良い通訳をどうやって確保する?
【海外進出した経営者の悩み】 インドに赴任後まず通訳を探し、優秀な通訳との紹介があり即採用しました。しかし実際に仕事で通訳をしてもらうと、多々能力不足があり、商談の場ではとても通訳出来ないという状況で解雇せざるを得ませんでした。このような失敗がないよう良い通訳者を確保したいと思っていますが、どのように進めれば良いでしょうか?
【質問に対するお答え】
通訳の採用に当たっては、紹介等を鵜呑みにせず、経歴書や通訳実績書を提出させ審査するようにします。また。通訳は単なる現地語と日本語の変換だけでなく、業種固有のテクニカルワードや業務知識を有しているかのチェックも必要です。しかし、理想的な通訳を得ることは難しいのが現実であり、会社の業務や業界等について一定期間勉強させ、育て上げることが必要となります。
1.通訳の種類と使い分け
通訳は、その方式や形態によって逐次通訳、同時通訳、ウィスパリング通訳など数種類に区分されます。以下にその一般的な区分と活用法を示します。
(1)逐次通訳 (consecutive interpreting)
話者の話を数十秒~数分ごとに区切って、順次通訳していく方式であり、一般に通訳技術の基礎とされます。話者が話している途中、通訳者は通常記憶を保持するためにノートを取り、話が完了してから通訳を始めます。そのため、後述の同時通訳と比べてほぼ2倍の時間がかかりますが、訳の正確性が高まるため多くの通訳はこの形式で行われます。
(2)同時通訳 (simultaneous interpreting)
同時通訳は、話者のスピーチとほぼ同時に通訳を行う形態であり、通訳の中でも花形的な形式です。通例、通訳者はブースと呼ばれる会場の一角に設置された小部屋に入り、その中で作業を行います。多言語間通訳が行われる国際会議で特に多用されますが、多言語地域であるヨーロッパでは通訳の需要のほとんどが同時通訳です。
(3)ウィスパリング通訳 (whispered interpreting)
形式的には同時通訳と同一ですが、通訳者はブース内ではなく、通訳を必要とする話者の近くに位置し聞き手にささやく程度の声で通訳をします。自らの声やその他の音が障害となるため、正確な通訳を長時間行う事は非常に難しいとされます。高価な通訳設備の用意が必要ないため、企業内の会議などで使用されます。
2.通訳採用の留意点
海外進出に当たって、現地で確保しなければならない通訳は上記分類の、逐次通訳またはウィスパリング通訳です。東南アジアでは、その国の首都に必ずビジネスサポート会社やコンサルティング会社がありますので、ここを通じて通訳の依頼をするといいでしょう。
通訳の採用に当たっては先方の言い分を鵜呑みにせず、経歴書や通訳実績書の提出を求め、必要とする能力を有するかどうかを審査しなければなりません。優秀な通訳であれば、必ずこうした書類は準備しています。経歴としては、日本への留学や勤務経験のあることが望ましく、また、業種固有のテクニカルワードや業務知識を保有していることも望まれます。
しかしこのような理想的な通訳を得ることは難しく、どこかで妥協をしなければなりません。このような場合には、通訳者には即戦力を求めるのではなく、会社の業務や業界について一定期間訓練を行い、優秀な通訳として育て上げることが必要となります。
3.通訳の雇用の仕方
通訳は必要な都度テンポラリーに依頼する方法と、社員として採用し通訳業務に当たらせる方法があります。前者は前述のビジネスサポート会社や通訳会社に登録し、依頼者の必要に応じて通訳や翻訳業務を行う者でプロの通訳者です。 また国費留学制度により一定期間日本に滞在し、帰国後所属元の官庁に勤務しつつアルバイトとして通訳・翻訳業務を行う者もいます。こうした通訳は、技術系の職員であることが多く、工業の技術知識も深く、工場や製造業の通訳に向いています。
筆者がロシアで用いた通訳は、日本留学経験はないものの工業系大学の出身者で、技術理解力の高さを売りにしていました。
後者の社員通訳を採用する際には、その処遇に注意が必要です。一般に通訳料金はその国の物価水準からすると非常に高額であり、社員として採用する場合でも部長級や役員級の賃金を払うことになります。 日本人社長の秘書や総務部長的な立場で動くことが多く、現地人管理職からやっかみを買ったり、現地人でありながら日本側の意向に従った行動をとなければならない場合もあり、現地人との板挟みに合いますので、配慮が必要です。
また通訳に頼り切りになるのではなく、現地語を覚え簡単な日常会話等は現地語で行えるようになる努力は必要です。こうした努力が現地人との信頼関係を高め、異文化での適応力が養われます。
4.筆者の通訳雇用経験
筆者の海外業務はタイとロシアからスタートしました。幸いにも両国には日本語通訳が多く、ロシアには現地在住者ではなく、日本から通訳さんが同行してくれました。その後業務国もインドネシア、ベトナム、キリギス等に広がりましたが、日本語通訳雇用が段々と難しくなり、一段決心をして英語を習得しました。 日本語に比べると現地人通訳は数が多く費用も安価です。また現地の官庁勤務者や企業経営者等は海外経験を有しており英語でのやり取りできることが多いです。海外進出に当たっては通訳採用に加え、英語の出来る社員の採用や育成も進めましょう。