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『風の谷のナウシカ』には非暴力コミュニケーションの教えがギュッと詰まっている

映画館で『風の谷のナウシカ』を観てきました。これまで何回も観ています。今回ももちろん感動したんですが、これまで私の中で曖昧だったところも、はっきりとした視点で観ることができ、そのため、より重くより切実に、受け止めることができたように思います。その視点とは、非暴力コミュニケーション(NVC)という視点です。

実りある対話を妨げ、暴力や対立を生み出している原因は、普段、わたしたちが慣れ親しんでいる話し方や考え方のなかにありました。わたしたちが知らないうちにしている「比較」や「評価」「決めつけ」が、誤解や無用な争い、暴力や怒りを生み出していたのです。
本書は、そうした暴力や対立を排し、人を思いやる実りある対話へと導くためのコミュニケーション手法(NVC=非暴力コミュニケーション)を伝授します。(amazon紹介文より引用)

この概念を知った上でこの作品を観ると、さらに心に迫るものがあるように思います。具体的なシーンと共に、その概念を紹介したいと思います。
(画像: ©1984・Studio Ghibli・H、二馬力・CH)

容赦なく攻撃する相手からも、話を聞こうとする

父が殺害されたのを目撃したナウシカが我を忘れて凶暴になり、敵国トルメキア兵を次々と倒したシーン。風の谷で皆に慕われる剣豪ユパが、自らの腕を犠牲にナウシカの剣を受け、両者の仲裁に入ります。ユパは片腕でナウシカの剣を受け血を流しながら、もう片手で相手騎士の喉元に剣をつきつけ、こう問います。

「トルメキア兵に聞く
この谷の者は昨夜 そなたたちの船を救わんと必死に働いた(略)
その国に対する これがトルメキアの礼儀か!
戦をしかけるならば それなりの理由があるはず
まず使者をたて口上を述べるべきであろう」

一方のナウシカにはこう諭します。

「ナウシカ 落ち着け
今 戦えば谷の者は 皆殺しになろう
生きのびて機会を待つのだ」

一触即発。両者とも殺気立つ死闘の中でこの冷静さと強靭さ。NVCの要諦と通じるものがあります。

評価をまじえず、行動を「観察」する
観察したことに対して抱いている「感情」を突きとめる
感情を生み出している要因、「何を必要としているか」を明らかにする
それを具体的な行動として「要求」する

剣豪であり人格者でもあるユパは、表面に出ている暴力行為ではなく、その奥にある相手の真意を引き出そうとしています。

自らの感情の揺れを知り、他者の感情を知ろうとする

ナウシカは我に返り、尊敬する大切なユパを傷つけていたことに気づき、目を見開いて恐怖します。怒りに駆られ、我を忘れ、暴力に身を委ね、気づいたら望まない結果になっていた…。それも一瞬のうちに。

この出来事以来ナウシカは、明らかに対立関係にある相手でさえも傷つけようとせず、救おうとすらします。自らのうちにある暴力性を自覚したナウシカが、他の存在の真のニーズにも意識的になったのかもしれません。腐海の底で銃をとり周囲を威圧しようとする敵国のリーダー・クシャナにも、静かにこう語りかけます。

あなたは何を怯えているの。まるで迷子のキツネリスのように…。

腐海という死と隣り合わせの世界で、銃口を突き付ける相手を見すえたその目は「共感」のまなざしであるようにも見えます。

怯えからくる攻撃性

映画の前半をふりかえると、序盤からナウシカのNVC的素養が現れているシーンがあるのに気づきます。それはキツネリスに指を噛まれるシーン。キツネリスがほんとは怯えているだけで、そのせいで攻撃的になっていることを感覚的に理解しており、噛まれたことは予想外だとしても、それも含めて受け入れます。そしてナウシカとキツネリスは強い信頼関係で結ばれます。

相手に身を委ね、自らをさらけ出す

物語の終盤。人間たちの争いのためにおとりとして傷つけられ捕らえられた幼生の王蟲に対してナウシカはただひたすらに謝ります。「ごめんね。許してなんて言えないよね。ひどすぎるよね。」しかし王蟲は我を忘れ、深い傷を負ったまま酸の湖に進み、ナウシカが自らの体を犠牲に止めようとする。そこで初めて、王蟲がナウシカの献身に気づき、落ち着きを取り戻し、触覚をとおしてコミュニケーションがされ、和解がおとずれます。

ここにも、NVC(非暴力コミュニケーション)の教訓が詰まっています。

「人から一方的に決めつけられ批判されるような局面では、どうしても自分を擁護したり、身を引こうとしたり、反撃したりしがちだ。しかし、NVCに切り替えることで、自分と相手について、自分の意図したことについて、相手との関係について新しい視点からの理解が可能になる。その結果、抵抗や防衛、暴力といった反応は最低限に抑えられる。評価や判定を下すことに注意を向けるよりも、観察し、感情に気づき、何を必要としているのかを明確にすることに集中すれば、深い共感へとつながることができる」(「NVC 人と人との関係にあらたな命をふきこむ法 新版」本文より)

まとめ

スタジオジブリ不朽の名作『風の谷のナウシカ』には、宮崎駿さんや制作陣がそれを意図していたかどうかはわかりませんが、NVC(非暴力コミュニケーション)の教訓がギュギュっと詰まっているように思います。
野暮とは思いつつ、作品に通底しているメッセージを強いて言うならば、「力や恐怖で支配するのではなく、共感や友愛によって世界を導くことができるか」、ということを問いかけているような気がします。2020年の今、あらためて深く感動的な作品です。

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