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【鍼灸処方学 第3講】 - 概論のつづき 要穴編 -

前回は「配穴の方法」と「組方のルール」について学んだ。

今回は「特定穴(要穴)」について学んでいく。



第五節 特定穴の処方

特定穴は要穴ともよばれ、十四経において特定の作用を持つ腧穴を指す。その内容は体系的であり、形式も固定されていて、作用も異なるため、特定の意味と名称を持つ。臨床で広く応用されていて、選穴や配穴にも関わってくるため、この節でまとめて紹介する。

一、単穴の臨床応用

特定穴は、五輸穴、原穴、絡穴、下合穴、部穴、背部兪穴、募穴、八脈交会穴、八会穴、交会穴に分けられる。

1. 五輸穴

五輸穴とは、十二経脈の肘膝関節以下にある五つの重要な腧穴である。それぞれ井、滎、輸、経、合と名付けられ、総称して「五輸」と呼ばれる。12経脈 × 5輸穴 = 合計60穴ある。

陰経五輸穴


陽経五輸穴


五輸穴の適用範囲は広く、歴代の医師に重視されている。臨床では主に臓腑病と経絡病の治療に用いられ、以下の二つの方法がよく使われる。

一、五輸穴の主病に基づく取穴応用

五輸穴の主治作用については、古くから《内経》に記載されている。たとえば《霊枢・順気一日分四時》には次のように述べられている。「病在臓者,取之井;病変于色者,取之滎;病時間時甚者,取之輸;病変于音者,取之経;経満而血者,病在胃及以飲食不節得病者,取之于合。(病が臓にある場合は井穴を取る。病変が色にある場合は滎穴を取る。病が時々酷くなる場合は輸穴を取る。病が音に変化する場合は経穴を取る。経が満ちて血が溢れる場合や、胃に病があり飲食が節度を欠くことによる病の場合は合穴を取る。)」

また、《難経・六十八難》には「井主心下満,滎主身熱,輸主体重節痛,経主喘咳寒熱,合主逆気而泄。(井穴は心下満を主治し、滎穴は身体の熱を主治し、輸穴は体重節痛を主治し、経穴は喘咳寒熱を主治し、合穴は逆気而泄を主治する。)」と記されている。

これらの記述に基づき、臨床時には陰経陽経を問わず、類似の症候が現れた場合には対応する五輸穴を選んで治療する。

五輸穴の主治範囲は比較的広く、上述の一般的な適用範囲以外にも、特有の適用範囲が存在する。実際、十二経脈はそれぞれ異なる病候を表し、各経脈の五輸穴もそれぞれ特有の主治作用を持っている。

二、子母補瀉法

五輸穴の臨床応用では、五輸穴と五行の関係に基づいて、母穴を補い、子穴を瀉する方法が用いられる。その原則は《難経·六十九難》の「虚則補其母,実則瀉其子」に従う。

① 本経子母補瀉法:病変経脈の五輸穴を選んで補瀉を行う。
たとえば、足厥陰肝経は五行で木に属す。肝の実証や熱証の場合、「実則瀉其子」の原則に従い、本経の滎穴である行間を瀉す。滎穴は火に属し、木の子にあたるためである。
肝の虚証の場合は、「虚則補其母」の原則に従い、合穴である曲泉を補う。曲泉は水に属し、木の母であるためである。

② 異経子母補瀉法:十二経脈と五行の関係に基づき、病変経脈の母経母穴または子経子穴を選んで補瀉を行う。
たとえば、手太陰肺経は五行で金に属す。肺の実証の場合、足少陰腎経の合穴である陰谷を瀉す。足少陰腎経は水に属し、陰谷も水に属する。水は金の子なので、瀉すことで治療する。肺の虚証の場合、足太陰脾経の太白穴を補う。足太陰脾経は土に属し、土は金を生むため金の母である。太白は土に属する輸穴であり、肺を補うことができる。


二. 原穴

原穴は、十二経脈の手関節や足関節付近にある重要な腧穴である。この腧穴は臓腑の原気が流入、通過、停留する場所であるため、原穴と呼ばれる。別名、十二原とも呼ばれる。各経脈に一つずつ存在し、合計で12個ある。

