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【中医基礎理論 第44講】 -人体の基本物質- 精って何?精の概念、分類、生成、機能のまとめ!

精、気、血、津液、神は人体の生命物質と機能活動に関る概念です。『霊枢・本蔵』には、「人の血気精神とは、生を養い、生命を保つためのものである」と記されています。

精、気、血、津液は人体の生命活動を構成し、維持するための基本物質です。これらは臓腑機能活動の産物であると同時に、臓腑の機能活動を支える物質的基盤でもあります。

神とは、人体の生命活動を主宰し、外在表現を指す総称です。

他人を見て「あの人元気だよね〜。」と感じることってありますよね?

何を以ってそう感じたのか。

機敏な動きや、元気な声などから生命力の強さを感じると思います。

まさにそれが「生命力の外在表現」。中医学では「神」といいます。

神は精、気、血、津液を物質的基盤としながら、これらの基本物質の生成や運行などを調整する役割を果たしています。

この記事では、これら人体を構成する基本物質のうち、「精」の概念、生成、貯蔵、排泄および生理機能について学びます。


1. 精の基本概念

人体の精には広義と狭義の概念があります。

  • 広義の精: 気、血、津液などの人体のすべての精微な物質を含むもの

  • 狭義の精: 生殖の精を指すもの

精は人体の生命活動を構成し維持する最も基本的な物質です。『素問・金匱真言論』に「精は身の本なり」とあるように、人体の生命活動にとって重要な意義を持っています。

精は臓腑、形体、官竅に蓄えられ、臓腑、形体、官竅の間を流動しています。《霊枢・本神》には「是故五臓者,主蔵精(ゆえに五臓は精を蔵することを主とする)」と記されていてたり、《素問・経脈別論》には「食気入胃,散精于肝,淫気于筋。食気入胃,濁気帰心,淫精于脈。脈気流経,経気帰于肺,肺朝百脈,輸精于皮毛。毛脈合精,行気于府。(食気が胃に入り、精を肝に散布し、気を筋に流す。食気が胃に入り、濁気が心に帰り、精を脈に流す。脈気が経絡を流れ、経気が肺に帰ると、肺は百脈を通じて精を皮毛に送る。皮毛の脈が精と合流し、気を臓腑に行き渡らせる。)」と記されています。

中医学における精の理論は、古代哲学の精気学説の深い影響を受けています。古代哲学の精気学説では、精と気は別ものとして捉えています。同じように、中医学でも精と気は別ものとして扱います。

2. 人体の精の生成、貯蔵、および排泄

(1) 精の生成

人体の精は、親から受け継ぐ「先天の精」と、清気(呼吸によって吸入される空気の精気)および水穀精微(飲食物から取り入れられる栄養素の精気)から得られる「後天の精」が融合して生成されます。

先天の精

先天の精は生命の根本的な物質であり、両親から受け継がれます。身体が形成される前から存在し、胎児の形成や次世代の繁栄を支える基本的な物質です。

遺伝子のようなものです。

古代の人々は生殖現象の観察や体験を通じ、男女の生殖の精が結合することで新しい生命体が生まれると認識しました。《霊枢・天年》には、人の発生について「以母為基,以父為楯。(母を以て基と為し、父を以て楯と為す)」と記されています。つまり、外向けの顔は父親、性格は母親の影響をうけるという感じです。

父母の生殖の精が結びつくことにより生命を育み、同時に次世代の先天の精に転化するのです。《霊枢・決気》には、「両神相搏,合而成形,常先身生,是謂精。(二つの精が互いに結びつき、形を成す。常に体に先んじて生まれる。これを精と呼ぶ。)」と記されています。

後天の精

後天の精は、先天の精と対になる概念です。

人が生まれた後に得る精で、自然界の清気(酸素をイメージしましょう)や飲食物から精微物質(栄養分をイメージしましょう)、そして臓腑の気化作用によって生成される精微物質などが含まれます。

生命の維持には、常に自然界の清気や飲食物から精微物質を取り入れることが必要です。自然界の清気や飲食物の水穀精微は、後天の精の生成基礎となります。とくに、飲食物から生成される精微物質は「水穀の精」とも呼ばれ、後天の精を構成する最も重要なファクターです。

後天の精は、脾や肺などの臓腑によって全身に運搬されます。《素問・厥論》には「脾は胃の津液を行き渡らせることを主とする」と述べられており、『素問・玉機真蔵論』では「脾主为胃行其津液 者也。”(脾は孤臓であり、中央の土は四方に滋養を与える)」と記されています。

人体の精は、先天の精を本とし、後天の精による絶え間ない補養を必要とします。先天の精と後天の精は相互に作用しあい、人体の精を充満させます。もし先天の精や後天の精が不足すると、発育不良、早老(早期老化)、生殖機能の低下、栄養失調などの病症を引き起こす可能性があります。

