など)の生理機能や生長壮老已(死)の生命過程を推進し調節するものと捉えている。
陰陽:
陰陽交感、対立、互根、消長、転化の理論を用いて、人間の体は陰陽の対立統一体であると考える。各臓腑は陰陽に分けられるが、各臓腑はそれぞれの中にさらに陰陽を有する。陰陽の相反相成は、臓腑機能の調整において基本である。
五行:
生克制化の理論を用いて、五臓の生理機能システムを構築し、五臓間の密接な関係を説明した。
陰陽学説と五行学説は相互に補完し合い、四時五臓、天人合一の全体観を構築した。
病理変化を分析する際には、「百病皆生于気」(百病はすべて気から生じる)と考えた。
例えば気虚や気機の失調などだ。
臓腑の病変を説明する際には、臓腑の陰陽気血の偏盛偏衰や、臓腑間の母子相及、あるいは相乗や相侮の伝変に注目した。
そのため、治療においてはまず気を調整し、また各臓腑の病変に応じてその陰陽を調整し、五行の生克制化の理論に基づいて適切な措置を講じ、疾病の伝変を防止する。
気一元論、陰陽学説、五行学説は、中国の伝統文化が世界を認識するための基本的な観点と方法であり、中医学が生命、健康、疾病を認識するための基本的な観点と方法でもある。古代哲学は中華民族の特有の智慧と思考方法を十分に体現している。
そして、これらは中医学の発展と革新において、重要な指導的役割を果たしたのである。
古代哲学 完
次回からは「人体を構成する基本物質」を学んでいく。
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