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【駄文】焼き肉食べ放題で精神的幸せは高まるのか
皆さんは食べ放題なら何が好きだろうか?
スイパラ?カニ?
僕は焼き肉食べ放題が好きだ。
ということで、昨日土曜日コロナの後遺症(味覚障害)も完治し、英気を養おうということで焼き肉食べ放題に行くことにした。
僕が行っている焼肉屋は焼き肉食べ放題のプランがいくつかあって一番オトクな約4000円のコース、牛タンが選べる5500円コース、最上級の黒毛和牛のメニューが入った6500円のコースの3種類がラインナップされている。
我が家において、焼き肉食べ放題にはビビンバが不可欠で、それが入っているのが、黒毛和牛のコースしかないせいで選択肢は最上級6500円しかない。
くっ、この時点で焼肉屋の術中にハマっているような気がしているが、もう後戻りはできない。
スタッフに席の案内をされ、腰を落ち着ける。
「それでは、ご注文が決まったら席の呼び出しボタンを押してください」
スタッフの滑らかな案内に対して
「もう決まってます」
特選黒毛和牛コースしか選択肢がないのだから、わざわざメニューを見る必要もない。
僕にはメニューを選ぶ権利はもはやないのだ。
「特選黒毛和牛の食べ放題コースをお願いします。
それと、最初のサーロインはいいです。」
そう、ここではメニューを頼む前に自動でサーロインステーキを含めた3メニューが提供されることになっている。
サーロインステーキのような硬めの肉を初っ端から食べた暁には、噛む回数が増えて満腹中枢へのシグナルが増えて、早く満腹を感じてしまう。
そういう魂胆なのはわかっているぞ。
何度も通った僕のレベルを舐めてもらっては困る。
そうして、2時間の焼き肉食べ放題が始まった。
食べ放題で必ず頭に浮かぶのは「元を取れるか」。
なので、僕はまず単価の高い特上牛タンと黒毛和牛カルビに選択肢を絞り、只管これをリピートしまくるという戦法を取る。
サーロイン?豚バラ?
それで限られた胃袋を埋めてしまうと6500円の元を取れないので、ひたすら同じものを食べ続ける。
あれちょっとまってさーろいんのたんかってわかんないや。
ふっと何か疑問が湧いた気がするが、特上牛タンの旨味には何者も抗えない。
胃袋の中身が特上牛タンで満たされていく。
それに伴って食べ放題に備えて空腹&ジムでいじめ抜いたことで下がった知能が戻って来る。
その知能がそっと囁いてきた。
コレって幸せ???
もはや味わうことよりも元を取ることに全力を投じていて、いかに大量の肉を胃袋に収めるかが最優先になってしまっているんじゃあないか?
でも一度始まったらもうやるしか無い。
せめて、噛みしめる肉の旨味を脳髄に刻むべく、
「オイシイ!オイシイ!!」
と自分に言い聞かせるように4文字のワードを繰り返しながら特上牛タン4人分をエンドレスループする。
特上カルビは美味いが脂の重みがエグいため、8人前分食べれば十分だろうということで、特上牛タンを主軸に牛すき肉、牛レバーなど合間に挟むことでルーティン化を防ぎつつ、箸休めに豆ナムルを貪る。
「ビビンバです。お熱いのでお気をつけください」
来た。ごはんものだ。
お前のせいで僕は黒毛和牛コースを頼まざるを得ないんだ。
でもそれだけの価値がこのビビンバにはある。
大量のコチュジャンをぶち込み、2つのスプーンを指揮棒のように石鍋の中で踊らせる。
おこげを作りつつも、それを叩き潰すという想像と破壊を繰り返しビビンバという芸術品を磨き上げていく。
完全におこげとご飯、具材が調和した。
だけど、コレで完成じゃあない。
ここに特上牛タンを敷き詰めていく。
そう、これが特選黒毛和牛コースにしかできない、ただのビビンバを「特上牛タンビビンバ」に進化させるという奇跡。