(2)精の貯蔵と排泄

1. 精の貯蔵

人体の精は臓腑や体の各部に貯蔵されます。

腎に蓄えられる先天の精は、生命の根本的な物質です。胎児期にはすでに各臓腑に精が貯蔵されています。一方、後天の精は脾や肺を経由して各臓腑に運ばれ、各臓腑の精に転化されるとともに、一部は腎に送られ、腎に蓄えられている先天の精を滋養します。ゆえに、《素問・上古天真論》では「腎者主水,受五臓六腑之精而臓之。(腎は水を主り、五臓六腑の精を蓄える)」と記されています。

各臓腑に蓄えられた精は、その臓腑の機能活動の物質的基礎となります。先天の精は主に腎に蓄えられ、後天の精の滋養を受けて生殖の精に変化し、生命の繁栄を支えます。そのため、腎は「先天の本」と呼ばれます。腎の精を蓄える機能は、腎の封蔵作用によって支えられています。

腎精は腎気を生みます。腎気の固摂封蔵作用により、精は腎に貯蔵され無駄に漏れ出ることなく、さまざまな生理的機能を発揮することができます。『素問・六節蔵象論』には「腎者主蟄,封臓之本,精之処也。(腎は蟄を主り、封蔵の本、精の所在である。)」と記されています。もし、腎気が虚弱で封蔵機能が失われると、遺精や滑精などの症状が現れます。
*蟄(ちつ:潜伏し守ること)
*遺精や滑精:どちらも意図しない射精。遺精は睡眠時、滑精は覚醒時におこる。

2. 精の排泄

精の排泄には主に二つの形式があります。
一つは、各臓腑に分布されて臓腑を潤し、気に転化して各臓腑の機能活動を促進・調整することです。もう一つは、生殖の精の排泄で、生命の繁栄を支える役割を担います。

腎に蓄えられている先天の精は元気を生じます。元気は三焦を通じて全身の臓腑に広がり、臓腑の機能活動を推進し、生命活動の原動力となります。このため、腎精が不足すると、全身の臓腑の生理機能に大きな影響が及びます。

後天の精は脾や肺を経由して各臓腑に運ばれ、臓腑の精として蓄えられます。そして、血や津液などの物質と相互に化生し、臓腑の生理機能を促進します。

このように、精は全身に行き渡り、人体を構成する基本的な物質であると同時に、各臓腑の生理活動を支える不可欠な物質的基盤です。もし臓腑の精が不足すると、それぞれの臓腑は正常な生理機能を維持できなくなります。

生殖の精は、先天の精と後天の精によって生成されます。つまり腎精から生成されます。人体が成長発達し、女性は「二七」(14歳)、男性は「二八」(16歳)に達すると、腎精が充満し、腎気が十分に満たされると、天癸が一定の量に達します。これを「天癸が至る」といいます。この状態になると生殖が可能になります。

『素問・上古天真論』には「男子“二八“,腎気盛,天癸至,精気溢瀉,陰陽和,故能有子。(男性は16歳(二八)で腎気が盛んになり、天癸が至る。精気があふれ、陰陽が調和するため、子供をもうけることができる。)」と記されています。

生殖の精の生成と適度な排泄は、腎気の封蔵、肝気の疏泄、および脾気の運化と密接に関係しています。

3.人体の精の機能

精は静かに閉蔵されている状態が適しています。絶えず巡る気とは異なり、その性質は陰に属します。精には重要な生理機能があり、以下の役割を果たします。

(一) 生命繁栄

先天の精には遺伝的な機能があります。後天の精と合わさり生殖の精が生成され、生命が繁栄します。父母は生殖の精を通じて遺伝子を子孫に伝えます。生殖の精は生命の遺伝物資流を載せ、新しい生命の「先天の精」となります。そのため、精は生命の根本とされます。

(二) 滋養作用

精には臓腑、形体、官竅を潤し、滋養する作用があります。先天の精と後天の精が充満していれば臓腑の精も充実し、各種の生理機能は正常に発揮されます。もし、先天の禀賦が弱い、または後天の精の生成が乏しいと、臓腑の精が不足し、滋養や潤いの機能が低下し、臓腑の機能が衰えてしまいます。

例えば、腎精が欠乏すると、生長発育の遅延、早老(早期老化)、性機能の低下による生殖能力低下が現れます。もし、脾精が不足すると、栄養不良、気血不足が生じ、肺精が不足すると、呼吸機能障害、皮膚や体毛の乾燥といった症状が現れます。

(三) 化血作用

精は血液生成の源の一つです。《張氏医通・諸血門》には「精不泄,帰精于肝而化清血。(精が漏れなければ、肝に帰りて清血と化す)」と記されています。腎は精を蔵し、精は髄を生じ、髄は血を生じます。その血は肝血として肝に蔵され、必要に応じて全身へ供給されます。精が充足していれば血も旺盛になり、精が不足すると血虚の状態になるのです。

(四) 化気作用

精は気を生じます。《素問・陰陽応象大論》では「精化為気。(精は気に化す)」と記されています。先天の精は元気を生じ、水穀の精は水穀の気を生じます。さらに肺が自然界の清気を取り込み、これら三者が合わさって一身の気(全身の気)を生成します。このように、精は気を生成する根本物質なのです。