十二原穴


原穴の治療と診断への応用

原穴は、主に臓腑の病気の治療と診断に用いられる。原穴は原気を刺激し、病邪に対する防御機能を発揮する。原穴の主な治療効果には、虚を補う作用と邪を祛する作用の両方がある。

治療への応用

臨床では、原穴は臓腑の病気の治療に広く用いられる。具体的には、臓腑に病気がある場合、対応する経脈の原穴を選んで治療するのだ。

《霊枢・九針十二原》には「五臓有疾,当取之十二原。(五臓に疾有り、取るべきは十二原なり。)」とある。たとえば、咳嗽や喘息には肺経の原穴である太淵を選び、腸鳴や下痢には脾経の原穴である太白を取る。肝胆の疾患には太衝や丘墟が適している。

診断への応用

また、原穴は臓腑病の診断にも用いられる。原穴を通じて十二経の原気の盛衰を診断することができる。《霊枢・九針十二原》には「五臓有疾也,応出十二原。十二原各有所出,明知其原,睹其応,而知五臓之害矣。(五臓に疾有り、これ十二原に応ず。十二原各々出ずるところあり。その原を明らかに知り、その応を見て、五臓の害を知る。)」と述べられている。これは、十二原を診察することで脈気の盛衰を理解し、臓腑の疾病を診断できることを示している。

具体的には、原穴に反応点を見つけ、それを内臓疾患の診断の根拠とする。たとえば、心筋炎の場合、大陵に圧痛が現れやすい。腎小球腎炎や腎盂腎炎の場合、太渓に圧痛が現れやすい。また、経絡測定器を用いて原穴の電位差を測定し、臓腑経絡の虚実を判断する方法もある。このようにして原穴を選び、治療に用いるのだ。


三. 絡穴

絡穴は、絡脈が経脈から分岐する部位に位置する腧穴である。十二経脈それぞれに一つの絡穴があり、すべて肘や膝より下に位置している。これに加え、任脈の絡穴である鳩尾、督脈の絡穴である長強、脾の大絡である大包穴を含めると、合計で十五の絡穴になる。これを「十五絡穴」という。

十五絡穴


絡穴の主な作用

絡穴の主な作用は、表裏の経脈を連絡し調節することだ。このため、絡穴は主に表裏関係にある経脈や臓腑の同時病証の治療に使われる。

例えば、

  • 足陽明胃経の絡穴である豊隆は、喉痺、癲狂(高所に登って歌い、衣服を捨てて走る。精神疾患の一つ。)、腹脹、腹痛などの足陽明胃経の病証だけでなく、顔や四肢の浮腫、身重、嘔吐などの足太陰脾経の病証も治療できる。

  • 手太陰肺経の絡穴である列缺は、咳嗽、胸痛、喉の痛みなどの手太陰肺経の病証に加え、顔面神経麻痺、鼻塞、頭痛などの手陽明大腸経の病証も治療できる。

他にも、

  • 任脈の絡脈が腹部に広がっているため、胸腹部の疾患には鳩尾を用いる。

  • 督脈の絡脈が頭部に散布し、足太陽経に並走しているため、頭部や腰背部の痛みには長強を用いる。

  • 脾の大絡が胸脇に広がり、全身の気血を網羅しているため、全身の痛み(線維筋痛症など)や全身の関節の緩みの治療に大包穴を用いる。


四. 背部兪穴

背兪穴とは、臓腑経絡の気が背中や腰に流れ込む腧穴で、各臓腑の名前を冠している。背部兪穴は足太陽膀胱経の第一行線上に位置し、内臓の位置に対応して上下に並んでいる。背部兪穴は全部で12穴ある。

背部兪穴


背部兪穴の主な作用

背部兪穴は内臓と体表の連絡部位である。対応する内臓の病気を反映するだけだなく、対応する内臓の病変を治療する作用も持っている。そのため、背部兪穴は臓腑病の治療に用いられるだけでなくま臓腑病の補助診断にも使用される。