この奇跡的なビビンバをスプーンで掬い、自分の口に運ぶ
「オイシイ!オイシイ!!」
言葉にならない。
もはや鳴き声である。
妻は僕のこの鳴き声を聞いて
「よかったねえ」と微笑む。
妻は僕がたくさん食べるのを見るのが好きらしい。
物好きな人間もいるものだと思う。
妻は僕よりもゆっくり牛タンを焼き、キムチとともにサンチュの上に乗せて、味わうように食べている。
そのスピードでは、6500円の元は取れないだろう。
だが、そもそも彼女にとっては6500円の元を取ろうという気持ちは無いのだ。
元を取ろういうのは僕だけが持っている執念なのである。
任せろ、僕がその分たくさん肉を食べてみせる。
そう思った瞬間、脳内に飛び込んでくる緊急メッセージ
胃「そろそろやばいっす」
この時点で、黒毛和牛カルビを約10人前、特上牛タンを10人前、ビビンバやその他肉が胃袋に収まっている。
食べ放題用の量だとしても普段減量をしている僕の胃にとっては明らかにキャパオーバーなのは一目瞭然だ。
別の単価の高いメニューを頼まなければ。
メニュー端末をフリックしていた指が止まる。
牡蠣だ
牡蠣がある。
そう、ちょうど牡蠣フェアが開催されていて、食べ放題コースにも牡蠣があったのだ。
牡蠣を10個注文し、その間にキムチとオイキムチでインターバルを挟む。
妻はソフトクリームを食べている。
今日はカフェモカらしい。よかったね。
「おまたせしました、牡蠣10個です」
間髪入れずに焼き網に乗せる。
もう美味い。
美味いのがわかる。
牡蠣殻が天然の焼き石になって牡蠣へ熱を伝えていく。
この時間がもどかしくも心地よい。
妻はDuolingoを始めた。
お腹いっぱいとのことだ。よかったね。
こうしているうちにスロースターターだった満腹中枢が追いついてきた。
その満腹中枢に蓋をするように、牡蠣にポン酢をふりかけて口に運ぶ。
美味い。
脂分もなく、キャパシティ僅かな僕の胃袋の隙間に牡蠣たちが滑り込んでいく。
止まらない。
あっという間に10個を平らげた。
これで元は取れたはずだ。
胃袋も精神的幸福感もこの瞬間だけはパンパンだったのは間違いない。
そろそろ帰ろう。
妻にそう声をかけようとした瞬間
「おまたせしました、ビビン麺です」
は????
え、頼んでないんだが??え?どういうこと?間違って頼んだ?
「ヤッベ」
妻がテヘペロ顔をした。
頼んでいたのを忘れていたらしい。
馬鹿な、僕の胃袋キャパシティはゼロよ。
城之内くんも次週を迎えることなく撃沈するぞ。
いや、妻は割と早めに箸を置いていた。
まだキャパは残っているはず。
「おなかいっぱい」
二口ほど食べてスッと、お椀を僕の目の前に差し出す。
馬鹿な。
ほぼ残っとるやないか。
しかも炭水化物だ。
大学生の3500円会費飲み会の最後の最後で出てくる鍋と雑炊レベルの重さだ。
だけど、食べるしか無い。
食べ放題のルール「お残しは許しまへんで」という絶対的原則がそこにあるからだ。
恐る恐る口を運ぶ。
「オイシイ!オイシイ!!」
まだイケる。僕の胃袋はまだ膨らめる。
無我夢中でビビン麺を噛みしめる。
たとえ腹がいっぱいになっても、食材への感謝は忘れてはいけないのだ。
顔を前に向けると、
妻が2杯目のソフトクリームを食べていた。
別腹かよ。
そうして、僕の数ヶ月ぶりの焼き肉食べ放題はビビン麺で幕をおろしたのであった。
今このnoteを書いているけれど、昨日のあの肉の旨味を完全に思い出すことはできない。
食べ放題で元を取るために必死で食べていたから、記憶が薄いのか。
いや違う。
忘れることで、また肉を食べたいという欲をもち続けられるのだと思う。
焼き肉を食べていた瞬間、精神的な幸福はピークにあった。
それは間違いない。
その幸せをまた感じるために、脳はあえて体験を風化させているに違いない。
それを確かめるためにまた行こう。焼肉屋へ。