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筆算計算体系の理論~「水道方式」を手がかりに|基礎計算研究所

部品の組合せとしての筆算

 まずは徹底して分類し尽くすことである

 勘ではなく分析の結果こうなる、ということをしたい。ただ、「水道方式」の型分けがそのまま使えるかというと,実はそうでもない。水道方式では筆算は十進位取り記数法を基盤にした計算法として、その桁で何が行われているかを考える。そして加減では3桁までの計算に習熟すればよいとして,例えば加法は144の型に分ける。こうした分類配列が見事である。しかし特に乗法に入ると分類の鈍さが目立つようになり,除法ではまったく使えなくなってしまう、というのが私の最終地点である。

 乗除で分析分類が使いにくくなった、あるいは全く使えなくなった原因は、水道方式が基本の部品として、「素過程」(いわゆるたし算九九・ひき算九九・かけ算九九)を考えたことである。

 筆算は十進位取り記数法を基盤にした計算法である。そしてその基本となるのは確かに「素過程」である。

くり上がり・くり下がり:「桁またぎ」の処理

 ところが、筆算は素過程のみではなく、桁をまたぐくり上がり・くり下がりなどの処理が肝となる。

 素過程にくり上がり/くり下がりによって左右の桁に及ぼす影響を組み込んで、それを第一の分類軸に据える、というのがこのnoteの提案である。「くり上がり/くり下がりによる左右の桁へ影響の有無」というのが長いので、これから桁またぎと呼ぶことにする。(くり上がり・くり上がりを総称することばがあればよかったのだが,どうも算数教育界でも存在していないようである。)

 このように十進位取り記数法を基盤に、桁またぎも考慮してさらに分解すると,筆算で起こることは、各けたで起こる計算結果を書き並べることだ,ということになる。ある決まり(文法)によって並べただけで、すべての場合の網羅が実現できる。そうすると,部品として使いやすく、全体の見通しが立てやすくなる。

 筆算を「その桁で何が行われているか」を示すブロック部品に見立てるということである。ただ、こう言うだけではとても抽象的で、具体的に何を言っているのか、よく分からない、と思う。具体的な「部品」について加減法と乗法・除法でそれぞれ示していくことにする。

0の扱い 

 もうひとつ、水道方式で着目されているのは0の扱いである。筆算中心の計算体系を形成するにあたって、暗算の計算方法といちばん相違する点である。暗算では0は「計算しなくていい」「省略してよい」の符牒である。ところが、筆算では省略せず書くなど正確に計算結果を示す必要がある。0の扱いが、筆算習熟のもうひとつの軸であることを,水道方式は示した。こちらは算数教育界で「空位」「欠位」という言葉で定着している。
 そして水道方式では、0の存在を特殊として分類し、一般→特殊の原則によって配列をし直した。ただし、このnoteでは、この0の存在の指摘に敬意を持ちつつ、0があることだけで特殊とするのは不十分であり、筆算における0はさらに4種類あり、分析の精度を上げる必要があるということを示したい。

「桁またぎ」と「0の扱い」という2つの分析軸

 というわけで、桁またぎを大分類に、0の扱いを小分類にして、その演算の基本的な部品を洗い出す。筆算の分析軸はこの2つに尽きるのである。

 その上で、水道方式をもう少し精緻化して、今からだからこそ見える「甘さ」を詰めて、まずは分類し尽くす。もちろんこのやり方で分類すると「細かすぎる」ものになるかもしれないが,その処理についてはまたあとの項で述べることにする。

コンピュータの活用

 そして、すべての場合の網羅しようとするとき、このnoteではもうひとつ、コンピュータの力(主に表計算ソフト)を心置きなく活用する。多数の問題を分類しようとするとき、コンピュータの力は絶大である。

 水道方式の時代と異なるのは、このぐらいの計算量であれば、個人がパソコンでに一瞬に計算できたり検索できたり並べ替えたりすることができる時代になっていることである。先に紹介した文章のように、当時の手計算・アナログな処理で、無限とも思われる50万近くの問題が144にきちんと分類できるのが、本当に驚異だったのだろう。手計算や組合せ論でなんとか列挙してきたわけで、その時代とコンピュータを学習者が当たり前に使える今とを優劣をつける,というのは酷であることは重々承知の上、これだけの理論体系を築いてきた先人達の功績を無にする、ということではなく,理念形を発展させよう、というのがこのnoteの趣意である。

配列はどうするか,範囲はどうするか

 そのことによって、先に水道方式で問題化された「型分け」「逆問題」が自動的にできて、「配列」もロジカルな方向性が見えてくる。

(1)筆算の部品の分析(桁またぎ→0の扱い)
(2)部品の組合せとして筆算を分類(桁またぎ→0の扱い)

 単純化すると、部品をつくり、部品の使い方によって配列が決まってくる、ということである。そして逆問題は,それぞれの部品で使える数の組合せを当てはめていけば自動的に数値が入っていく,ということである。 

 桁またぎ0の扱いに注目して筆算を分析するという問題意識は「水道方式」と共通するのだが、分析の方法論としては異なってくる。加減についてはその構造をきっちりと確立したが、乗除については分析が不十分である、と考える。これは、特に乗法の桁またぎ(くり上がり)の処理と,除法(÷1桁)の0の処理に顕著だ。

 たとえば、水道方式のわり算で「おろすの0」がこれまで意識化されていなかったのも、こうした分析軸を使うことで発掘することができた。特に小数に進んだときの割り進みにとって「見えていない0を下ろす」作業が必要になり、この「おろすの0」はこれだけでも意識的に練習をしておいたほうがいい概念である。

 また、水道方式では0が出てこない方を一般形とするためわり切れる問題よりもわり切れない問題を先行させる。しかし、現在の算数教科書はすべてわり切れるものを先に学習する。ひき算の結果が0になるからと特殊型にカテゴライズするよりも、答えが0になる減法は他の減法同様に自由に計算ができる、ということを前提にすれば、逆に割り切れるはずなのに割り切れずにあまりが出て再計算の必要性がわかることのほうが一般型の習熟のために重要なのだ、と分析ができたことが大きい。

 これから、まずは整数の「加減」「乗法×1けた」「乗法×複数けた」「除法÷1けた」「除法÷複数けた」の順に、上記に示す(1)~(3)の問題
  ●問題の型分け(分類)
  ●逆問題(問題列挙)
を主に考察し、「問題を形に分け、その型に属する問題を列記する」ことを主眼に置く。

 (4)の指導順の配列については、あくまで理論的に想起されるもの試案として示す形とする。



https://note.com/tajif/n/neb3bfd3047a9


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