臓腑組織や器官に病変が生じた場合、対応する背部兪穴に変化(皮膚の変色、凹み、突起、結節や索状硬結、圧痛など)が現れることが多い。

《霊枢・背脳》には、「欲得而験之,按其処,応在中而痛解。(これを確かめるには、その場所を押してみればよい。押したときに痛みが中に響けば、その場所が病の原因であることがわかる。)」と記されている。背部兪穴に鍼を刺したり灸をすることで、対応する内臓の病気を治療することができる。たとえば、痤瘡(にきび)の患者では、背部兪穴付近に皮膚色の変化が見られることがある。

肺兪は肺の病気を治療できる。心兪は心の病気を、肝兪は肝の病気を治療できる。他の背部兪穴も同じである。

背部兪穴は臓腑機能を調節するため、臓腑に関連する部位や器官の病気の治療にも役立つ。

たとえば、肝は目に開竅しているため、肝兪は目の病気を治療することができる。同様に、腎は耳に開竅しているため、腎兪は耳鳴りや難聴を治療することができる。脾は四肢を主るため、脾兪は四肢のだるさを治療することができるのだ。


五. 募穴

募穴とは、臓腑経絡の気が胸部や腹部に集まる特定の腧穴である。各臓腑にはそれぞれ1つの募穴があり、合計で12穴ある。

墓穴じゃないよ。募穴だよ。


募穴の主な作用

募穴は多くの場合、対応する臓腑の近くに位置し、内臓の機能を調節する役割を持っている。背部兪穴と似ており、病気の補助診断としても、病気の治療にも用いられる。

例えば:

  • 胃痛: 中脘に圧痛が現れることが多い。

  • 下痢: 天枢に圧痛が現れることが多い。

  • 尿失禁や尿閉: 中極に圧痛が現れることが多い。

このように、募穴を取って診断し治療に用いることで病気を改善することができる。

背兪穴との違い

背部兪穴は主に陰の病証、募穴は主に陽性の病証に多用することが適している。

背部兪穴と募穴はどちらも臓腑経絡の気が集まる部位であり、対応する臓腑の病気を治療することができる。しかし、古代の医師たちはそれぞれの治療効果に特長があると考えていた。

《発揮》には「陰陽経絡、気相交貫,臓腑腹背,気相通応。(陰陽の経絡の気は相交わり通じる。臓腑は腹部と背部で気が通じ合っている。)」と記されている。

経気は陽から陰、陰から陽へと流れる。つまり腹(陰)背(陽)が通じ合うことで、陰陽平衡を達成し正常な生理機能を維持しているのだ。

身体が病変を起こした場合、五臓や陰経の病邪は陰から陽へ、六腑や陽経の病邪は陽から陰へと移行することが多い。これを《難経・六十七難》では「陰病行陽、陽病行陰」と記している。

《素問・陰陽応象大論》では、陰病と陽病の治療法について次のように説明している。「善用針者,從陰引陽,從陽引陰。(針を巧みに使う者は、陰から陽を引き出し、陽から陰を引き出す。)」とある。

また、明代の張世賢は《図注八十一難経辨真》において、《内経》や《難経》を基に兪募穴の治療特性を具体的に説明している。「陰病行陽,当從陽引陰,其治在兪;陽病行陰,当從陰引陽,其治在募。(陰病行陽の場合、陽から陰へ引く治療を行う。それは兪穴で治療する。陽病行陰の場合、陰から陽へ引く治療を行う。それは募穴で治療する。)」と述べている。

したがって、背部兪穴は主に陰の病証、つまり五臓病、慢性病、虚証、寒証の治療に用いて、刺鍼の際には補法を多用し、さらに灸を加えることが適している。一方、募穴は主に陽性の病証、つまり六腑病、急性病、実証、熱証の治療に用いられ、刺鍼の際には泻法を多用することが適している。

ただし!ここは要注意である!
これは一つの見解に過ぎず、現在では細分化する必要はないとされている(募穴は補うのに多用する)。臓腑に病変が生じた場合、虚実や寒熱を問わず、対応する兪募穴を用いて治療することができる。


