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なぜ僕がタバコをやめてしまったのか。タバコと走ることについての覚書 【田口の雑談】

タバコをやめるのは簡単なことじゃない。そもそも、やめる必要性すら感じていなかった。僕の親父は75歳で肺ガンが原因で亡くなったけれど、それを目の当たりにしてもなお、タバコを吸うことで得られるメリットの方が大きいと感じていたくらいだ。

もちろん、禁煙に挑んだことがないわけではない。タバコの価格が上がるたびに「禁煙」という言葉が頭の片隅をよぎったし、丸の内にオフィスを構えていた頃は、喫煙所の少なさに驚いて「この機会にやめてみようか」と何度か禁煙を試みた。でも結局のところ、本気でやめるつもりなんてなかった。

そんな僕がタバコをやめたのには理由がある。「やめた」「禁煙した」という表現は適切じゃない。正確には、流れの中で「吸いたくなくなった」のだ。

このnoteには、なぜ僕がタバコをやめてしまったのか、そのきっかけとなった「走ること」や「筋トレ」、そしてそこから得た新しい発見についてお話ししていきます。タバコに代わる新しいリズムを見つけた過程を、ぜひ最後まで読んでみてください。


40代で感じた体力の衰え

RICOH GRⅢx + OPF 650-L

40代に入ると、体力の衰えを感じずにはいられなくなった。階段を登るだけで息が切れ、少し重い荷物を持つと腰が痛む。友人たちと登山に出かけても、息切れに苦しんで周りについていけない。普通に生活しているだけでも、身体が何となく重い。

社会人になってから二十数年、ずっとデスクワークを続け、特に運動をすることもなかった。娯楽といえば、仲間と美味い飯を食べながら酒を飲むか、音響設備を整えた自宅で映画を見ることくらい。不健康極まりない生活を長年続けてきたのだから、体力の衰えはある意味当然の結果だった。

そんな折、40歳のときに娘が生まれた。生まれて数年は特に気にならなかったが、幼稚園に入る頃には娘の体力が目に見えて増していき、自分が追い越される日も近いと感じることが増えてきた。その未来を想像すると、なんだか情けない気持ちになった。そして、それを避けたいと思った。

だから僕は走り始めた。最初は無理をせず、1kmを8分ペースで軽く走る程度だ。海辺の住宅地という土地柄、ランナーは多く、そんな中でスローペースの僕は80歳近い先輩ランナーに颯爽と抜かれる。それが悔しくて少しペースを上げると、すぐに息が上がって立ち止まらざるを得ない。それでも二日目には速度がほんの少しだけ上がり、走れる距離も伸びていった。

40代になると、自分の成長を感じる機会が少なくなる。でも、走ることは積み重ねが確実に成果として現れる。それが、走ることを続ける最初のモチベーションだった。

ニコチンが与えてくれていたドーパミン

SONY α7SⅢ + FE 85mm F1.4 GM + OPF 480-L

そうやって週に何度か走り続けているうちに、気がつくとタバコを吸いたいという気持ちが薄れていった。それは激しい息切れへの危機感だったのかもしれないし、他に理由があったのかもしれない。最初はその理由がわからなかった。

少し調べてみると、運動が脳内でドーパミンを分泌させることを知った。そして気づいた。タバコが僕に与えていたのも、同じドーパミンだったのだと。ドーパミンは「報酬系」と呼ばれる脳内システムを活性化させ、快感や満足感、やる気を司る重要な役割を持つ神経伝達物質だ。タバコを吸うと、ニコチンがドーパミンの放出を促進し、僕たちはその快感に慣れてしまう。

しかし、タバコに頼ることで脳は徐々に自分でドーパミンを生み出す力を失っていく。外部からの刺激なしでは満足を得られなくなり、それが「ニコチン中毒」と呼ばれる状態だった。

でも、走り始めたことで徐々に脳内のドーパミンが戻り、タバコへの欲求が薄れていった。タバコを吸いたい気持ちが減る一方で、もっと速く、もっと長く走れるようになりたいという思いが強くなり、自然とタバコから遠ざかっていった。

タバコの代わりに筋トレを

SONY α7SⅢ + FE 85mm F1.4 GM + OPF 480-L

すべてが順調だったわけではない。デスクワークをしていると、やはりタバコを吸いたくなる瞬間があった。特に行き詰まったとき、一服することで頭をリセットする感覚は長年の習慣だった。

そこで僕は考えた。「タバコを吸いたいとき、代わりに筋トレをしてみたらどうだろう」と。そうして、ベランダの灰皿の隣にダンベルを置いた。タバコを一本吸ったらダンベルを握り、ショルダープレスやアームカールを行う。

そんな「タバコ筋トレ」を始めて数週間が経つと、また変化が起きた。以前にもましてタバコを吸いたい気持ちが薄れていた。そしていつの間にか、無理に我慢する必要もなくなり、タバコの必要性そのものが消えていった。

禁煙は「やめる努力」ではなく

RICOH GRⅢx + OPF 480-L

禁煙に至った理由は色々あるけれど、一番大きな理由はとてもシンプルだった。それは、「美味しい空気をたくさん吸って、気持ちよく走りたい」という気持ちだ。

何かをやめるとき、「やめるために努力する」のはとても苦しい。でも、別の喜びを見つけて「そのためにやめる」のなら、ずっと楽だと思う。僕の場合、それがランニングだった。タバコの代わりに、軽やかに走る喜びが僕の人生に新しいリズムと体力をもたらしてくれた。

禁煙は、「何かを捨てる行為」ではなく、「何かを得る行為」だった。それが僕にとって精神的に健全で、自然な選択だったんだ。

参考資料

ニコチンとドーパミンの関係については、ニコチンが脳内の報酬系に作用し、ドーパミンの放出を促進することが知られています。これにより、喫煙者は快感を得て、依存症状が強化されます。日本行動医学会の論文では、ニコチン依存が報酬系の行動と強く結びついていることが指摘されています。

J-STAGE「喫煙行動(禁煙指導)と行動医学」

一方、運動も脳内のドーパミン分泌を促進し、認知機能や情動に影響を与えることが報告されています。日本体力医学会の研究では、運動が脳内ドーパミンと神経活動に変化をもたらし、認知パフォーマンスに効果を及ぼすことが示されています。

J-STAGE「運動による脳内ドーパミンと神経活動の変化:認知パフォーマンスへの効果」

これらの知見から、運動を取り入れることで、ニコチンによるドーパミン放出に頼らず、自然な方法でドーパミンを増加させることが可能であり、禁煙の支援策として有効であると考えられます。

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