【中医基礎理論 第42講】 - 五行学説 - 相克病変の治療法!難経七十五難!
前回までは相生関係の病変で、「虚証」と「実証」に対する治療原則を学んだ。
治療原則は難経六十九難に記載されていて、虚証は「虚則補其母(虚すれば即ち其の母を補う)」、実証は「実則瀉其子(実すれば即ち其の子を瀉す)」だ。
そして、虚証の代表的な治療方法として滋水涵木法や培土生金法がある。
今回は相克関係の病変(主に相乗)に対する代表的治療方法を紹介する。
また、難経七十五難に記載されている五行を応用した治療方法も併せてご紹介します。
相乗は過多と不足の2パターンがある
少し復習をしよう。
相乗とは相克が異常になった状態だ。
そのパターンは「過多」と「不足」の2パターンある。
例えば、木(肝)のパワーが強くなり、過度に土(脾)を克してしまうと脾を傷つけてしまう。
強いストレスでお腹を下してしまう状態だ。
これが「過多」のパターンだ。
一方、体質的に脾が弱かったり、暴飲暴食で脾の機能が低下(不足)した場合、正常な肝からの制御にも耐えられなくなることがある。
少しのストレスで食欲が無くなったり、お腹を下す状態が。
これは「不足」のパターンだ。
治療方法は、「過多」に対しては抑制をはかる。
これを「抑強」という。
五臓であれば、「ある臓の亢盛を抑制すること」だ。
「不足」に対しては扶(たす)けていく。
これを「扶弱」という。
五臓であれば、「ある臓の不足を扶助すること」だ。
抑強も扶弱も聞き慣れない言葉だが、「強ければ抑制して、弱ければ助ける」という当たり前のことを言ってるだけである。
相克病変への様々な治療法
古代の医家たちは、相克病変に対しても、様々な治療法を制定している。
以下の相克病変の代表的治療法を紹介する。
抑木扶土法
培土制水法
佐金平木法
瀉南補北法
抑木扶土法(よくもくふどほう)
抑木扶土法は肝気を抑制することにより、脾土を助ける方法だ。
肝気が亢進すると、脾を傷つけてしまう。
これを肝気犯脾証という。
胸肋部痛やため息(太息)、抑うつや易怒、食欲不振や腹痛、泄瀉といった症状がみられる。
これは肝気が旺盛な状態である。治療としては肝の疏泄を整え(疏肝)、脾を元気にすることである(健脾)。
肝気を抑制=抑木することでを脾を扶ける=扶土する方法である。
太衝や合谷(合わせて四関穴という)を使って疏肝する方法が良く使われる。
培土制水法(ばいどせいすいほう)
培土制水法は脾陽を温補することにより、消腫利水をはかる方法だ。
①脾に対して用いる場合と、②脾腎に対して用いる場合がある。
脾の場合
脾は水液の運化を主る。
脾陽虚により水液の運化が失調すると、身体に水湿がたまり水腫(むくみ)が生る。
脾陽を培う(養う)ことで、水液の運化を調整する。
脾腎の場合
脾の運化は、腎が主る水が氾濫しないよう制御している。
脾腎陽虚になると水液代謝のコントロールが効かなくなり、身体に水湿が氾濫すると水腫(むくみ)が生じる。
脾陽を養い運化を整え、腎の水の氾濫を抑制する。
臨床では脾陽と腎陽を同時に補う方法がよく使われる。
①でも②でも培土制水法を行う場合は、脾腎同治を行うことになる。
佐金平木法(さきんへいもくほう)
佐金平木法は肺気を清粛することにより、肝気を抑制する方法だ。
肺は気を下に降ろす「清粛」の特性を持っている。
一方、肝は気を上に上げる「昇発」の特性を持っている。
この2つがバランス良く働くことで、気は正常に全身を巡る(気機が正常)。
佐金平木法は肝気が上逆(激しく上に向かって気が上る)して肺を犯したときに、肺の清粛を佐(たす)けて上がった気を制御する治療法だ。
臨床では肝気犯肺証の時に使われる。
肝気が上がって、肺気が降りないと、咳や呼吸困難といった症状が生じる。