六. 八会穴

八会穴は、臓、腑、気、血、筋、脈、骨、髄の精気が集まる特定の腧穴である。そのため臨床では臓、腑、気、血、筋、脈、骨、髄の病変に対応する腧穴を選んで治療する。

たとえば、腑病には中脘、臓病には章門、気病には膻中、血病には膈兪を取る。

八会穴


七. 八脈交会穴

八脈交会穴は、奇経八脉と十二正経の脈気が交わる8つの腧穴を指す。 八脈交会穴は十二経脈に属し、また奇経八脈にも通じるため、十二経脈と奇経八脈の両方を調節する作用があるため応用範囲は広い。

《医学入門》では「周身三百六十穴,統于手足六十六穴,六十六穴又統于八穴。(全身に三百六十の穴があり、それは手足の六十六の穴にまとめられる。この六十六の穴はさらに八つの穴にまとめられる。)」と述べられている。このため、八脈交会穴は非常に重要とされているのだ。

臨床では単独でも組合わせても使うことができる。たとえば、督脈または小腸の病証には後渓が、衝脈または足太陰病証には公孫が使える。

手と足の腧穴の組合せ


八. 下合穴

下合穴は、六腑の気が下肢に集まる6つの腧穴を指し、六合穴とも呼ばれる。 下合穴は主に六腑の病の治療に使用される。

《素問・咳論》では「治臓者,治其兪,治府者,治其合。(臓の病は兪=背部兪穴で治療する。腑の病は合=下合穴で治療する。)」と述べられている。たとえば、胃痛には足三里、痢疾、泄瀉、腸癰には上巨虚、脇痛には陽陵泉を取る。

下合穴は全て下肢にある


九. 郄穴

郄穴は、経脈の気が深く集まる部位の腧穴を指す。十二経脈にはそれぞれ1つの郄穴がある。加えて奇経の陰維、陽維、陰蹻、陽蹻にもそれぞれ1つの郄穴がある。これらを総称して「十六郄穴」と呼ぶ。

十六郄穴。郄は隙間っていう意味。


郄穴は、急性の病状や痛みの治療に特に効果がある。たとえば、急性の痛みや出血には郄穴を用いることが多く、これにより速やかな症状緩和が期待できる。

郄穴は気血が集まる場所であり、気血の調整作用がある。臨床では診断補助および治療に使用される。多くの疾病で郄穴に反応がみられる。たとえば、胃痙攣では梁丘に圧痛が現れることがある。そのまま、胃脘痛の治療に使用される。

陰経と陽経で使い方が異なる

陰経と陽経の郄穴の使い方にはそれぞれ異なる点がある。陽経の郄穴は急性の痛みの治療に多く使用され、陰経の郄穴は出血症に多く使用されるのだ。たとえば、胃痛には梁丘、胸痛には郄門、背痛には養老を取る。一方、咳血には孔最、呕血には郄門、便血や崩漏には地機を取る。

現在、郄穴の使用については急性病と慢性病のいずれに対しても使用することができると考えられている。


十. 交会穴

交会穴は、二つまたはそれ以上の経絡が交わる腧穴を指す。腧穴が属する経絡を本経とし、交わる経絡を交会経と呼ぶ。たとえば、三陰交は足太陰脾経の腧穴であり、足三陰経の交会穴である。この場、足太陰脾経が本経であり、足少陰腎経と足厥陰肝経が交会経となる。

交会穴は本経および交会経に属する臓腑や組織器官を調整する作用がある。百会は督脈に属し、足厥陰、足少陽、手少陽、足太陽の経絡が交わる場所だ。そのため、これら経絡が原因の頭痛やめまいの治療に使用できる。また、風池は足少陽経と陽維脈の交会穴であるたえ、外風の治療だけでなく内風の治療にも用いられる。

これらの要穴は、臨床において診断と治療の両方に重要な役割を果たす。各要穴の特性を理解し、適切に使用することで、効果的な治療が可能となる。


今回の記事では「特定穴(要穴)」について学んだ。

次回は「配穴の応用」を学ぶ。


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