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UD-Stomp アラン・ホールズワースの魂が宿るスーパーディレイ
以前、たくさんのギター機材を断捨離した話を記事にしましたが、手放したことを唯一後悔していた機材がYamaha UD-Stompでした。
ディープなギターエフェクターの世界でも、一際の異彩を放つUD-Stomp。その魅力と、惜しまれつつも生産終了となった歴史、そして未来への願いを込めて、この深掘り記事をお届けします。
アラン・ホールズワースが開発に携わったドリームマシン
UD-Stomp は8つの独立したディレイを搭載するエフェクター。単なるディレイではなく、アラン・ホールズワースのサウンドを追求した、まさに夢のようなマシンでした。
アランは、複数のラックエフェクターを組み合わせることで、あの独特で深みのあるサウンドを生み出していましたが、そのサウンドを1台の機材に凝縮しようというコンセプトからUD-Stompは開発されたそうです。
※ Line 6のホームページに詳しい開発の経緯があります。
アランのアイデアが詰まったUD-Stomp
8つの独立したディレイは、それぞれに複雑なルーティングやパラメーターを設定することが可能で、それらを組み合わせることで多様なサウンドを創出。
アランが作成したプリセットを多数収録。
アランのサウンドを再現できるだけでなく、独自のサウンドを生み出す無限の可能性。
発売当時アランのあのサウンドが手に入るということで僕もすぐに購入。ラックシステムにUD-Stompを組み込み、2つのギターキャビネットを使いステレオで鳴らした瞬間、あの広大かつ深みのあるアンビエントサウンドが出力され衝撃を受けたこと覚えています。
UD-Stompは当時のテクノロジーを結集したモンスターマシンであり、ギター雑誌にも取り上げられ、その特異なサウンドはスタジオエンジニア業界にも注目されていました。
しかし、あまりにもマニアックな製品だった為か、一般的な普及には至らなかったみたいです。2002年の発売からわずか2年で生産終了というのも、その証左と言えるでしょう。
そして生産が完了して20年近い月日が流れました。
コロナ禍によりバンド活動から離れた僕は、たくさんのギター機材を断捨離することにしましたが、その機材の中にはUD-Stompの姿もありました。
UD-Stompを売ることには多少のためらいがあったのですが、僕が所有する最新のエフェクトプロセッサーであるAXE-FX3は、UD-Stompを上回る音声処理が可能であり、複数のディレイも配置できます。そうであるなら、20年も前に生産が終了した機種を所有し続けるのは、維持管理の観点から好ましくないと判断し売却することにしました。
いつか、記事にするつもりですが、UD-Stompが終売されて以降の僕は、音楽やギターをやめていく時期とも重なっていたので、何となく過去を整理したい思いも加わり売却への後押しとなりました。
しかし、この判断は後に後悔へと変わります。
UD-Stompのサウンドを追い求める日々
ある日、AXE-FXでアランのサウンドを再現すべく同じように設定して鳴らすのですが、どうもしっくり来ない。もちろんAXEのサウンドクオリティは高いし、その点はなんの問題もないのですが、UD-Stompと同じサウンドかと言えば何かが違う。
弾き手にしか分からない微妙な違いかもしれませんが、こうした思いが自分の心にくすぶり続けていく内に、UD-Stompを売ってしまった後悔の念が込み上げてきました。
「最新のエフェクトプロセッサーでも再現できない微妙な違いとは何なのか?」その答えを探すべくUD-Stompを求めてアマゾン奥地へと向かうのであった(笑)
その後はデジタルの密林をくまなく探すのですが、保存状態の良い個体がなかなか見つかりません。UD-Stompがビンテージ的な希少価値があると言っても、一部のアナログエフェクターに比べれば入手困難というほどの状況でもなく、価格もそこまで高騰している訳ではありません。
しかし、わずか2年という生産期間とディスコンとなって20年以上経過している状況からすれば、今後は間違いなくプレミア化し入手が困難になることが予想されるので、できるだけミントコンディションの個体を探し続けました。こういう時は、とにかくまめに検索するか、アラートを設定してひたすら待ち続けるに限ります。
UD-Stompを再び購入
そして、ついに再び手に入れました!Yamaha UD-Stomp
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保存状態も良好で、ショップの保証書もついています。
そして、満を持してUD-Stompを鳴らしました。プリセットはアラン・ホールズワースが作成した「NO.222 Volume Pedal Swell FX 2」
その時の様子を動画にしてTwitterに投稿しています。
MNG! Yamaha UD-Stomp 8つの独立したディレイを搭載するエフェクター。アランホールズワースが開発に携わっており動画ではアランが作成したパッチでプレイしています。8つのディレイが織りなす独特なアンビエント空間は、AXE-FXでも完全には再現できない唯一無二のサウンドです(イヤホン推奨) pic.twitter.com/gqT9T4FKS4