この時に、佐金=肺を佐け、平木=肝を制御するのだ。
難経七十五難:瀉南補北法(しゃなんほほくほう)
瀉南補北法は虚証と実証が同時に起こった病症に対し、相生と相克を併せて対処する複合的な治療法だ。
瀉南補北法は難経七十五難に記載があり、肝気犯肺証に対する治療法である。
南を瀉して北を補うとは、心を瀉して腎を補うという意味だ。
五行では肝は東、心は南、脾は中央、肺は西、腎は南と同じ属性だ。
肝気犯肺証は、虚実で見ると「肝実」と「肺虚」が合わさった証だ。
力が亢進した肝に、本来制御するはずの肺が逆に制御されてしまう状態だ。
つまり、相侮関係である。
この時、難経七十五難では「心を瀉して腎を補え」と言っているのだ。
心を瀉法す目的は「肝のエネルギーを盗ること」だ。
難経六十九難の「実則瀉其子」を応用し、心を瀉すことで、肝のエネルギーを弱める。
*これを「弱った子が母の気を盗む=子盗母気」という。
加えて腎を補う。
腎を補う目的は、心を克する力を強め、「より心の力を減らすこと」だ。
腎から強い制御を受けた心は弱まることで、より多く肝のエネルギーを盗とっていく。
その結果、肝の力は弱まり、肺への攻撃が治まることで、肺は回復することができるのだ。
このように、瀉南補北法は虚証と実証が同時に起こった病症に対し、相生と相克を併せて応用するとても高度な治療法である。
難経七十五難をさらに深堀り
難経七十五難に書かれている内容をみると、肝実肺虚の時に瀉南補北法を用いる理由は以下の2つである。
①心を瀉し肝気を盗る。
②腎を補い心を強く克すことで、より心が肝気を盗るようにする。
でも、これ以外にも3つ効果があるように思えます。
※ここからは個人的な考えです。
1つ目は、心を瀉すのは肝気を盗るだけではなく、肺への相克を弱めるという効果。
2つ目は、腎を補うことは心を強く克すだけではなく、相生関係を応用した「金水相生法」により、肺を助けるという効果。
3つ目は、腎を補うことで肝を抑えるという効果。
一見、3つ目は、難経六十九難の法則で考えるとおかしな感じがする。
母である腎を補ったら、肝がさらにパワーアップしてしまいそうだ。
だが、こうも考えられるのではないだろうか。
肝の陽気は亢進しやすく、この難経七十五難の肝実も実態は「肝陽の亢進」と考えられる。
肝陽が亢進するのは、肝陰が肝陽を抑えられなくなるからだ。
そこで、腎を補う(厳密には腎陰)。
「腎は肝を生む」という関係は腎精が肝血を生むところからきている。
つまり、腎を補い肝を抑制するとは、腎精を補い肝血=陰を補うことで、肝陽を抑えることなのだ。
このように、難経七十五難で腎を補う目的の一つに、「腎を補うことで肝を抑える効果も狙っている」と考えるの、あながち外れていないのではないだろうか。
まとめ
今回は相克関係の病変に対する代表的治療方法を学んだ。
ポイントは3つ。
難経七十五難の治療法は「瀉南補北法」である。
虚証と実証が同時に起こった病症に対し、相生と相克を併せた治療法である。
五行の関係性を利用すれば治療方法は無限大。
中医学を学んでいると先程の難経七十五難のように「ここはこういう考えもできるんじゃないか」と思うことがよくある。
中医学に正解はない。
大切なのは「きちんと理屈が通っていること」だ。
基本的な知識を身に付けているのなら、他の人と見立てが違っても、自分の見立ての理屈が通っているのであれば、自信を持って治療しよう。
もし間違えても、見直せばいいのだ。
恐れず、どんどん挑戦しよう。
次回は、「中土五行」の話をする。それで、五行学説は最後となる。
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