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ああ、五稜郭公園
夕飯に遅れると母ちゃんに怒られる。
で、うす暗くなった公園のベンチの
人影に声をかけた。
「おじさん、今、何時? ねえ、教えてよ、おじさん」
返事がない。
そこで、おじさんの背後から正面にまわった。
僕は見た。初めて見たのだ。
男と女が接吻していた。
今、考えても、かなりなディープキス。
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小学生のころ、遊び場のひとつが、五稜郭公園。
夕暮れまで洟たれ小僧は、あそびに遊ぶ。
いまでも表門の橋をわたる時、
そこから堀に飛びこんだ夏を思いだす。
あのころ、もっぱら犬かきか平泳ぎ、いまもクロールはにが手。
泳ぎ方なんかどうでもいい、
暑ければ近くの五稜郭のお堀にかよった。
![](https://assets.st-note.com/img/1677703991593-0ypIeVkW11.jpg?width=1200)
そのころの冬は、寒さがきびしく氷があつく張り、
お堀はスケート場に早変わり。
用具も防寒服も貧弱。寒さにふるえ、
霜やけで手足が痛がゆくなりながらもスケートに熱中。
スケート場以外は、氷が割れるおそれで滑走禁止だった。
餓鬼どもは、駄目といわれれば、やったみたくなる。
薄い氷にこわごわしながらお堀を一周。
探検隊気取りで、エイエイオー!
お堀での泳ぎも滑りもご法度となってから久しい。
![](https://assets.st-note.com/img/1677565304719-egsQPOjm2F.jpg?width=1200)
森鷗外の作品に、
発禁処分となった短編小説
『ヰタ・セクスアリス』がある。
タイトルは、ラテン語で「性生活」の意。
鷗外の6歳から25歳までの性的な自伝作品だ。
接吻シーンを描いた映画館の看板に
心をときめかす小学生には、
思いがけず出会った公園の接吻は、
まさに驚天動地であった。
興奮して眠られなかった夜を、いまでも覚えている。
五稜郭公園は、遊びの思い出とともに、
我の「ヰタ・セクスアリス」の
一ページを飾ったのだ。