【中医基礎理論 第22講】 - 陰陽学説 陰陽消長 - 消長平衡の原理は「陰陽対立・制約」と「陰陽互根」〜
前回の記事では「陰陽互根」を学んだ。
ポイントは3つ。
陰陽は互いをの性質を含むことで、交わり、機能している
陰陽は、相互に依存している関係をもつ
陰陽は互いに資生するが、共に弱まることがある
今回は、陰陽の法則4つ目、「陰陽消長」を学んでいこう。
陰陽消長
陰陽消長とは、「陰陽が静止して変化しないのではなく、絶えず互いに増減を繰り返していること」を指す。
消は減少または弱化を意味し、長は増加または拡大を意味する。古代の哲学者は、陰と陽の双方が絶えず動いて変化していると考えた。
1つの事物において陰と陽の量や比率は一定では無く、常に増加と減少を繰り返している。
中医学では陰陽のバランスを重視するが、陰陽の比率は常に50:50の関係ではなく、49:51になったり、51:49になったりして、常に揺らいでいるのだ。
陰陽の双方の減少と増加の変化は、一定の範囲、制約、時間と空間内で動的なバランスを保っている(動的平衡)。陰陽の消長変化により、自然界のすべてのものは相対的かつ動的平衡を維持できるのだ。
陰陽の消長の形式は、陰と陽の「量」が変化する「量的変化」のプロセスの中で、進退、増減、盛衰といった変化を起こす。
この陰陽の変動形式は以下の4パターンだ。
此長彼消
此消彼長
此長彼長
此消彼消
此は「これ」、彼は「あれ」という意味だ。
長の「増加」、消の「減少」を併せると、
此長彼消:これが増えて、あれが減る
此消彼長:これが減って、あれが増える
此長彼長:これが増えて、あれも増える
此消彼消:これが減って、あれも減る
という意味になる。
最後に「これ、あれ」を陰陽に置き換えると(ここでは「これ=陰」、「あれ=陽」とする)、
此長彼消:陰が増えて、陽が減る
此消彼長:陰が減って、陽が増える
此長彼長:陰が増えて、陽も増える
此消彼消:陰が減って、陽も減る
という意味になる。
それでは、4パターンを1つずつみていこう。
余談:消長の由来
消は減、長は増という意味だ。
なぜ、増減ではなく、消長というのか?
それは、消長の由来が「影の長さ」からきているからだ。
日時計の影は、太陽が最も高い位置にあるときは短く、明け方や夕方は長くなる。
影が増えて長くなり、減って短くなる(消えていく)様子が基になり、「消長」という表現になったのだ。
古代の哲学者は、陰陽が終始変動している様子を観察し、「陰長陽消(陰が増えれば陽が減る)」、「陽長陰消(陽が増えれば陰が減る)」を見出したのである。
陰と陽が相互に増減
陰陽が相互に増減を繰り返す形式は2つある。
「此長彼消」と「此消彼長」だ。
此長彼消
陰または陽が増加すれば、もう一方は減少する変化を指す。
陽長陰消と陰長陽消の2パターンがある。此消彼長
陰または陽が減少すれば、もう一方は増加する変化を指す。
陽消陰長と陰消陽長の2パターンがある。
陰陽が相反する運動をするのは、陰陽対立・制約によって生じる。
陰が増加すれば陽を制約し、陽は減少する。反対に、陰が減少すれば陽を制約する力が弱まるので、陽は増加する。
陽が増加すれば陰を制約し、陰は減少する。反対に、陽が減少すれば陰を制約する力が弱まるので、陰は増加する。
このように、陰陽の増減は対立制約の法則により生じているのである。
四季の変化と陰陽消長
自然界の四季の気候や昼夜の循環変化は、陰陽の消長の変化を示す代表的なものだ。一年の四季の気候変化は、冬の寒さから春の暖さ、夏の暑さへと変化する。これは、寒冷から徐々に温熱に向かう「陽長陰消」のプロセスだ。
その後、夏の暑さから秋の涼しさ、冬の寒さへと変化する「陰長陽消」も同様のプロセスだ。
四季の変化と寒暑の往来は、陰陽の消長の過程を反映している。一年の間に陰陽は一定の範囲内で消長を繰り返し、四季の寒暑が交互に繰り返される正常なパターンを形成している。
*これを「リズム運動」という言葉で説明することもある。陰陽の法則で「リズム」というキーワードが出てきたときは、「あっ、陰陽消長のことだ」と考よう。
そして、消長と合わせて、もう一つ大切なキーワードは「平衡」だ。
平衡とは「正常な範囲でバランスが取れていること」だ。
四季の変化で、もし、正常の範囲を超えて陰陽が増減してしまうと、「暑すぎる」や「寒すぎる」といった「異常気象」を引き起こしてしまう。
あくまで正常の範囲内で陰陽の増減がバラン良く繰り返されること=平衡であることが大切なのだ。
