【中医基礎理論 第27講】 - 陰陽学説 病気のパータン - すべて4パターンに分類できる
前回は、足し算引き算を用いれば、陰陽による病気のメカニズムや弁証論治が理解できるという話をした。
今回は4つある「陰陽の病気のパータン」をみていこう。
より深く、陰陽の病気が理解できるようになる。
*今回の内容は陰陽対立で学んだ内容と重複する部分が多いです。
すべての病気は4パターンに分類できる
陰陽学説が病理に応用されたことで、病気のメカニズムが容易に理解できるようになった。
健康な状態が「陰陽平衡」なら、病気の状態とは「陰陽平衡が崩れた状態」である。
陰陽平衡が崩れるパターンは、「陰」か「陽」の「過多」か「不足」である。つまり、大きく4パターンあるということだ。
「大きく」と表現したのは、過多と不足の両方が同時にみられることがあり(「過多」と「不足」に変わりはないのだが。)、それを含めると6パターンになるからだ。
「過多」や「不足」によって、相手を制御できなくなると(対立制約の失調)、さまざまな病気を引き起こす。
陰陽における病気の4パターン
陰陽における病気は以下の4パターンである。
陽の過多=実熱証
陰の過多=実寒証
陽の不足=陽虚証(虚寒証)=「寒証」+「気虚証」
陰の不足=陰虚証(虚熱証)=「熱証」+「津液不足(脱水)」
全ての病気が4パターンに分類できる中医学って、本当に便利である。
それでは一つ一つみていこう。
「過多」パターン
陰陽が「過多」のパターンとは、陰陽が増加して、正常範囲を超えてしまった状態である。
この状態を虚実で表すと「実(実証)」という。
*実は「過多」、虚は「不足」と同義語である。
《黄帝内経》には「邪気盛則実:邪気が盛んになれば、則ち実である」とある。
陽なら「陽実証」、陰なら「陰実証」となる。
陽の性質は「熱」で、陰の性質は「寒」である。そのため、中医学では一般的に陽実証を「実熱証」、陰実証を「実寒証」という。
したがって、ここからは「実熱証」、「実寒証」で表記する。
実熱証
正常より陽が増えた状態(過多)を実熱という。
実熱証は「熱が正常より増加した状態」なので、強い熱証がみられます。
「熱証」とは、発熱のように「熱い」だけではなく、「脈が早くなる」など、熱によって身体の機能が亢進することで生じる症状全般も含む。
例えば、実熱証の代表的な症状として高熱・煩躁・面赤・数脈がある。
煩躁(はんそう)とは、もだえ乱れる状態のこと。胸中の熱と不安を煩、手足をばたつかせることを躁という。同時にみられることが多いので「煩躁」という。
面赤(めんせき)とは、顔全体が赤いこと。面は中国語で顔という意味。
数脈(さくみゃく)とは、脈拍が速いこと。一息五六至以上(一呼吸の間に5〜6回以上)である。1分間で90~130回なので頻脈である。
運動時に代謝が上がって体温が高くなると、脈が速くなったり、顔が赤くなるのと機序は同じである。原因が運動か邪気かの違いだ。
これらの症状は全て、陽が増えたことによる「熱」が原因で生じている「実熱証」の症状である。
実寒証
正常より陰が増えた状態(過多)を実寒という。
実寒証は「寒が正常より増加した状態」なので、強い寒証がみられる。
「寒証」とは、「寒い」だけではなく、「脈が遅くなる」など、寒冷によって身体の機能が低下することで生じる症状全般も含む。
例えば、実寒証の代表的な症状として面白形寒・脘腹冷痛・瀉下清稀・舌白苔白・緊脈がある。
面白形寒(めんはくけいかん)とは、寒さで顔が白く身体が冷たいこと。血流が低下し、身体(特に手足末端)が温められず冷えていること。
脘腹冷痛(かんふくれいつう)とは、脘は上腹部、腹は下腹部で、脘腹とは腹部全体を意味する。冷痛は冷やすと痛みが増強し、温めると寛解する痛み。
瀉下清稀(しゃげせいき)とは、便や尿(瀉下)がさらさら薄い(清稀)していること。水様便や透明で多量の尿を指す。
舌白苔白(ぜつはくたいはく):舌白は舌が白いこと。これは血流が少ないためにおこる。苔白は舌苔が白いこと。主に糸状乳頭の色味を指す。
緊脈(きんみゃく):寒さで脈管の緊張度が高まった脈。細くピンと張った有力な脈。
冷たいものを過食し身体を冷やした結果、顔色が青白くなったり、お腹が痛くなったり、下したりした経験は誰にでもあると思う。
これらの症状は全て、陰が増えたことによる「寒」が原因で生じている「実寒証」の症状である。
「不足」パターン
陰陽が「不足」のパターンとは、陰陽が減少して、正常範囲より少なくなってしまった状態だ。
この状態を虚実で表すと「虚(虚証)」という。
《黄帝内経》には「精気奪則虚:精気が奪われれば、則ち虚である」とある。
陽なら「陽虚証」、陰なら「陰虚証」となる。
