ERCP における基本事項

胆道30 巻2 号189~197(2016)
ERCP の基本テクニック

ERCP における基本事項
1.使用機器
a.スコープ
ERCP に用いられる十二指腸用スコープは,後方斜視鏡と呼ばれる.視野方向が後方斜視となっており,十二指腸乳頭部を正面やや肛門側から見上げで観察できるようになっている.視野の下端中央がスコープの進行方向であり内視鏡画像と違いがあるため,挿入に際して注意が必要である.

b.カニューレ
先端形状やシャフトの硬度の違いにより各種カニューレが市販されている.最近は,造影に引き続きガイドワイヤーを介して各種処置を行うことが多いため,ガイドワイヤーを通した状態で造影剤注入可能なカニューレを用いる施設が多い.また,胆管挿管に際し欧米ではスフィンクテロトームが用いられることが多い.その理由のひとつは,欧米と本邦で用いられているスコー
プの視野角の違いにある.同じ位置で乳頭を見た場合,欧米で用いられているスコープは視野角が小さいため,視野の上方に乳頭が位置してしまい観察範囲内に入らない.観察範囲に乳頭を入れるためにはスコープを手前に引く必要があり,見上げの状態を作ることが難しくなる.スフィンクテロトームを用いると刃を張ることで先端を上方に向けて胆管軸に合わせることができ
るという点がその選択理由となっている.本邦においても,スフィンクテロトームは内視鏡的乳頭括約筋切開術施行例に対するwire-guided cannulation の際に第一選択として用いられる.また,スコープおよび鉗子起上装置の操作ではどうしても見上げの状態にできず,胆管の軸合わせに難渋するような選択的胆管挿管困難例に対してはスフィンクテロトームへの交換による角
度調整が有用である.

2.術者の立ち位置と機器配置
術者の立ち位置は,患者さんに対して向かい合うような姿勢が,スコープに余計な捻りなどが加わらないので良い.また,内視鏡モニター,X 線テレビモニターも同様の理由でできるだけ術者に向かい合うように患者さんの頭部背側に配置するのが良い.患者さんの状態把握が可能な各種モニターについても,術者のみならず,助手,介助者の全員が確認しやすい配置とするべきである.

3.放射線被曝への対策
ERCP 関連手技に伴う医療従事者の被曝線量を可能な限り低減することは医療安全上の最優先課題である.体幹を覆うコート型の防護具のほかに,甲状腺や角膜の防護対策として首に巻く防護具や眼鏡型の防護具も装着する必要がある.最近は,ERCP 用にX 線管球に対するカーテンタイプの防護シールドが市販されており,非使用時と比べて約90% 以上の散乱線を軽減すると報告されている

4.スコープ挿入
a.挿入時の体位
以前は初心者には左側臥位でスコープ挿入を開始するように勧めることもあったが,sedation 下での体位変換は困難であり,スコープ挿入時から腹臥位で行うのが良い.

b.挿入のコツ
後方斜視鏡でも,腹臥位での咽頭部の確認は比較的容易であり,下咽頭の左側から正中に向けてスコープを誘導するようにし,盲目的な挿入は避けるようにする.スコープのアップアングルをかけ過ぎず,スコープの先端が検査台と平行になるようにイメージしながら挿入すると良い.スコープを咽頭から食道入口部まで進めていき,ダウンアングルを少しかけると喉頭蓋から気管が観察できる.後方斜視鏡ではこの位置でスコープ先端がすでに食道入口部近くに位置しており,通常の内視鏡操作と同様にダウンアングルをかけながら少しスコープの軸を時計方向に押し込む操作で食道入口部を通過する.胃内にスコープが到達すると胃体上部後壁が進行方向の障害となるため,わずかに反時計回りの回転を加え,胃体上部後壁を確認しながら越える.次に時計回りの回転を加えて,胃体下部にスコープ先端を進め,さらにスコープを押し込むことで前庭部に近づく.幽門輪の通過には,幽門輪を視野の下側に位置させ,アップアングルからダウンへ戻す動きを利用する.十二指腸球部までスコープ先端を挿入した後に,上十二指腸角(SDA)を確認しスコープを十二指腸下行部へ誘導する.次に右アングルをかけてスコープ先端が下行部の管腔の中心に向かうようにする.引き続きアップアングルをかけて,スコープを引き始めると胃内でのスコープのたわみがとれスコープが下行部へ進み出す.ストレッチによりスコープ先端は主乳頭を越えて下行部の奥まで進むので,ここからゆっくりスコープを引き抜きながら主乳頭を探す.主乳頭を探した後にアップアングルや左右アングルを調節して正面視する.


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