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はじめに〜筆算の体系化に向けて|基礎計算研究所

問題意識

  自分がしっくりくる計算練習問題集・ドリルみたいなのがなかった。
  自分は「学び直し」を必要とする子たちを目の前にする仕事に就いている。
 いろいろ模索したが、出来合いのものに残念ながらしっくりするものに出会うことがなかなかできなかった。

 では「しっくりくる」とはどういうことなのだろう? 少なくとも「しっくりくる」とは、私の個人の感覚である。それをもうちょっと意識化して言語化してみると、問題集の問題の並びを見て、「この問題とこの問題の間にすごく難しさの段差がないか?」「なんで、問題の並びがこうなるのか?」ということが気になる、ということなのだったと思う。

 なぜこの並びなのか、なぜ他の並びではだめなのか? どうして提示した並びがBEST(あるいはBETTER)と主張できるのか? 必要な問題は網羅できているのか?穴はないのか? むしろ細かすぎるとすると、何と何はまとめることが出来るのか? ・・・こうしたことを説明できる原理がほしいのである。

 また、あるタイプの問題を間違えたとき、全く同じやり方で数だけが異なる問題を練習したい、ということもあるだろう。

 このように一度気になり出すと、出来合の教材の中にこうした思いを満たすようなものがないのである。そして、どうも出来合いのものを改良して、なんらか形にする、ということでもなさそうである。

 そんなときに目の前にあらわれたのが「水道方式」であった。筆算の構造を詳らかにして、体系化したものである。構造とは何か? しばらく私なりの水道方式の説明にお付き合いいただきたい。

水道方式との出会い

 それまでの暗算中心であった計算指導に1960~70年代に筆算中心の大きな変革を生み出すことになったのが「水道方式」である。教科書を編集しようと生み出されたものであるが、理念が方法論を貫いている。そして今日まで計算練習の中心は筆算によるものとなった。(その辺の経緯は自分は「数学教育史」という歴史として学んだのである。)

 で、その理論をまとめたのが『水道方式による計算体系』(遠山啓・銀林浩著、明治図書出版、初版1960年・増補版1971年)である。この本によると、計算の練習において最小の練習量で最大の力がつく合理的な計算体系の原理として

(1)複雑な計算過程を、最も単純な計算過程に分解し、それを素過程と名づける。
(2)素過程を結合して、最も典型的な複合過程をつくる。
(3)典型的な複合過程から、次第に典型的でない複合過程に及ぼしていく。

を掲げ,この原理に基づく計算体系の理論を「水道方式」と称している。

 そして、計算体系づくりの主要問題は

(1)素過程の分析
(2)複合過程の型分け
(3)ある型に属する例題をつくるにはどうすればよいか(逆問題)
(4)型を指導の順に配列する配列問題

としている。そして(4)については

 素過程を
            一般 → 特殊
という原理で並べると、一般には1列(線形順序)にはならないで、いくつもの枝の出た図式ができる。そのためには理論的考察と多くの実践的考慮をしなければならないであろう。その結果によっては、一般にいくつもの案が考えられる。

として、(4)は理論的な考察だけでは定まらず,実践による試行錯誤が必要であると述べている。

理屈はわかった。しかし、

 ここにはじめて「計算問題集」づくりの理論を見つけた気がする。

 計算の一般型を探し出し、そこから特殊へと配列することで、「水源から各家庭へ水道が流れるように」自然とできるようになっていく、というのが水道方式の理念型である。しかし残念ながらこの理念型は私から見ると、整数・小数の加法・減法のみにとどまっていて、整数の乗法・除法ですら、分析の余地が残っているというのが、私の主張となる。

 そんなに分析をし尽くしてどうするのか、と言われるかもしれない。しかし、つまづきの石がどこにあるのか、精緻化するのは悪いことではないはずである。また、問題を配置するときにあるパターンの練習を意図的にではなく不作為に盛り込まかったとしたら、そこでつまづくことは見逃される、ということである。なので、まずはすべてのパターンを洗い出して、順列・組合せによって登場するすべての問題を網羅することは大切なのである。




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