(五) 化神作用

精と神の関係は、物質と精神の関係にあたります。精は神を生じ、神の物質的基盤となります。《霊枢・平人絶穀》には「神者,水穀之精気為。(神とは水穀の精気である)」と記されていて、神は精の生成と排泄を促進したり、調整する役割を持っています。《素問・刺法論(遺篇)》では「精気不散,神守不分。(精気が散らなければ、神は守られ分かれない。)」とあり、精が蓄えられることによって神が保持されることが分かります。そのため、精が不足すると神は衰退し、精が尽きると神もまた尽きるのです。

(六) 抗邪作用

精には身体を守り、外邪の侵入を防ぐ作用があります。精が充足していれば正気が旺盛で、邪気に対する抵抗力が強く、外邪に侵されにくくなります。反対に、精が不足すると正気もまた不足します。すると、邪気に対する抵抗力が弱くなり、外邪に侵されやすくなるほか、邪気を排除する力も弱くなるため、邪気が体内に潜伏し、特定の条件下で発病しやすくなります。《素問・金匱真言論》には「故蔵于精者,春不病温(精を蔵している者は、春に温病に罹らない)」と記されています。

4.人体の精の分類

精はその来源によって、「先天の精」「後天の精」に分けられます。また、部位によって「臓腑の精」、機能によって「生殖の精」「栄養の精」に分けることができます。

(一) 先天の精

先天の精は父母の生殖によって得られるものであり、胚胎を構成する原始的な物質であり、生命の発生の根本です。『霊枢・本神』では「生之来,謂之精(生まれる元を精と呼ぶ)」と記されています。

(二)後天の精

後天の精は、呼吸により取り入れられる天の清気と、飲食物から得られる水穀精微から成ります。これは、肺が気を主り、脾胃が飲食物を受け入れ消化吸収するなど、各臓腑の機能と密接に関連います。後天の精は、生まれたあとの生命活動を維持するために重要な物質です。

先天の精を基礎とし、後天の精はそれを補充する役割を担います。両者は互いに補完し合い、一体となって全身の精を絶えず生成し、充実させています。

(三)生殖の精

生殖の精は腎精から生まれます。腎精から化生された天癸によって生成が促進されます。子孫を繁栄させる機能があり、父母の生殖の精の交わりを通じて遺伝子を次世代に伝えることができます。男女の生殖の精が結びつくことで胚胎が形成され、新たな生命体が生まれます。

(四)臓腑の精

臓腑の精とは、各臓腑に蓄えられ、臓腑を潤し滋養する精を指します。これらの精は、先天の精と後天の精が融合により生成され、各臓腑の精として機能します。

臓腑によって精の存在形式や生理機能は異なり、各臓腑の精には以下の特徴があります:

  • 心精
    「心精」の概念は《素問・大奇論》に由来します。心精は心血と融合して心に蓄えられ、心、血脈および心神を滋養しています。

  • 肺精
    「肺精」の概念は《素問・経脈別論》の「輸精于皮毛(皮毛に精を送る)」という記述に由来します。肺精は脾から肺に送られる水穀の精と融合して肺に蓄えられ、肺および皮毛を潤し滋養しています。

  • 脾精
    「脾精」の概念は《素問・示従容論》に由来します。主に水穀の精から構成され、脾気によって他の臓腑に分配されます。脾精は臓腑の精に転化されるほか、気血を生成し、肌肉の成長を促進する働きもあります。

  • 肝精・腎精
    「肝精」と「腎精」の概念は《黄帝内経・太素・邪論》に由来します。肝精は肝血と融合して肝に蓄えられ、肝および筋、目を潤し滋養します。腎精は父母から受け継ぐ先天の精と後天の精が合わさったもので、腎を潤し、生殖の精を生成して生命の繁栄を支えるほか、脳を充満させ精神を養う働きを持ちます。

臓腑の精は各臓腑を潤し、さらに臓腑の気を生み出し、臓腑の生理機能を促進し、調整する役割も果たします。具体的には以下のような機能があります:

  • 心精・心血は心気に転化し、心が血脈を主り、精神活動を推進、調整します。

  • 肺精・肺津は肺気に転化し、呼吸運動および津液の分布を促進、調整します。

  • 肝精・肝血は肝気に転化し、気機を疏通させ、情志を調和し、精、血、津液の円滑な流れを促進します。

  • 脾精は脾気を生み、飲食物の消化吸収や血液の生成、運行を促進、調整します。

  • 腎精は腎気に転化し、人体の成長、発育、生殖、津液の生成・分布・排泄および呼吸の調整などを促進します。

最後に

今回は精を学びました。

腎に蔵された腎精は人の寿命を決めます(厳密には先天の精ですが、腎精が尽きる=先天の精が尽きることなので、ここでは腎精と記載しています)。

腎精を最も消耗するのは何だと思いますか?

それは、「病気」です。

なので、天寿を全うするためには、できる限り病気にならないこと、つまり、病気になる前に治してしまう=未病治が重要です。

中医学を用いて治療を行う際は、「いかに腎精を守るか」を意識しましょう。

次回は、「気」について学んでいきます。


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