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AIデジタルプロダクト開発における「ビジネス×デザイン×テック」が融合された働き方とは?
はじめに
AIやクラウド、デジタル技術が急速に進化する中、企業が新たに提供するプロダクトには、高度な技術力だけでなく、魅力的なユーザー体験(UX)や持続可能なビジネスモデルが不可欠です。
しかし、多くの企業では、ビジネス x デザイン x テクノロジーの各専門領域がサイロ化し、分断されたプロセスで開発が進んでしまう傾向があります。
本記事では、そうした「部分最適」に陥りがちな現状の課題と、3者を同じ“囲い”に入れて融合を図ることで回せるイテレーションの重要性について解説します。特に、専門的なケイパビリティを後で高めるとしても、まずは共同でのイテレーションを担保することこそが鍵となる理由を整理します。
1. 日本企業の現状と課題
1-1. AIプロダクト開発でありがちなチーム組成
日本企業におけるデジタルプロダクト(特にAIを活用した製品・サービス)開発を見ていると、以下のような構図がよく見られます。
ビジネスサイド:マーケット調査・企画・要件定義
デザインサイド:UI/UXデザイン、ユーザーリサーチ
テックサイド:AIモデル構築、バックエンド実装、インフラ構築
これ自体は専門性を生かす上で理にかなっているのですが、現場ではプロセスを切り分けて別々に進めてしまうことがしばしば。
例:
ビジネスサイドがターゲット・機能・指標を一方的に決める
デザインサイドが後からその仕様を基にUI/UXを検討する
テックサイドが「これは実現が難しい」と気づいても後戻りが大変
結果として、“少しのベクトルのズレ”が積み重なって、最終的に「本当に顧客が欲しいプロダクト」とは違うものが出来上がってしまうのです。
1-2. サイロ化が招く“プロセスの自己目的化”
各専門領域がバラバラに進むと、プロセスそのものが目的化しやすくなります。
マーケチームはデスクで膨大な市場調査資料をまとめ、「ここまでやったから満足」となってしまう
デザイナーは理想のUIプロトタイプを作ることに注力し、実際のビジネス要件や技術要件とは微妙にズレた仕様を検討し続ける
AIエンジニアはモデル精度の追求に没頭し、ユーザーが本当に求めるインサイトとは違う方向に進む
こうした“各自のやりやすいやり方”を優先した動きが、いつの間にかゴール(顧客価値創出)から遠ざかってしまうのです。
2. ではどうしたらよいか? 〜「正しい融合の形」とは〜
2-1. ビジネス×デザイン×テックの“三位一体”が回るチーム
真にユーザーに求められるAIプロダクトを生み出すためには、ビジネス、デザイン、テックが同じ場でイテレーションを回すことが欠かせません。
ビジネスサイドが検討する「ターゲット」「提供価値」「収益モデル」
デザインサイドが探る「ユーザー体験」「情報設計」「インタラクション」
テックサイドが担う「AIモデルの実装」「アーキテクチャ」「サービス運用」
これらが互いに影響し合いながら、「アイデア→実装→検証→学習→再検討」というサイクルを高速で回す。形だけの“プロセス”をチェックするのではなく、常にゴールを見据えて少しずつ角度を修正し続けるわけです。
当然、検証の結果、途中でプロダクトビジョンを見直したり、対象ユーザーを再考したり、そういった「戻り」があってしかるべきです。その戻りがある前提だからこそ、イテレーションの速さが重要なのです。
※ただし、AI Product開発ではあまりにも技術の進化のスピードが速いため、「とりあえずやって、失敗して、軌道修正する」という10年前に唱えられた、「Fail Fast Move Faster」の概念は終わり、正しくは、「うまく失敗する(fail well)」になったと考えたほうが良いと思います(何度も失敗が続くと、Teamは疲れ、市場の評価も落ち、その間に技術やニーズも変わっているのです
2-2. 共同作業のメリット
早期検証と方向修正が可能:仕様を早い段階で共有すれば、技術的制約やビジネス的リスクを素早く洗い出せる。
UXの質が高まる:ビジネスゴールとユーザー体験の両面から要件をすり合わせるため、“わかりやすさ”と“使いたくなる魅力”が確立されやすい。
イノベーションが生まれやすい:異なる専門知識が合わさることで、新しいアイデアや気づきが芽生える。
3. 正しい融合を実現するために何をすべきか?
