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公教育を支えるキーマンたち「全国の指導主事を応援する会」とは。

指導主事。都道府県や市町村の教育委員会事務局に所属し、地域の学校の校長や教員に助言や指導をする専門職員。学校教員として経験を重ねた実力者が就くことが多いと言われている。一般的にはあまり知られた仕事ではない。そんな「指導主事」を「応援する会」があるということをたまたま知った。有志による任意の活動「全国の指導主事を応援する会」を立ち上げ、運営する瀬川裕也さんにお話を聞いた。

FACEBOOKグループよりキャプチャ

――まずは瀬川さんご自身のキャリアを教えていただけますでしょうか。
現在私は、ベネッセコーポレーションで、地方自治体や全国の小中学校に対して、学力調査等アセスメント目的のテスト、GIGAスクール構想に伴う学習用教材、ICT支援員などの人的支援のご提供、それらのトータルコーディネート等をする仕事に携わっています。

元々は教師になりたくて教職免許を取り、先生になろうという思いもありました。ただ在学中、キャリア教育や働くということ、学校だけでなくもっと広く社会を知ることに興味を持ち始めて、民間企業や色々なことを知ったうえで学校の先生になるのもいいかなと思い直しました。その観点で卒業後はまず、人材紹介等を行う企業に入社、5年程、修行しました。次は教員になるつもりで情報を検索していた時に、たまたま今の会社の求人を見つけました。それらを知っていくと、一人の教員になるというより、もしかしたらより広く学校教育に関われるのではないかと思い、教員になる道ではなく、今の会社に転職したということになります。

――この会を立ち上げるに至った瀬川さんご自身の想いや課題意識を教えてください。
転職して希望した仕事につけたのですが、10年程やっていくと違う課題が見えてきました。何かというと、地方自治体の教育委員会や指導主事、そこにいらっしゃる人によって、その市や町の教育が、良い意味でも悪い意味でもかなりグラデーションができてしまうということです。そして当の指導主事は、学校教育のハブとなる役割なのに、キャリアトランジションに陥っている人が多く、悩んでいる人が多いという現実があります。「公」教育と言っているのに、こんなに差があって、本当にこれでいいのかなと。それとは別に、教育委員会や指導主事の方々が困っている状態を何か支援するようなことをしたいなという気持ちが掻き立てられました。

私自身、元々教師を目指していて、前職が人材会社ということもあり、たぶん働くことと教育ということに興味があったんです。そう思ったとき、私は仕事を通じて全国各地に行きますし、そうした課題意識のある人々をつなげられますし、一歩先行く先生や自治体を知っているので、何か役立てることがあるのではないかと考えて、完全ボランタリーで一念発起したというのが経緯です。

――キャリアトランジションの課題意識についてもう少し教えてください。
仕事を通じてたくさんの指導主事の方々と出会います。学校現場を離れて指導主事になることが実は不本意だという人も決して少なくなく、4月5月かなり落ち込んでいる人もいますし、その一方で、前向きでやる気に満ち溢れている人もいます。何なんだろうこの差は!と思いますよね。日本各地の教育委員会に配置された大切な仕事なのに、その人たちがこのようなコンディションで、こんなに差がある状態でいいんだろうか、という問題意識です。そして、私にできることであれば何かしてみたい!という気持ちが湧き上がってきました。

――「全国の指導主事を応援する会」の活動を改めて教えてください。
その名の通り、全国の指導主事を応援するために、2022年6月に立ち上げた有志のグループです。それ以前は私が個人的にFacebookを使っていて、仲良くなった先生や指導主事とFacebookでつながっていたくらいでした。
今この会には、全国の指導主事の皆さんが集い、当事者同士、共通して抱える悩みについて情報交換をしたり、様々なテーマについて対話会をしたり、仕事に役立つヒントを得られる学びの場づくりなどをしています。基本的に全てがオンラインの集まりで、Facebookグループをベースにして、時折オンラインでミーティングをする形をとっています。運営側も全員がボランティアで関わっています。

――大きなフェスというものもあるようですね。
指導主事サミット2023と称して、2023年2月26日(日)9時~12時、100名弱の方に参加いただくイベントを開催しました。普段は講師等としてご活躍の名の知られた方々にもボランティアでの参加をお願いして、「指導主事を応援する会」の応援団として、場を盛り上げていただきました。トークテーマは、この会の3大テーマと同じく、①コミュニケーション、②キャリアトランジション、③予算獲得、としました。参加者同士で対話を行い、それぞれが抱える悩みや、実践している取り組みを共有しあうことで、持ち帰れるヒントを得たり、実践の仲間づくりをする機会になれたらと思いました。