— Taka (@Takayuki5478) February 17, 2025
UD-Stompのサウンドを考察
音を出した瞬間に初めてUD-Stompを鳴らした時の感動が蘇りました。8つのディレイがレイヤーされた広大な空間サウンドは深海を漂うような浮遊感があり、そこにモジュレーションが加わることで、さらに深みが足されていきます。そしてUDを通すことで得られる独特な太いサウンド。
AXEと弾き比べると微妙な差なのですが、弾き手にとっては確かな違いとして感じます。
このサウンドの違いが何に起因するのか考察してみました。
エフェクトアルゴリズムの違い
AD/DAなどの違い
アラン・ホールズワースの開発への関与
エフェクトアルゴリズムについては、UD-Stompは独自のアルゴリズムを採用している可能性があり、AXEとは異なる設計思想に基づいていると思われます。これが音色のキャラクターや質の違いを生み出しているのかもしれません。
AD/DA変換については、ハードウェアの設計や部品の選定が音質に影響を与えることが知られています。DTMの世界でもハード音源とソフト音源では波形が同じでもサウンドの違いが論じられることがありますが、ハード音源に搭載されたAD/DAなどの回路部分の存在が根拠になることがあります。UD-StompとAXEでは、AD/DA変換の回路設計や部品の選定が異なるので、これがサウンドの違いに繋がっているものと考えられます。
アラン・ホールズワースは、音質に非常にこだわりを持つギタリストとして知られていますが、アランがUD-Stompの開発に関与したことにより、そのこだわりが設計思想の根幹となりました。その結果アラン好みのサウンドを目指して設計されたことにより、独自の質感やサウンドの太さにつながっている可能性は大いにあります。
これらの要因が複雑に絡み合って、UD-Stompのサウンドが形成されAXEのサウンドとの違いが生じていると考察しています。
実際ところ、どちらの製品も非常に高品質なサウンドを実現しているため、どちらが良いという話ではないのですが「最新のエフェクトプロセッサーでも再現できない微妙な違いとは何なのか?」という疑問に対しては、自分の中で一定の理解が得られたと思っております。
独自のサウンド作りへの挑戦
今後についてはアランのサウンドを楽しむだけでなく、独自のサウンド作りにチャレンジしたいと思っています。一つの手法としてAXE-FXとUD-Stomp、新旧エフェクトの組み合わせによる新たなサウンド作りを考えています。
Axe Fx IIIのShimmer Reverbという特殊なエフェクトを使った動画(再掲)今、考えているのはAxeとUD-Stomp新旧エフェクトの組み合わせによるアンビエントサウンドの創出。どんなサウンドになるのかはやってみないと分からないw pic.twitter.com/9vDswDF3yl
— Taka (@Takayuki5478) February 17, 2025
AXE-FXのような最新エフェクターと、UD-Stompのようなレガシー・エフェクトを組み合わせることで、どんなサウンドになるのかは想像もつきませんが、まずは楽しんでチャレンジしてみたいと思います。
アランとの短い出会い
余談になりますが、僕はアランのライブを観たことがあります。この時ライブ会場に予定より早く着いてしまい、時間を持て余していると、アランが会場の入り口から出てきてびっくり!一瞬迷ったのですが、思い切って声をかけることにしました。
頭が真っ白になりながらも、片言の英語でアランが参加したU.K.のアルバムでファンになったこと、自身がギタリストであること、アランをこれからも応援していきます。おおよそこのようなことを伝えたと記憶しています。
アランは短くThank Youと言って、僕に二言くらい言葉をかけ、僕もお礼を言うとそのままどこかに出かけていきました。時間にしてたぶん20秒くらいの出来事でしたが、緊張のあまり気が動転していたし、アランが僕になんと話しかけたのか今も分かりません。多分、ニュアンスからするとがんばれよ!的な激励だったと思います。
その夜のアランの演奏は凄まじいものがあり、まるで次元の異なる異空間サウンドに完全に打ちのめされました。この体験は終生忘れることはないでしょう。
アランのサウンドを後世に残すために
UD-Stomp。たった2年しか生産されなかったこのスーパーマシンにはアランや開発者が追い求めたサウンドと魂が込められており、歴史的な価値があります。それは今後も時代を超えて語り継がれていくでしょう。
そして、このサウンドの灯火を絶やさぬためにも、UD-Stompの機能を拡張した後継機を熱望しております。マニアックなハードウェア製品は採算面で難しい側面があることは理解していますが、Yamahaの子会社であるLine 6からHelixファミリーの製品にUD-Stompのエフェクトアルゴリズムを搭載する形なら、もしかしたら実現の可能性があるのではないでしょうか?
どうかこの記事がYamahaやline6内部の人の目に止まりますように(笑)そして、この記事が、アランのサウンドを未来へ繋げる一助となることを願っています。