3-1. まずは「同じ囲い」に入れる
最もシンプルかつ効果的な第一歩は、意図的にビジネス・デザイン・テックを“同じ囲い”に入れることです。
ここでいう囲いの定義は大企業であれば、組織再編かもしれませんし、小規模企業やベンチャーであればワークローケーションやコミュニケーション設計の話かもしれません(各自で”囲い”の定義を考えてみてください)
同じ囲いに入れられると、必然的にお互いの“次の動き”を意識してフィードバックを求める文化が生まれます。これが“分断されたプロセス”をなくすうえで重要です。
3-2. 専門的なケイパビリティは“後から”でOK
「ビジネスに強いがデザインは初心者」「デザイナーだがAIはよくわからない」といったギャップは当然あります。ですが、最初から専門スキルを全員に完璧に備えさせる必要はありません。
イテレーションを回す過程で、お互いの言語やスキルセットに触れ、経験を通してアップスキルすればよい
むしろ、一足飛びにスキルを身につけても、孤立して進めてしまえば本来の効果が得られない
重要なのは、「その時点で持てる知識・知見を、お互いに共有し合う」土台づくりです。必要に応じて外部の専門家(コンサル、アドバイザー)をチームに巻き込むのも一手でしょう。
3-3. 具体的な成功事例
例えば、ある企業がAIチャットボットを開発するにあたり、ビジネス企画担当、UXデザイナー、機械学習エンジニアが一つのプロジェクトルームを共有した事例があります。
毎朝5分のスタンドアップミーティングで進捗・課題を共有
UIの試作品を即座にエンジニアが実装し、ビジネスサイドが顧客インタビューと仮説検証を回す
お互いにフィードバックを出し合い、“使いにくい箇所”をデザイン改修→再テスト→再度ビジネス要件調整
こうした短いサイクルを週単位で行い、最終的にはユーザーに評価されるボットを予定より早くリリースできました。はじめはAIやデザインに不慣れだったメンバーも、イテレーションを通じて理解を深め、チーム全体のスキルが底上げされたというレポートがあります。
4. 結論・サマリー
結論:AIプロダクト開発で成否を分けるのは、ビジネス×デザイン×テックの三位一体が実践されるかどうか。各領域のケイパビリティは後から高めればよいが、まずは同じ“囲い”をつくり、イテレーションを回す文化が最優先。
ポイント
サイロ化を生まない仕組みを作る:各プロセスを分断せず、常にゴールを共有し合う
意図的に“場”をデザインする:物理・オンライン問わず、全員が同じ空間で協働できる仕組み
イテレーションを優先:まずは短いサイクルで試し、改善し合うことで、専門スキルも自然と伸びる
これからAIを活用したプロダクトやサービスを立ち上げる企業こそ、3者を最初から同じテーブルにつけ、学習サイクルを回す仕組みを意識してみてください。きっと、驚くほどスピーディかつ高品質な成果が得られるはずです。
最後に
もし皆さんの現場で、ビジネスとデザインとテックの連携がうまくいっていない、あるいはプロセスのどこかで詰まっているという課題があれば、まずは「同じ囲いを作る」小さな実験から始めてみてはいかがでしょうか?
「これまでにない新しいアイデア」や「リアルな学び」が、意外とすぐに生まれるはずです。
この投稿が、皆さんのプロダクト開発におけるヒントになれば幸いです。ご質問やご意見があれば、ぜひコメント欄で教えてください!