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概数・概算との関係(÷95~÷99について) |基礎計算研究所

商の見立てとは、つまるところ概数の活用なのだが・・・

 ÷2桁の筆算では、どの位に商が立つか決定してから、割る数をそれに近い何十の数に見立てて商の見当をつける、という作業をする。実際には切り捨てと四捨五入である。

 数学的な系統性を考えると、確かに概数・概算を学習して、それを商の見立てにも利用という方がすっきりする。指導要領もそれを念頭に同じ4学年で指導することにして、概数→除法の順に記述している。指導要領の解説には、次のように書いてある。

 加法,減法,乗法,除法を用いる具体的な問題の場面で,目的に応じて和,差,積,商を概数で見積もることを指導する。「内容の取扱い」の(2)に示したとおり,計算の結果の見積りで暗算を活用する。
(中略)
 なお,概算によって積,商を見積もることは,除数が2位数の除法における商の見当を付ける場面において重要な役割を担うことに留意して指導することが大切である。(小学校学習指導要領(平成29年告示)【算数編】解説 p185・186)
 除数が2位数の場合には,98÷ 23 や 171÷ 21 のように2位数,3位数を2位数で割る計算を指導する。数の相対的な大きさについての理解を活用しながら,各段階の商の見当を付けていく。例えば,171÷ 21 の場合,10 を基準とみるとおよそ17÷2とみることができ,商がおよそ8であると見当を付けることができる。計算の見積りはここで生かされる。なお,見当を付けた商が大きかったり小さかったりして修正しなければならない場合,見当を付けた商を修正していく手順を丁寧に取り扱うことが重要である。(小学校学習指導要領(平成29年告示)【算数編】解説 p187~8)

 指導要領では概数→除法の順に触れているが、多くの教科書では÷2桁のわり算のあとに概数の単元を置いている。2020年度版の教科書での扱いは次の通りである。

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 この商のみたてと概数との微妙な関係について、東京書籍のホームページでのQ&Aが詳しい。長くなるが引用する。

[Q] 4年の単元配列で、「わり算の筆算(2)」の後に「概数」を配置している理由を教えてください。
[A] 大きくは、2つの理由があります。
(1)子どもの数感覚を大切にしたいこと。また、わり算の筆算の学習を通して、さらに数感覚を伸ばしたいこと
 計算単元においては計算の仕方を確実に理解することはもとより、計算を通して子どもの数感覚をいっそう伸ばすこともねらいとすべきであると考えます。わり算の筆算の学習に際しては、先に四捨五入を指導しておき、四捨五入して仮商を立てる方が子どもにとって負担が少なく、また、便利な面もあります。しかし、その反面、四捨五入を前面に出しすぎますと、機械的な数処理に陥りがちといった面も持ち合わせていると考えます。すなわち、計算する前に答えの見積もりをしたり、数の特徴を生かした計算方法を考えたりというような、本来行うべき「数をよく見る」という活動が疎かになってしまうということです。もちろん、筆算の学習ですから、アルゴリズムに則って機械的に処理できることがよさの1つではありますが、仮商を立てる場面はアルゴリズムに入る前であり、そこではできるだけ数感覚を生かすことが望ましいと考えます。
 そして、「わり算の筆算(2)」においては、除数の25を子どものもつ数感覚により20とみたり30とみたりしながら計算するなど、子どもの数感覚を活かしながら学習を進めていく展開を採用しています。
(2)「概数」先習の単元配列の弊害が生じたこと
 以前に、「新しい算数」においても「概数」→「わり算の筆算(2)」という配列を試みたことがあります。その際の意図は、「仮商を立てる際の方法の1つとして四捨五入の活用も考えられる」というものでした。しかし、結果として「四捨五入の理解が不十分な子どもは『わり算の筆算(2)』の学習がますます困難になる」というご指摘や、「四捨五入を学習した後では、25を20とみることに戸惑う子どもも少なくない」というご報告も多数いただきました。また、先に四捨五入を扱った後では「数感覚を自由に活用して仮商を立てる学習が成立しづらい」というご指摘をいただいたことも付け加えておきます。
 以上のような理由から、「わり算の筆算(2)」の後に「概数」を配置しています。
 なお、実態などによっては、「概数」を先に指導するという可能性も考えられます。指導順序の入れ替えやすさに配慮して、「わり算の筆算(2)」と「概数」を近づけた単元配列としています(上巻、第6単元と第7単元)。

 子どもたちの理解の仕方・学習の定着具合を考えると、数学的に組んだ指導体系では思うようにうまくいかなかった、むしろ混乱をした子どもが多くて万人向けのカリキュラムには向かなかった、ということなのだろう。

 なので、東京書籍では、商の見立ては概数と別ものとして教科書をつくった上で、実情に合わせて(できる子が多い、教員のクセなど?)指導順序の入れかえも可能、としているわけである。これまでの教科書づくりの苦労と各方面への配慮が伺える文章である。

 カリキュラム・指導体系、学び直しのコースを考える上で、こうした配慮をふまえた上で、考えて行く必要がある。

 次に、÷2桁の計算の「不都合な真実」に言及しておきたい。

÷95~÷99の問題

 「3桁÷2桁」の形式の問題なら被除数や除数がどんな数であっても解けることをめざす、ということになるのだが、じつはどの教科書にも載っていない問題が2つある。

 それの一つは、わる数が95~99の問題である。

 わる数を四捨五入して何十とみる場合、これらの数がわる数であれば四捨五入すると÷100になる。「切り捨て」方式であれば94までの数と同様に処理をすればいいわけで、とくに取り立てて考える必要はない。

 しかしいずれにしても、わる数が95から95の問題は、各社の教科書とも章末問題・巻末問題含めて見事に避けているのだ。

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 たとえば、賞を見立てるときわる数が87であれば90にする、というのは十の位までの概数にしているのではなく、上から1桁の概数にするのである。÷3桁、4桁・・・の時も同様である。そうすると、÷97は÷90として見立てるのか、÷100として見立てるのか。この違いをまず指導者は認識しなければならない。

 具体的には上から2桁目の数字を四捨五入する、ということになる。同様に97を上から1桁の概数にしようとして上から2桁目の数字7を"五入”すると”繰り上がって”100になる。これは87→約90の手続きにくらべて、くり上がりというもうひとつの操作が必要となる。この追加の操作をしてもよいのだというお墨付きを指導する側が与えておかないと、学習者の側はそれでよいのいか?という疑念を持ったまま計算を進めることになる。

79÷75の問題

 もうひとつ仮商を求めるアルゴリズムを「除数のみ四捨五入」で機械的にしてしまうときにひっかかるのが、79÷75のように、2桁÷2桁で十の位が一致していて、除数の一の位が5~9になる場合である。「わる数だけ四捨五入」すると、79÷80となって、商はたたないことになってしまう。

 79円しかもっていなくて、75円(税込み)のものはいくつ買えますか、という問題なので、1個しか買えないのはあきらかである、と済ます考え方もあるだろう。こうした問題は例外なので、やらなくてもいい、という見方もできるかもしれない。

 しかし、教科書でも直後に整商が複数桁の問題を取り扱っており、「どんな問題も十全にできる」ことを保障して次に行かないと、たとえば3829÷75をしようと思っても、「習ってない」ことが出てきてつまづきになるかもしれない。

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 「除数のみ四捨五入」のアルゴリズムをとるときに、79÷75のような問題も意図的に「なかったことにする」ワケにはいかない、ということは指摘しておきたい。

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