昼夜の変化と自律神経と陰陽消長
昼と夜の変化も陰陽消長により生じる。
昼の12時から夜の12時までを考えてみよう。
昼の12時を過ぎると、徐々に日は傾いて夕方になる。そして、完全に日が沈むと夜になり、夜はどんどん深まっていく。
これは「陰長陽消」で起こる変化である。
続けてみていこう。
深夜12時を過ぎると、今度は夜明けに向かう。明け方に日が昇り夜が明け、昼には太陽が最も高く昇る。
これは「陽長陰消」で起こる変化である。
このように、一日の中の昼夜の変化も、陰陽の絶え間ない消長平衡により生じているのだ。
自律神経も陰陽消長
人体には交感神経と副交感神経という2種類の自律神経がある。
交感神経は「闘争と逃走の神経」といわれるように、命の危険に関わる時に活発になる。
身体を活発・興奮させる働きをもつので「陽」に属す。
副交感神経は「リラックス」の自律神経だ。
リラックスしたり、のんびり休んでいる時に働くので「陰」に属す。
日中は活動するため、交感神経(陽)が優位に働く。そして、夜はゆっくり休むために、身体は徐々に副交感神経(陰)が優位になる。
これは「陰長陽消」のプロセスだ。
一方、夜は副交感神経が優位だが、朝になると活動を始めるために、徐々に交感神経が優位になる。
これは「陽長陰消」のプロセスだ。
夜にスマホを使用したり、遅くまで起きていると、夜なのに交感神経が優位になる。その結果、陰陽消長のリズムが崩れると、「朝起きられない」、「日中眠くなる」、「やる気が起きない」といった状態を引き起こす。
みなさんにも見に覚えがあるのではないか?
現代人の多くは、陰陽消長が乱れやすい生活を送っている。自然のリズムを意識した生活を送る重要性を、改めて見直す必要があるのかもしれない。
陰陽が同時に増減
陰陽が同時に増加、または減少する形式は2つある。
「此長彼長」と「此消彼消」だ。
此長彼長
陰または陽が増加すれば、もう一方も増加する変化を指す。
陽長陰長と陰長陽長の2パターンがある。此消彼消
陰または陽が減少すれば、もう一方も減少する変化を指す。
陽消陰消と陰消陽消の2パターンがある。
陰陽が同時に増減する「此長彼長(此消彼消)」は、互いの働きを助けたり、互いに資生する(相手を生む)、「陰陽互根」の関係性で生じる。
陰陽互根により、陽(陰)が増加すれば、陰(陽)を資生し、陰(陽)は増加する。
反対に、陰(陽)が減少すれば、陽(陰)を資生する力が弱まるので、陽(陰)は減少する場合もある。これは高齢者や虚弱者に起こりやすい。
このように、「此長彼長」と「此消彼消」は、陰陽互根によって陰陽が共にに増える(長)、または減る(消)という消長運動なのである。
四季の気候における此長彼長(此消彼消)
此長彼長(此消彼消)を、四季の気候変化の例でみていこう。
春から夏にかけて、気温はどんどん上昇する(陽長)。
それに伴い、降水量も増加する(陰長)。
これは、陽長陰長である。
反対に、秋から冬にかけて、気温はどんどん低下する(陽消)。
それに伴い、降水量も減少する(陰消)。
これは、陽消陰消である。
人体における此長彼長(此消彼消)
続けて人体における此長彼長(此消彼消)をみていこう。
飲食物の摂取が不足すると、気が不足する。
何故なら、水穀の精(陰)が不足することにより、気(陽)が生成されないからだ。
これは、陰消陽消である。
反対に、ご飯をしっかり食べれば、水穀の精(陰)が増える。そうすれば気(陽)が生成され、気力が充足する。
これは、陰長陽長である。
消長平衡の根本原理は「陰陽対立・制約」と「陰陽互根」
陰陽消長の根本原理は「陰陽対立・制約」と「陰陽互根」の法則である。
対立と制約により陰陽相互の消長が生まれ、陰陽互根互用により陰陽同時の消長が生まれるのだ。
2つの陰陽法則をベースにして、陰陽消長の法則が成り立ち、その結果、陰陽の動的平衡が維持されている。
自然界の寒熱温涼も、人体の気血陰陽も、「減っても減りすぎず、増えても増えずぎない一定の範囲内」で、絶え間ない消長運動を繰り返し、動的平衡を維持しているのだ。
健康であるということは、この動的平衡が維持されている状態である。
健康と陰陽消長
上の図をみてほしい。
緑色の四角は正常な範囲を表している。
青と赤は陰と陽を表している。
健康な状態とは、陰陽のバランス(動的平衡)が緑色の範囲で保たれている状態である。
そして、この緑色の範囲を逸脱すると人は病気になるのである。
ここで質問。
病気になりやすい人の特徴は何だろう?
