[2024-08-05]マーケット振り返り
投資家心理の悪化と市場の全面安
背景
2024年8月5日、東京株式市場で日経平均株価が3日連続で下落し、終値は前週末比4451円28銭(12.40%)安の31458円42銭となった。この下落は、米国経済の先行き懸念と円高の進行が主要因となり、投資家心理が大きく悪化したことが背景にある。
投資家心理の悪化
投資家心理の悪化は、複数の要因が重なり合った結果である。まず、米国経済の景気後退懸念が強まったことが一因である。7月に発表された米国の雇用統計では、非農業部門の雇用者数の増加が市場予想を下回り、失業率が上昇した。この結果、米国経済が景気後退に入る可能性が高まり、投資家のリスク回避姿勢が強まった。
さらに、米インテルの人員削減のニュースや中東情勢の緊迫化も投資家心理を悪化させた。これにより、米ダウ工業株30種平均は一時980ドルを超える下げを記録し、ナスダック総合株価指数も大幅に下落した。同時に、米国の長期金利が7カ月ぶりの低水準である3.7%台に急低下したことも、投資家の不安を助長した。
円高の進行とその影響
外国為替市場で円相場が一時1ドル=142円台まで上昇し、機械や自動車などの輸出関連株が売られた。円高は日本の輸出企業の利益を圧迫するため、これが株価の下落を引き起こした。さらに、米株価指数先物の軟調な推移も影響し、半導体関連株も大幅に下落した。国内の金利低下から、利ざや改善期待で買われていた金融株も急落した。
円高・ドル安の進行は、海外短期筋からの先物売りを引き起こし、日経平均を下押しした。市場では「海外勢による日本株の評価に変化が見られる。ここまで円高が進むと、企業業績への懸念もあり、日本市場から資金を移す動きは止まらないのではないか」との声が聞かれた。このため、相場の急落で追加証拠金が発生した個人投資家の売りや、相場の流れに追随するCTA(商品投資顧問)の売りも相まって、相場の下げが加速した。
市場の全面安
東証プライム市場では、値下がり銘柄数が1625と全体の98%を超え、全面安の展開となった。値上がりは14、横ばいは7だった。前週末に発表された7月の米雇用統計が米景気後退の懸念を強め、投資家のリスク回避姿勢を強化した。円高の影響で機械や自動車などの輸出関連株が売られ、国内の金利低下から金融株も急落した。
日経平均株価を対象としたオプション価格から算出する日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)は一時、前週末比55.27ポイント高い84.71を付けた。オプション市場ではプット(売る権利)の価格が大幅に上昇し、株価が今後も下落すると考える市場参加者が増え、プットの取引が活発となった。
銀行株の急落
日銀が追加利上げに踏み切った7月31日前後では、段階的な利上げサイクル入りへの思惑から、金利上昇による事業への好影響を見込んだ買いが銀行株を下支えしていた。しかし、米国の景気後退リスクが強まる中で、米長期金利が急低下し、日本の銀行株にも強い下押し圧力がかかった。三井住友フィナンシャルグループはストップ安となり、第一生命ホールディングスや野村ホールディングスも同様にストップ安となった。
サーキットブレーカーの発動
5日の円債市場では一時0.750%と4カ月ぶりの低水準をつけた。内外金利の低下などを受けた銀行株売りに拍車が掛かる中で、日経平均とともに、東証株価指数(TOPIX)も年初来安値を更新した。日経平均とTOPIXなど株価指数先物取引では一時、サーキットブレーカーが発動する事態となった。これは市場の混乱を抑えるための措置であり、一定の下落幅を超えると取引が一時停止される仕組みである。
今後の見通し
FRBの緊急利下げを期待する声もあるが、株安が一時的なものであれば、その可能性は低いとされる。また、日銀についても追加利上げの見込みは低く、これがドル円相場にサポート要因となるが、米国の利下げ観測が強まればドル売りを誘発し、相場に下押し圧力をかけることとなる。
急激なボラティリティの上昇を背景に、円キャリー取引のポジションが巻き戻される形で、一時1ドル=141円台まで円高が進行しているが、それまでの円キャリー取引に絡んだポジションの大きさゆえ、円高の流れが早々に収束するとは限らない。
日銀の追加利上げ観測の後退は、銀行株に逆風となる。5日の三井住友フィナンシャルグループは朝方のストップ安局面を経て、一時的に下げ渋ったが、後場に売り直しとなり再びストップ安に張り付いた。金融株のみならず、5日にストップ安をつけた銘柄数は800を超える規模となっている。個人投資家による追証に絡んだ売りが相場を一段と下押しすることへの警戒感が強まっている。
結論
今回の日経平均株価の急落は、米国経済の景気後退懸念と円高が主な要因である。これにより、投資家のリスク回避姿勢が強まり、東証プライム市場での全面安を引き起こした。市場の動揺が続く中、FRBや日銀の対応が注目されるが、金融政策の変更がすぐに実現する可能性は低い。投資家は冷静さを保ちつつ、相場の動向を注視する必要がある。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?