カフェとバイク
1960年代英国はロンドンのエースカフェには、ロッカーズと呼ばれる男の子たちが集まっては改造バイクで街道レースをやっていた。
ノートン、トライアンフなど由緒正しい英国製マシンをいかに軽く、速く、カッコよく仕上げるか。目指すは100マイル(160㎞/h)で走るヒーロー。
ヘアスタイルはリーゼント、トップスはオリジナルの装飾を施したレザージャケット、ボトムスはレザーパンツ、足元はエンジニアブーツで決まり。
当時英国は大不況に見舞われており、将来に希望を見出せない若者たちがあふれていた。世の中が荒れるととばっちりを食らうのはいつも若い人たちだ。そして彼らはバイクに乗って既存の社会に反旗を翻す。
日本の若者はバイクに乗って市街地で暴れ、官憲とモメるという最悪の行動に出たので、その後数十年にわたり日本のバイク文化は社会から白眼視されることとなった。当時は特に不景気だったわけでもない。「勉強ができず大人が認めてくれなかった」「大人の言うことが気に入らなかった」のだ。
エネルギーを持て余していたこと以外に共通点はない。60年代英国の若者とは根本的に事情が違う。
ロッカーズは街道レーサーである。事故を続発させ、騒音をまき散らす社会からの嫌われ者であったことは同じだ。
ロッカーズの作るマシンはカフェレーサーと呼ばれる改造バイクの思想・潮流となり、現在では女性ライダーにも好評を博すおしゃれバイクの代表格となっている。
今の時代、バイクはファッションだ。バイクの価値はスピードやパワーではない。ましてワルの象徴のイメージなどとんでもない。おしゃれでスタイリッシュ。それに乗ることで自己肯定感を上げられるものであること。これがバイクの価値である。
これこそ、バイクが女性に受け入れられた最大要因だ。だってバイクに乗っている自分がすごくかっこいいんだもの。カスタムするかしないかは自由。メーカーがレディメイドのカフェレーサースタイルのマシンを新車で販売もしている。
カフェレーサースタイルは女性の目におしゃれに映るカッコイイバイクなのだ。そしてお気に入りのウェアを着て、さっそうと走っていく。
スマホのナビに導かれ、たどり着くのは60年代英国のロッカーズと同じようにカフェである。だが当時のような街道レーサーのたまり場ではない。おいしいランチやスイーツがあり、SNS映えする素敵なスポットなのだ。
余談だが僕は学生時代の4年間を喫茶店でのアルバイトでバイクの親ローンを払い、片想いの女の子をデートに誘う軍資金を稼ぎ、卒業旅行で英国へ行く旅費も貯めた。実家はけっして裕福ではなかったが家賃、最低限の食費と光熱費は援助してもらった。そのほかの学費や遊興費は自前で稼いだ。きちんと四年で卒業もした。
コーヒーの淹れ方も習った。ペーパードリップ、ネルドリップなら、とてもうまいコーヒーを淹れられる。今でいうバリスタだが、もちろんそんなおしゃれなものではない。
バイクに乗ってどこに行くか。コーヒーの旨いカフェを探してどこまでも走る。現代のライダーのほとんどはツーリングライダーだ。ある者はコーヒーとスイーツを探し、ある者は絶景を求め、ある者はキャンプツールを積んで大自然に癒されに行く。
そしてスマホで写真に収めてSNSで発信し、動画を撮影してモトブログで紹介するのだ。
まさに隔世の感がある。1960年代英国では「カフェレーサー」とは騒音をまき散らし、事故を引き起こすろくでなしへの蔑称であったともいう。それが今やおしゃれバイクの象徴である。
うまいコーヒーと素敵なスイーツを探しておしゃれバイク女子がカフェレーサーカスタムを駆り、公道を行くのだ。
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