季節の変わり目に、必ず風邪をひく人もいれば、全くひかない人もいる。
猛暑の中、夏バテになる人もいれば、平気な人もいる。
この違いはどこからくるのだろうか?
答えは、正常の範囲の違いである。
緑色(正常)の範囲は一人ひとり異なる。
広い人もいれば、狭い人もいる。
人体にストレスが加わる(邪気に襲われる)と陰陽バランスは大きく揺れ動く。
この時、正常範囲が狭い人は、陰陽バランスが正常範囲を簡単に逸脱してしまう。
そのため、体調が崩れやすいのだ。
反対に、身体が丈夫な人は正常範囲が広い。
そのため、陰陽バランスが多少崩れても正常範囲を逸脱しないので、体調を崩さずにいられるのだ。
生まれつき正常の範囲が狭い人(体質的なもの)もいれば、不摂生等で狭くなっている人(後天的なもの)もいる。
「鍼灸や中薬で体調を崩しにくくなった」という方は多くいるが、それは治療によって正常の範囲が広くなったからだ。
養生においても、治療においても、健康な状態を維持するためには「いかに正常の範囲を広げられるか」がポイントとなる。
治療家は、正常の範囲を広げられる技術を身につけてほしい。
消長平衡と病気のメカニズム(病機)
何らかの原因により、陰陽消長のバランスが乱れると、異常な状態になる。陰陽消長の変化が過度、または不足すると動的平衡が崩れ、自然界では気象の異常変化、人体では病変が引き起こされる。
つまり、陰陽対立で触れた「陽勝則陰病」、「陰勝則陽病」や、「陽虚陰盛」、「陰虚陽亢」は、陰陽対立・制約関係の異常であり、此長彼消または此消彼長が生じる。そして、「精気両虚」や「気血両虚」は、陰陽互根関係の異常であり、此消彼消が生じるのである。
陰陽対立でも触れたが、改めて見直そう。
此長彼消の病気のメカニズム(病機)
此長彼消には「陰長陽消」と「陽長陰消」がある。
陰長が過度になると、増えて強くなった陰が、陽を傷つけてしまう(陽消)。
この状態を「陰勝則陽病(陰が勝って陽が病む)」という。
治療方針は「陰を減らして、陽を足す」である。
反対に、陽長が過度になると、増えて強くなった陽が、陰を傷つけてしまう(陰消)。
この状態を「陽勝則陰病(陽が勝って陰が病む)」という。
治療方針は「陽を減らして、陰を足す」である。
此消彼長の病気のメカニズム(病機)
此消彼長には「陰消陽長」と「陽消陰長」がある。
陰消が過度になると、陰が陽を抑えられなくなり陽が亢進する(陽長)。
この状態を「陰虚陽亢」という。
治療方針は「陰を足して、陽を減らす」である。
反対に、陽消が過度になると、陽が陰を抑えられなくなり陰が盛んになる(陰長)。
この状態を「陽虚陰盛」という。
治療方針は「陽を足して、陰を減らす」である。
此消彼消の病気のメカニズム(病機)
此消彼消には「陰消陽消」と「陽消陰消」がある。
身体が衰えると、陰が減少した際、陽が陰を資生できないどころか、陰の影響をうけ陽も減少する。
この状態を「陰損及陽」という。
治療方針は「大量の滋陰」+「補陽」である。
反対に、陽が減少した際は、陰が陽を資生できず、陽の影響をうけ陰も減少す。
この状態を「陽損及陰」という。
治療方針は「大量の補陽」+「滋陰」である。
此長彼長の病気は無い?
此長彼長は陰も陽も過度に増加してしまう状態ですが、基本的に人ではみられない。
あるとすれば、ドーピングやアップ系の麻薬などを使ったときだろう・・・
自制心があれば防げる!
此長彼長は、病気ではなく、治療に応用する。
陰陽互根で触れた、「陰損及陽」と「陽損及陰」の治療法である。
「陰損及陽」による陰陽両虚証の場合、「大量の滋陰」+「補陽」を行う。これには「陽中求陰」を用いる。
「陽損及陰」による陰陽両虚証の場合、「大量の補陽」+「滋陰」を行う。これには「陰中求陽」を用いる。
この2つは、此長彼長を応用した治療方法である。
まとめ
今回は「陰陽消長」を学んだ。
ポイントは3つ。
陰陽の消長(増減)は、一定の範囲、制約、時間と空間内で動的なバランスを保っている(動的平衡)。
陰陽の変動形式は「此長彼消」、「此消彼長」、「此長彼長」、「此消彼消」の4パターンである。
消長平衡の根本原理は「陰陽対立・制約」と「陰陽互根」である。
次回は法則の5つ目、「陰陽転化」を学んでいく。
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