【中医基礎理論 第25講】 - 陰陽学説 解剖学・生理学に与えた影響 - 全ては陰陽平衡
これまで、陰陽学説について多くの事を学んできた。
陰陽が交わって万物が生まれることや、地震や四季の変化、月と太陽の変化など、この世界のあらゆることに陰陽が関係していることが分かった。
陰陽の運動法則はすべて相互関係を持ち、自分の力で動的平衡へと回復する機能を持っている。これを陰陽自和という。これが正常に働いている状態が理想である。もし動的平衡が壊され、自和の能力を失うと、自然界では異常現象が現れ、人体では病気の発症、最悪の場合死に至るのであった。
今回の記事では、陰陽学説が中医学にどのような影響を与えたのか、解剖学と生理学の観点からみてく。
中医学における陰陽学説の影響
陰陽学説は、解剖学、生理学、診断学、治療学、養生学など、中医学のあらゆる分野に影響を与えた。
解剖学・生理学への影響
まずは解剖学にどのような影響を与えたのかをみていこう。
解剖学における陰陽
陰陽の概念が融合したことで、複雑な身体の構造を、陰と陽の対立した2つの属性に区分できるようになった。
上半身、体表、腑(六腑)、背、四肢の外側は「陽」に属す。
下半身、体内、臓(五臓)、腹、四肢の内側は「陰」に属す。
これは、太陽を背に腰をかがめて種を蒔く時、日差しが当たる面を「陽」とした事から、背や四肢外側は陽に属すとした。背や四肢外側は陽なので、そこを通る経絡は「陽経」といい、反対に腹や四肢内側を通る経絡は「陰経」という。
*足陽明胃経は陽経であるが、例外的に腹部を通る(詳しくは経絡であつかう)。
背中(陽)のど真ん中を通る督脈は、全ての陽経を統括するので、「陽脈の海」という。
腹部(陰)のど真ん中を通る任脈は、全ての陽経を統括するので、「陰脈の海」という。
身体を上下に区分したとき、横隔膜より上は「陽」で、下は「陰」となる。この概念は後々重要になるので覚えていてほしい。
五臓は中身が詰まった「実質性臓器=有形」なので陰に属し、六腑は中身が空っぽの「中腔性臓器=無形」なので陽に属す。
五臓の生理学における陰陽
五臓の生理機能も陰陽に分けることができる。
*ただし、五臓の生理機能の陰陽属性は、比較対象や視点により変動することが多いので気をつけよう。
先ほど言ったように、解剖学的に五臓は「陰」で、六腑は「陽」に属す。
生理学的にも五臓は精気を「貯める」という陰の性質を持ち、六腑は飲食物を「通す」という陽の性質を持つ。
じゃあ五臓は必ず陰で、六腑は必ず陽なのかというと、そうではない。
五臓は陰なので心も陰であるが、(視点を変えて)五行の性質で見ると心は火の性質を持つので「陽」の臓でもある。
さらに、心は「心陰」と「心陽」という、性質の異なる二つの気を持っている。
このように、解剖学と違い、生理学の陰陽属性は生理機能によって変化するのである。
これは他の臓腑にもあてはまる。
ややこしく感じますが、学んでいくなかで必ず慣れるので安心してほしい。
代表的な五臓の陰陽分類
五臓には、解剖学的な陰陽属性と生理学的な陰陽属性を合わせた陰陽分類がある。
その規則で分けると五臓は以下のようになる。
五臓は陰である。陰の中でも、
肝は「陰中の陽」
心は「陽中の陽」
脾は「陰中の至陰」
肺は「陽中の陰」
腎は「陰中の陰」
である。
これらは以下のルールで分類されている。
六腑と比較すると五臓は陰である(前提)
胸腹腔内での位置(解剖学的陰陽属性)
横隔膜より上(胸腔)は陽で、下(腹腔)は陰である。つまり、胸腔にある心・肺は、位置的には陽であるため、陽中にある五臓(陽中の〜)となる。一方、腹腔にある肝・脾・腎は、位置的には陰であるため、陰中にある五臓(陰中の〜)となる。五行属性(生理学的陰陽属性)
五行の性質で五臓をみると、木・火は「陽」の性質で、土・金・水は「陰」の性質である。※五行については「五行学説」で詳しく学ぶ。
つまり、性質的には肝・心は「陽」、脾・肺・腎は「陰」に属す。「2と3」を合わせる
例えば心は、「陽中(胸腔)にある陽の性質をもつ五臓」ということで「陽中の陽」となる。他にも、肺は「陽中(胸腔)にある陰の性質をもつ五臓」ということで「陽中の陰」、肝は「陰中(腹腔)にある陽の性質をもつ五臓」ということで「陰中の陽」となる。
脾の至陰ってなに?