3大テーマについて詳しく教えて下さい。

  1. コミュニケーション…学校や地域、保護者や外部組織、教育委員会などとのコミュニケーションにおけるヒントや課題解決について

  2. キャリアトランジション…指導主事という特殊な役割・慣れない事務職などに、どのように適応していったら良いのかについて

  3. 予算獲得…既存事業や新規事業の予算をどのように獲得したら良いのか。スクラップ&ビルドはどのように行えばいいのかなど。

いずれの課題も、学校教員から指導主事へ、全く違う業務と慣れない環境に移ることで生じてくるものです。多数の指導主事および経験者にヒアリングをして、共通して浮かび上がってきたテーマでした。

焚き火会というものは、リアルに集まって行うのですか?
いえ、これもオンラインです。通常の会は土日の朝に実施することが多いのですが、そうではなく夜に集まる会で、あたかも焚火を囲むように話そうという意味を込めています。何かこう、知識を吸収して情報交換してというカチッとしたものでなく、もう少しゆるい温かいコミュニティを目指していますので、そんなイメージを込めています。

資料の中にありましたが、グラウンドルールも素敵ですね。

(出典:瀬川さん作成資料より)

はい、これはとても大切にしています。教育行政は、縦割り意識や年功序列意識がまだ根強く残っているところがありますが、このコミュニティではそうはしたくないと思っています。なのでフラットな場にする、言いたいことが言える、安全な場にするというのは、何よりも大切にしています。立場、役職、年齢、関係ない。相乗り、共感、質問も大歓迎。ここで話したことはこの場かぎり。とにかく誰もが、自由に語り合える場を一緒に創るよう、参加者の皆さんにお願いしています。

24年5月時点でコミュニティ登録メンバーが300名を超えたということですが、今後取り組んでいきたいことはどんなことですか?

(出典:瀬川さん作成資料より)

やっぱり「指導主事サミット」をもう一度実施したいですね。年に1回はやりたいと思いますが、やっぱり結構パワーかかるんです(笑)新しいメンバーも迎え入れながら刺激をもらっていきたいなと思っています。でも規模を大きくすることや、派手にやることが目的ではなく、細く長く、必要とする人たちがつながっていくことが大事かなと私個人的には思っているので、とにかく続けていきたいです。

――新しいメンバーも入ってほしいけど、急に大きくしたいわけではない。バランスの取り方、考えますよね。
それに、こうした活動は私たちだけが考えるものではなく、最近になって国や自治体も動き出しているんです。令和の日本型学校教育を進めていく中でも、公教育を下支えしている教育委員会の指導主事の課題に対して色々な提言が出つつあります。バラツキを是正していくことや、横断的な指導助言体制を作ることなどが議論されています。例えば、人口1万人以下の小規模自治体の指導主事をつなぐ「指導主事ミートアップ」が2023年11月に開催。小規模自治体ではその自治体に指導主事が一人だけという場合もあり、各々の課題を共有して共に解決を図ることが提言されています。

参考:「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けた調査研究協力者会議、報告書

そうした全国的な取り組みにより、仕組みや働き方が良くなっていけばいいと思いますね。先生の働き方改革は声高に言われていますが、指導主事や教育委員会スタッフの大変さはほとんど知られていません。なので今後は、その改善が行われて、働きやすい、楽しい、魅力的だな、と思えるような世の中になればいいなと願っています。

最後に、これを読んでくれた人にメッセージをお願いします。
皆さんご承知のように、今、日本の公教育が大きく変わりつつある過渡期かなと思っています。学校現場も、文部科学省も、それを支える教育委員会も、色々なところで変化が起きていると思います。過渡期だからこそ、課題がたくさん見えてきます。

なので、課題に気づいた人同士がつながって、課題に目を向け、改善していくことを繰り返していけば、日本の教育ってやっぱりすごいなって。そこで育つ子どもたちはすごいなって。それを見て私たちも学ぶところが多いと思いますし、子どもも大人も双方の成長が、たぶんきっと公教育だけでなく、日本を良くしていくと思います。

何よりこうやって、オンラインでつながり、学び合い、対話し、そのプロセスを通じてコミュニティがどんどん広がっていき、意味を共有しあって、共通の目標に向かって、皆さんのちょっとした思いが集まることによって『元気玉』になりますよね。そんなことがしたいなと思います。だから皆さんと一緒に、公教育の屋台骨であり懸け橋となる指導主事を応援することを通じて、公教育をより良くしていきませんか?と呼びかけたいですね。

👇全国の指導主事を応援する会のfacebookはこちらから

(参加するには申請が必要です)


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