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Usa e getta(使い捨て)

宮崎 様
今回もお時間のない中で急なお願いをしたにもかかわらず、こちらの都合でキャンセルとなってしまい、誠に申し訳ありません。次回お願いする際には、もっと前もって企画のご相談からできるよう準備させていただきます。
また、お電話差し上げます。何卒よろしくお願いいたします。
○○拝


そのキャセルとなった仕事は、「2018/19シーズンのCL準々決勝を控えるユベントスについて訊く、元ユベントス監督であるアントニオ・コンテへのインタビュー取材」。

依頼の主は日本で最大手とされるであろう「スポーツ・グラフィック・ナンバー編集部」。発注があったのは3月13日。締め切りは4月1日。ということは、どんなに遅くとも3月25日までには取材を終えておかなければならない。私の信頼するイタリア人記者が取材・執筆し、その翻訳を私が担うという流れになるからだ。交渉が上手くいけば不可能ではないスケジュールだが、被取材者は超のつく個性派で知られるコンテである。周到な準備を整えた上で交渉に当たらねばならない。加えて、当時のユベントス監督アッレグリとコンテは文字通り犬猿の仲である。コンテとユベントス首脳陣の関係も決して良好ではない。

よって3月15日、改めて担当編集者に対し急ぎ「質問項目」を用意するよう私は求めた。

ところが、同編集者が送ってきた質問とは以下の通りである。


質問項目
・C・ロナウドが移籍してくると決まった時、どう思ったか。順応し、いい変化をもたらすと思ったか、あるいはうまくフィットしないと思ったか。そしてなぜそう思ったのか。
・現状のユベントスを見てどう思うか。結果としてフィットしているように見えるが。
・C・ロナウドの適正ポジションは?マンジュキッチと併用するのがいいのか、ディバラの前でプレーするのがベストなのか。ロナウドに預ければ、というような王様的なプレーがいいのか、それとも別の使い方があるのか。
・中盤のベルナルデスキ、ベンタンクール、ディバラ、ピアニッチと、C・ロナウドの相性はどうか。やりやすいように見えるか、あるいはやりにくいように見えるか。
・CL、Aマドリー戦、1stレグはどう思ったか。0−2で負けたことには油断があったのか。それとも単に調子が悪かった?
・2ndレグでC・ロナウドのハットトリックで2戦合計逆転勝利を収めたが、勝利すると思っていたか?・点を取るたびに観客を煽り、自ら勝ちに行く姿勢を示したように見えるが、彼の存在についてどう思うか。また、彼の得点の凄さ、強みなどがあれば。
・チームの今後、CLでの予想は?決勝まで残る?優勝する?

ご覧の通り、すべての質問への回答が、「わからない」もしくは「相手による」で終わる内容でしかない。中学生以下。これが日本でナンバー1とされる編集部の実態(実力)である。よって、大幅な加筆と修正を加えて使える質問項目とすべく作業を私は強いられることとなった。

さらに、その担当編集者は私に次のように通告してきた。

「仮に取材に成功したとしても、主たる質問に対する回答を引き出せなければ、その場合、支払いはできない」。

そして、案の定、コンテ取材の交渉は難航した。 ‘

すると、3月16日の時点で編集部側から「コンテ取材中止」の通告が入る。
合わせて、いずれもユベントスOBである「マルチェッロ・リッピ、もしくはダビド・トレツェゲ」へと取材対象者が変化する。
結果、またしても大幅な加筆と修正を加えて使える質問項目を準備するよう私は強いられることとなった。

もちろん、この間も交渉は絶え間なく続けている。とりわけ中国にいるリッピとの交渉は難儀を極めていた。と同時に、ひとつの“保険”としてコンテとの交渉も並行して進めていた。

だが、3月17日を最後に担当編集者からの連絡はパタリと途絶えた。交渉を続けながら何度メールで問い合わせても返答は一切ない。

そして3月22日、冒頭に載せたメールが届く。より詳しい内容は以下の通りである。

宮崎 様
お世話になっております。ご連絡遅くなり、申し訳ありません。お電話差し上げましたが、ご不在だったようなのでメールで失礼いたします。
トレゼゲの件ですが、申し訳ありませんが、なしにしていただけますでしょうか。お待たせしたのにこういった形になってしまい誠に申し訳ありません。
(中略)
今回もお時間のない中で急なお願いをしたにもかかわらず、こちらの都合でキャンセルとなってしまい、誠に申し訳ありません。次回お願いする際には、もっと前もって企画のご相談からできるよう準備させていただきます。
また、お電話差し上げます。何卒よろしくお願いいたします。
○○拝


 あの偉大なるイチローが引退するのだから「特集そのものを変更することになりました」とする編集部側の判断は当然のことなら理解できる。
 

 ただ、問題は3月13日以降続けてきた我々の「取材準備・交渉という仕事」に対する報酬について上記メールでは一切触れられていないことだ。

(そしてこれはもはや蛇足に過ぎないが、奇しくも3月22日にコンテとの交渉は成立していた)


最も確実にして重要な点は、日本で最大手とされるであろうナンバー編集部が支払いを一切せず話を終わらせようとしたことだ。その扱いは、まさに使い捨てそのものである。

「優越的地位の乱用」等に対する規制を強めていくと国(公正取引委員会)はアナウンスしているが、日本社会に深く々根付いた元請けと下請けの絶対的ともいうべき主従関係が変わることはない。

我々フリーランスは一体どこまで耐えねばならぬのだろう。■


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