この規則で分類すると1つ問題が生じる。
それは、脾と腎が同じ分類になってしまうことだ。
脾と腎はどちらも「陰中(腹腔)にある陰の性質をもつ五臓」ということで「陰中の陰」になってしまう。
この重複を回避するのが、「至陰」である。
至は「到達」という意味だ。
脾は飲食物から栄養を抽出し、全身へと運搬する。つまり全身へと到達させるのだ。「陰は陰でも、栄養を到達させる陰」ということから脾は至陰となったのである。
*脾は土の臓腑であり、後天の本であり、気血生化の源である。脾は中焦に位置し、上焦と下焦を結ぶ枢軸であり、五行では中央に位置し、他の四行とつながっている。このように、脾は全身とつながる要所であるため、気血を全身へ輸布する(到達させる)ことができる。
とりあえず覚えてもらうために
五行は「木→火→土→金→水」の順番で循環している。
この場合、木→火と陽の性質だったのが、土からは陰の性質に変わる。
つまり、「土から五行の性質は陰に至る」ということから土=脾は「至陰」なのである。
正確ではないが、こういった覚え方の工夫は大切である。←自己肯定
解剖学的、生理学的、そして2つを合わせた解剖生理学的陰陽属性はどれも重要なので、しっかり覚えよう。
生理物質(基本物質)における様々な陰陽平衡
人体が正常な状態とは陰陽のバランスがとれた状態である。
一方、以前学んだ精気学説では、人体が正常な状態とは気機のバランスがとれた状態だった(覚えてる?)。
気機の陰陽平衡
気機とは「気の運動」のことで、昇・降・出・入の4つの運動方式だ「昇・出」と「降・入」のバランスが取れていれば、人体は正常に機能する。
陰陽学説は精気学説とも融合していった。
その結果、昇・出は「陽」、降・入は「陰」と分類できるようになった。
つまり、気機の平衡=陰陽の平衡なのだ。
*同じことを別の側面からみているだけのことだと分かる。
精や気においても「陰陽平衡」が実現された状態こそ、人体が正常な状態なのである。
気機以外の陰陽平衡もみていこう。
精と気の陰陽平衡
精・気・血・津液など、人体を構成する基本物質にも「陰陽平衡」の概念が融合し統一していった。
精(血や津液も含む)と気では、精が「陰」で気が「陽」だ。
精が減少すれば、気が集まって精になる。
反対に、気が不足すれば、精が分散して気になる。
これを「相互資生」という。
陰陽は互いを根本とする陰陽互根という関係がある。同じように精と気も互を根本としている。不足した時は相互に資生することで、精(陰)と気(陽)は平衡を維持しているのだ。
機能面での陰陽平衡
精は陰の性質を持っているので、自分の力では動けない。そこで陽の性質を持つ気の推動作用(動力)を利用して全身を巡る。
一方、気は陽の性質を持っているので、そのままだと分散(拡散)してしまう。そこで精にくっつくことで、分散することなく全身を巡るのだ。
精(陰)と気(陽)は、それぞれが機能するために助け合って平衡を維持している。
これも、別の視点からみた陰陽平衡である。
営気と衛気の陰陽平衡
飲食物から化生される気に「営気」と「衛気(えき)」がある。
営気は元々は「栄気」といって、栄養を含んだ気である。全身を栄養するだけではなく、津液と共に血を構成する気でもある。
「栄養(滋潤・滋養)」の性質を持つので、「陰」に属す。
※営気は、「気」という観点では「陽」であるが、衛気と比較すると、その性質から「陰」になる。
衛気は素早く体表を巡り、身体を温め、外敵から身を守ってくれる気だ。
「敏捷、動、温熱」の性質を持つので「陽」に属す。
営気(陰)と衛気(陽)のバランスがとれていると、身体は内から養われ、外からは守られる。
これも、別の視点からみた陰陽平衡である。
まとめ
今回は「陰陽学説が解剖学と生理学に与えた影響」を学んだ。
ポイントは3つ。
腹部や背部、胸腔や腹腔など、身体構造は陰陽に分類できる。
精気血津液など、生理物質やその機能は陰陽に分類できる。
解剖学や生理学における「平衡状態」と「陰陽平衡」は、観点が異なるだけで言わんとしていることは同じである。
人体の組織構造、生理機能、関係性はとても複雑だが、陰陽学説が融合したことにより、シンプルに扱えるようになった。
本当に優れたものとは、複雑なものをシンプルにする。
そういう意味では、陰陽学説は医学における最も優れた学説といえるだろう。
次回は陰陽学説が「病」に与えた影響を学んでいく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
このブログでは東洋医学の中の「中医学」を学べる記事を書いていきます。
今後もがんばっていきますのでスキ・コメント・フォローなど頂けますと嬉しいです。
今後とも東洋医学の有益な情報発信していきますので、応援よろしくお願いします😀