【中医基礎理論 第36講】 - 五行学説 - 相克は相生の暴走を止める
木・火・土・金・水が相互を生み出す相生が、絶え間なく循環することで、世界もまた、絶え間なく運動や変化をしていく。
しかし、相生だけでは「生まれる」ことが延々と続くと厄介なことになる。
あらゆる物がどんどん過剰に生成されてしまうのだ。
自動車でいうとアクセルをずっと踏み続けて加速し続けるような状態だ。
暴走は困る。
そうならないためにはブレーキが必要だ。
五行において「制御」というブレーキの役割を果たすのが「相克」である。
今回は、「相克」について学ぶ。
相克も絶えず循環する
相克とは木・火・土・金・水の間に順序正しく相克、制約、抑制の関係が存在することを指す。
内容はジャンケンと同じだ。
例えば、水は火が燃えすぎないよう制御する。つまり、水は火に勝つ。
そして、木は金属で切り倒されることで、過剰な増殖が抑えられる。つまり木は金に負ける。
このように、五行は相互に制御し合う関係性を持っていて、それを「相克(そうこく)」という。相手を克す(負かす) ということだ。
どの五行がどの五行を克すのか(どの五行がどの五行から克されるか)は決まっている。
その順序が「木克土→土克水→水克火→火克金→金克木 ・・・」だ。
木克土は「木は土を克す(木は土に克つ)」という意味だ。
相生と同じく相克にも終わりはない。環の様にずっと循環している。
では、どうして木は土を克し、土は水を克すとなったのか?
その理由をみていこう。
相克関係の由来
木は土を克す(土は木から克される)
木は土を克す。
木は土の養分を吸い取って成長するからである。
そのように説明されることが多い。
実際は少し違う。
《素問・宝命全形論》にはこうある。
「土得木而達」
これは、「土は木によって通達される」と読む。
土は木に抑制されるが、この抑制は単なる制限ではなく、木の影響によって土がより通じやすく、流れやすくなることを意味している。
具体的には、木は成長してその根は土壌を貫く。この過程で土壌が緩くなると通気性が良くなり、植物の成長が促進され、結果的に土の循環と再生に寄与するのだ。
単に養分を吸い取るだけではなく、土にとってもメリットがある。
この関係性は、五臓に置き換えるとよく分かる。
肝(木)は脾(土)から栄養をもらうだけではなく、疏泄の働きで気をスムーズに流し、消化機能を助けているのだ。
相克は一方的な制御関係ではなく、相互にメリットがある関係だということは理解しておかなければいけない。
土は水を克す(水は土から克される)
土は水を克す。
これは土は水の流れをせき止めることができるからだ。
土嚢をイメージすると分かりやすい。
水は火を克す(火は水から克される)
水は火を克す。
水は火を消すことができるからだ。
火事の消火活動をイメージすると分かりやすい。
火は金を克す(金は火から克される)
火は金を克す。
金属は火で溶かされてしまうからだ。
ドロドロに溶けた真っ赤な鉄をイメージすると分かりやすい。
金は木を克す(木は金から克される)
金は木を克す。
木は金属でできた斧で切り倒されてしまうからだ。
現代ではチェーンソーで伐採することが多いが、チェーンソーも金属である。
五臓の相克
木・火・土・金・水の相克関係を、五臓に当てはめていこう。
ここでは腎と心、肝と脾の例にあげる。
腎と心の相克関係
水は火を克す。
これを五臓で置き換えると、「腎は心を克す」となる。
腎は水の性質を持っていて、心は火の性質を持っている。
心の火(心火)はそのままだとどんどん燃え上がり、とても熱くなってしまう。
そうならないように、腎の水(腎水)が心火を抑え、燃えすぎないよう調整しているのだ。
もし腎水が不足すると心火が亢進し、動悸や逆上せ(のぼせ)が生じてしまう。
*更年期障害でみられるタイプの一つ。
肝と脾の相克関係
木は土を克す。
これを五臓で置き換えると、「肝は脾を克す」となる。
脾は「運化」を主っている。
簡単に言えば消化吸収の働きだ。
この運化は気がスムーズに流れることにより正常に機能する。
もし、気の流れが滞ると運化が失調し、消化吸収が低下してしまう。
その結果、消化不良や下痢・便秘を起こす。
運化に必要な気の流れを調整してくれるのが、肝が主る「疏泄」だ。
疏泄により脾の気をスムーズに流し、運化を促進するるのである。
このように、肝と脾においての相克関係とは、機能を「促進」する方に制御するという特徴がある。
臨床でとてもよく使う考えなので、しっかり覚えておこう。
相克関係に母子関係はないが、母子関係と同じように2つの臓腑が同時に病んでしまうことがある。
腎が病めば心も病んでしまうし、肝が病めば脾も病む。
これは整体観念がある以上、やむを得ない。
相克の病理には「相乗」と「相侮」がある。
これらについては次回以降で学んでいく。
所不勝と所勝
最後に、相克関係で使われる「所不勝」と「所勝」という言葉について説明する。
五行相克の関係では、どの行(五行)も「克我」と「我克」の2つの側面を持っている。
「我」には五行が当てはまる。
たとえば「木の克我は?」と問われれば、「我(木)を克すものは?」という意味なので、答えは「金」となる。
また、「木の我克は?」と問われれば、「我(木)が克すものは?」という意味なので、答えは「土」となるのだ。
相生では、「生我」は「我を生むもの」として、「母」を表し、「我生」は「我がうむもの」として「子」を表していた。
相克に母子関係はないので、「所不勝」と「所勝」という言葉が使われる。
例えば、「金の所不勝は?」とか、「金の所勝は?」という感じだ。
所不勝とは「勝てない所」という意味だ。
勝は「克」、不は中国語で「否定形=not」を表す漢字で、所は五行(木・火・土・金・水)を指す。
つまり、「金の所不勝は?」の意味は、「金の克てない相手は? = 金を克す相手は?」という意味で、答えは「火」となる。
最初は難しく感じるが、他のパターンも考える内にすぐ慣れてくる。
金の所勝は?
所勝とは「勝てる所」という意味だ。
否定形の「不」が無いので、肯定文である。
つまり、「金の所勝は?」の意味は、「金が克す相手は?」という意味で、答えは「木」となる。
他の五行も考え方は同じである。
ぜひ、自分で考えてみてほしい。
まとめ
今回は五行学説の「相克」について学んだ。
ポイントは3つ。
相克(ブレーキ)は相生の過剰(アクセル)を制御する
「所不勝」は勝てない相手、「所勝」は勝てる相手
相克関係でも病気は伝播してしまう。
相克も絶え間なく循環しますが、相克だけで抑制ばかり働けば、結果的に何も生まれなくなってしまう。
そうならないように、相生が同時に働いている。
相生というアクセルと、相克というブレーキがバランス良く働くことで、人も自然も世界も正常に運行できるのだ。
*相生と相克は、五行の正常な関係なので「生理的な関係」である(病理的な関係は別にある)。
相生と相克が正常に機能している状態を「制化」という。
次回は「制化」について学んでいく。
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