陽の性質は「熱」なので、陽虚は熱が不足している状態である。そのため、「冷え」の所見がみられる。
この冷えを「虚寒」という。
一方、陰の性質は「寒」なので、陰虚では寒が不足している状態である。そのため「熱」の所見がみられる。
この熱を「虚熱」という。
「陽虚と虚寒」、「陰虚と虚熱」は同じ意味として使われることが多いが(厳密には違う)、ここでは「陽虚証」、「陰虚証」で表記する。
余談:虚は幻であるが、確かにそこにある
虚は「中身がない、から、うつろ、うわべだけので実がない、うそ」という意味だ。
つまり虚寒や虚熱は「本来存在しない幻の寒さ(熱さ)」を意味する。
陽を例にみてみよう。
陰と陽が同じ量だと熱さも寒さもない。ちょうどいい状態である。
もし、陽が減ったら冷えを感じる。この冷えは本来なら存在しない冷えである。温める力が減少し、陰は正常な量なのに相対的に陰(冷やす力)が多い状態になるため生じてしまうのだ。
実の寒さは実際に冷えが強くなっているので、本人はもとより、第三者にも冷えを観察できることが多い(実際に触って冷たいなど)。
一方、虚の寒さは本人しか冷えを感じられない場合もよくみられる。
第三者が観察できない場合、「たいしたことない」とか「大袈裟、うそでは?」と誤解されて苦しんでいる人も多い。
本人が感じている以上、そこに冷え(陰虚なら熱さ)は存在している。
中医学を学んだ医療者は、脈や舌の所見から虚寒や虚熱を把握することができる。その力を十分に発揮して、誤解されて苦しんでいる患者を診てほしい。
陽虚証
正常より陽が減少した状態を陽虚という。
陽虚証は「陽が正常より減少した状態」なので、「寒証(虚寒)」と「気虚証」がみられる。
つまり、「冷え」と「エネルギー不足」だ。
気虚証がみられる理由は、気は「陽」の物質なので、陽が減るとは気が減ることであるからだ。そのため、陽虚証は「冷え」だけではなく、「脈拍が弱くなる」、「疲れやすい」など、エネルギー不足により生じる症状全般もみられる。
例えば、陽虚証の代表的な症状に面蒼白・畏寒肢冷・神疲踡臥・自汗・沈遅脈がある。
面蒼白(めんそうはく):顔色が青白い。
畏寒肢冷(いかんしれい):畏寒は温めると消える身体の冷え。肢冷は四肢の冷え。
神疲踡臥(しんぴけんが):神疲は精神疲労。踡臥は丸まって(手足や背中を丸めて)横になること。
自汗(じかん):じっとしてても汗がでること。気の固摂作用の低下でおこる。
沈遅脈(ちんちみゃく):脈が沈んで、脈拍が遅い。気虚と虚寒により血を流す力が弱まっている。*遅脈:一息四至〔60回/分〕に満たない脈。徐脈にあたる。
陽虚証は冷え性の方や、高齢で寝たきりの方に多くみられる。
これらの症状は全て、陽が減少したことによる「冷え」と「エネルギー不足」が原因で生じている「陽虚証」の症状である。
陰虚証
正常より陰が減少した状態を陰虚という。
陰虚証は「冷却力と津液が正常より減少した状態」なので、「熱証(虚熱)」と「津液不足」がみられる。
つまり、「熱」と「乾燥」だ。
津液不足がみられる理由は、身体の陰のほとんどが津液だからである。
*人の60%は水分=津液なので、人体の陰はほとんど津液である。
そのため、陰虚証は「熱」だけではなく、「口が渇く」、「舌が乾燥する」など、津液不足により生じる症状全般も含む。
例えば、陰虚証の代表的な症状に夜間潮熱・盗汗・五心煩熱・口乾舌燥・細数脈がある。
夜間潮熱(やかんちょうねる):潮の満ち引きの様に、規則正しく、いつも夜間に熱が高くなること。
盗汗(とうかん):寝汗のこと。
五心煩熱(ごしんはんねつ):手のひら、足の裏、胸の5箇所に煩わしい熱感があること。
口乾舌燥(こうかんぜっそう):口の乾きと舌の乾燥。
細数脈(さいさくみゃく):脈が細くて速い脈。陰の不足で血が少ないため脈が細くなる。
陰虚証は暑がりで痩せ型(食べても太りにくい)の方や、更年期障害で多くみられる。
これらの症状は全て、正常より陰が減少したことによる「熱」と「津液不足」が原因で生る「陰虚証」の症状である。
まとめ
陰陽が病に応用されたことで、病気やそれに伴う多くの症状も、「陰の過多」、「陰の不足」、「陽の過多」、「陽の不足」の4パターンに分類することができるようになった。
こんな便利なものを使わない手はない。
今回は4パターンある陰陽の病気について学んだ。
ポイントは3つ。
陰陽の病気は4つに分類することができる。
陰陽それぞれの性質が症状に影響する。
陰の不足は「寒証」+「津液不足」、陽の不足は「寒証」+「気虚証」。
次回は陰陽学説が「診断」に与えた影響を学んでいく。
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