放課後等デイサービス開設に込めた思い 〜これからを見据えて〜
放課後等デイサービスってどんなところ?
放課後等デイサービスは、児童福祉法に基づき設置できるもので、行政の許可を得て開設します。
その内容は身体障がい・知的障がい・精神障がい(発達障がいを含む)のある就学している児童に対して、放課後や休業日に通い、自立に向けた支援や社会的なコミュニケーション機会を確保することが目的とされており、現在のサービスは多様化しており、日常生活のスキル獲得を目指すところもあれば、学習・音楽・体操に特化したような事業所も見られます。
すべての人が自分らしく生きられる社会を目指して
私は児童養護施設の勤務の後、医療法人(急性期、回復期、慢性期)で医療ソーシャルワーカーとして10年以上の経験を経て、子どもから高齢者まで、障がいや多様性等を理由とした生きづらさをできるだけ軽減し、笑顔で生きていく支えになれる場所を作りたいと考えました。その目的のためには、地域で生活をしている人も、支援者として福祉を志す人も、どの人も笑顔で暮らせなくてはいけません。
しかし、どれだけ大きな夢や理想を描いていても、物事は着実に足場を固めなければ発展させることができません。子どもから高齢者までを対象としていながらも、事業としてサービス提供を長い将来に渡って継続できる基盤とそれに携わるうえでの理念や軸が必要であるということです。事業形態は介護保険法・障害者総合支援法・児童福祉法に基づくものを主体に、福祉に関係するものを考えていました。
そんな中、それぞれの子どもが持つ大きな可能性とその発達に対する強い関心があったこと、児童養護施設での勤務でその成長に寄与できる喜びを知っていたこともあり、子どもを支える事業を当初の柱とすることに決めました。
なぜ放課後等デイサービスに着目したのか
自身が思い描く放課後等デイサービスの姿は、それぞれの子どもたちに寄り添いながらも自立を促し、地域社会に根づき、その地域全体で子育てをしていく土壌を作る役割を担うものと考えています。
開設にあたり多くの事業所を見学させていただいて感じたことは、それぞれの事業所がお子さんに何ができて何ができないのかを知ったうえで、独自のコンセプトや特徴を打ち出していく必要があるということでした。
そして素敵な事業所もたくさん拝見することができた裏で、営利としての側面が取り沙汰され、コンセプトや理念なき経営が多い実情を知ることになりました。
保護者のレスパイトもサービスの大きな目的になりますが、そこには子どもたちにとってプラスになる療育が行われることが前提条件であると考えます。競合が多く、経営的に苦慮するだろうことを指摘される機会は多くありましたが、当たり前の支援をしっかりと行うことで差別化できてしまうような現状を感じ取ったと同時に、明確な支援の目標と意志を持って子どもたちと関わりたいと思ったのが大きなきっかけとなりました。
そして、その領域において特徴的なサービスを提供できれば、選ばれるデイサービスにすることができると考えたのです。
プログラミングを用いた支援を提供するデイサービス
将来に向けてIT教育が重要であると判断した厚生労働省は、2020年度の学習指導要領の中にプログラミング(思考)を盛り込んでいました。明確な方針が定められておらず教育現場では混乱している様子が聞こえてきたり、対応への優先順位が低くなってしまったこともありますが、論理的に筋道を立ててゴールまでの過程を描く経験は必要となるでしょう。
様々な機器に幼少から触れている今の子供たちは、コンピュータは感覚的に操作でき、かつ興味関心を持ちやすいツールとなっています。
そこで、『苦手なことにばかりにアプローチする支援のあり方から、得意なことや好きなことに目を向けて、ポジティブな感情から自身の成長を自発的に望むような環境をつくりたい』
そう考えて、プログラミングができるデイサービスを設立しました。よくスクール形式の学習支援と間違えられますが、担うべき役割は様々なお子さんの抱える困難にどう対処していくのかともに考え、見つけ出していくこと。
つまり、提供するプログラミングはコミュニケーションスキルの向上や、自発的な行動の促進、失敗が認められる環境、自身の考えや思いを言語化する等、困難に対して意図を持ったアプローチをするための手段であるということです。
プログラミングを支援のツールとするメリット
プログラミングの特徴は何と言っても、コンピュータを相手にしているため、うまくいかない時は必ず自分に責任があるということです。
これはとても重要なポイントで、対象としている子どもたちの中には他責的な傾向が強く、自身への振り返りから前進することが難しいケースも少なくありません。また、自己肯定感の低さから失敗に過度な恐怖や抵抗を感じ、挑戦が阻害されている場面もよく目にします。
プログラミングにおいては最初から完全なものを作るということは不可能に近く、間違えることは当たり前で、何度も試行錯誤して改善することで完成に近づいていきます。
この間違いが当たり前にできる環境というのは子どもたちにとって、とても大切な場所となり得ます。間違えてもまた挑戦すれば良いだけなのですから。
次に「できた」と感じるまでの時間が短いことが大きなメリットとなっています。普段、Scratchと呼ばれるビジュアルプログラミング(ブロック型)を使用していますが、いくつかのパターンを知ることで簡単なゲームが作れます。はじめてプログラミングに触れるお子さんでも、必要なブロックを指定したりヒントを出しながら取り組むことで、30分程度でも一区切りの活動ができます。
普段から経験や知識を積み重ねることが苦手であったり、そもそも30分じっと座っていることが難しいお子さんが、「やってみたい」、「楽しそう」というポジティブな思いが原動力になると、いつも違った表情を見せてくれたり、普段見えづらい長所がわかったりします。何より、自分で作ったものが目の前のパソコンに映し出される時は誇らしく感じ、言葉が苦手でも誰かに伝えたくなったり、誰かに触れてもらいたくなるものです。
このようなメリットを社会性の向上や成功体験を積み重ねることに繋げていくのです。
プログラミングと発達障がいの親和性
よくプログラミングと発達障がいは親和性が高く、その能力を発揮しやすいことなどが取り上げられているのを目にします。実際にアメリカのシリコンバレーなどでは、能力のでこぼこが大きくとも、突出した一つの才能に目を向けて支援する取り組みが行われているようです。
ただし、子どもたちと関っている立場から誤解を恐れず伝えると、その領域で能力を発揮して将来自立できるだけの仕事に就ける子は多くはありません。もしそのような能力があれば適切な環境に身を置き(もちろん本人の意思が最も尊重される前提)、最大限その能力を伸ばしていくことを追求するのも有効な手段となるでしょう。
しかし、多くのお子さんにとってはコンピュータに触れ、自身の能力で何ができるのかを知り、将来困ったことに対処するための情報にアクセスできるという力をつけることが一つのゴールになりそうです。
つまり、当たり前に『発達障がい=プログラミング』との思考ではなく、それぞれの子どもの特性や心情を理解しようとする姿勢が大切になるということです。
プログラミングを経験する中で、タイピングやデータ入力が得意であったり、デザインへの感性の鋭さや音楽的なセンスが高いことなどがわかったりします。要はそのような過程で発見した長所、本人の気持ちや思いに対して、いかにして尊重しつつ支持していけるのかを考え続けることが支援者の役目であるように思います。
思い出を共有する場所としてあり続ける
このように多くの子どもたちが興味のあることや好きなことを深掘りしつつも、横断的に成功体験を重ねられる場所であろうと常に意識しています。
そしてそのような経験をした場所は、子どもたちにとって大人になってからも安心できる感覚が残っていたりするものです。
だからこそ将来、自分を支える肯定的な思い出を共有する場所として、そこにあり続けたいなと考えています。