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06【連載】「実践!内部監査チームマネジメント」:レビューポイントの体系化

はじめに

 監査人に限らず、私たちは完璧ではありません。判断の偏りやミスは避けられません。だからこそ、監査において「レビュー」の仕組みが必要になるのです。しかし、レビューア自身も、完璧ではありません。そのため、十分なレビューが実施されないリスクもあります。では、どのような点に留意すればよいのでしょうか。

 本記事では、より効果的なレビューを実現するための、レビューポイントの体系化について解説します。




1. レビューの目的を再認識する

 最も重要なことは、「レビューの本質的な目的」を正しく理解することです。一般的に、レビューの目的は「監査品質の向上」と言われます。確かにその通りですが、この表現では抽象的すぎて、具体的な行動に結びつきません。
 レビューの本質的な目的は、「監査リスクの低減」、すなわち「監査人として、誤った意見表明をするリスクを低減すること」にあります。

 例えば、以下のような事態は避けなければなりません。。

  • 監査対象業務の内部統制を「有効」と評価したが、実は重大な不備があった

  • 今回の監査では、「●●以外には、問題なし」と結論付けたが、実際には●●以外にも、看過できない重大な問題が潜んでいた

 このような誤った意見表明を防ぐことこそが、レビューの本質的な目的なのです。


2. レビューにおける課題

(1)レビューの視点の偏り

 多くの場合、レビューアの経験や問題意識によって、確認のポイントが大きく異なってしまいます。

  • 過去の経験に基づく特定の領域への過度に注力してしまう

  • リスクの高低を意識しないレビューになっている

  • 「てにをは」等の形式面の確認に終始し、本質的な判断の妥当性を十分にレビューしていない

  • 監査範囲や監査手続(監査要点や監査手法)の選定に関する適切性の検証が十分に行われていない

  • 監査証拠と結論のロジックとの整合性の確認が十分でない

(2)重要な判断のレビュー不足

 監査における重要な判断に対する十分な検証がなされていないケースが見受けられます。

  • 監査範囲の決定プロセスの妥当性の確認が十分に行われていない

  • リスク評価の適切性の検証が十分に行われていない

  • 発見事項の重要度に関する判断の検証が十分に行われていない

  • 改善提案の実現可能性の検討が十分に行われていない

  • 「問題なし」と結論付けられている項目に対するレビューが十分に行われていない

(3)非効率なレビュープロセス


 レビューの進め方自体が非効率であるために、重要な論点の確認を看過するリスクがあります。

  • レビューの本質的な目的(誤った意見表明を防ぐこと)に照らして、レビューの優先順位付けが明確になっていない

  • 重要でない項目のレビューに時間を割いてしまう

  • レビュー記録の管理が十分に行われていない

  • レビューアによるレビューのフィードバックが適時に行われていない(監査終了後にレビューが行われているなど)

 これらの課題に対する具体的な対応策を、次のセクションで解説します。


3. 効果的なレビューポイントの設計

(1)リスクベースのレビュー体系の確立


 監査リスク(誤った意見表明をするリスク)の観点から、レビューの重点項目を明確にします。

  • 監査範囲の決定プロセスの妥当性

    • リスク評価に基づく監査範囲の決定根拠

    • 監査範囲から除外した項目の判断の合理性

  • 重要な判断の適切性

    • 発見事項の重要度の評価根拠

    • 「問題なし」とした結論の妥当性

  • 監査証拠と結論の整合性

    • 監査証拠の十分性と適切性

    • 結論に至るロジックの明確さ

(2)階層的なレビューアプローチの導入


 重要度に応じたレビューの深度を設定し、効果的かつ効率的なレビューを実現します。

  • 第一段階:全体的な方向性の確認

    • 監査目的/監査目標との整合性

    • リスク評価の適切性

  • 第二段階:重要な判断の検証

    • 監査手続(監査要点、監査手法)の十分性

    • 発見事項の重要度の判断

  • 第三段階:形式面の確認

    • 文書化の適切性

    • 参照関係の正確性

(3)適時のフィードバック体制の整備


 レビュー結果を適時かつ効果的に伝達し、監査品質の向上につなげます。

  • 計画段階でのレビュー

    • 監査範囲の適切性

    • リスク評価の妥当性

  • 実施段階での中間レビュー

    • 重要な判断の方向性

    • 追加手続の要否

  • 報告段階での最終レビュー

    • 結論の妥当性

    • 改善提案の実現可能性

(4)レビュー品質の維持向上


 レビューの実効性を高めるための仕組みを整備します。

  • レビュー記録の標準化

  • ベストプラクティスの共有

  • レビューノウハウの文書化・部門内共有

  • レビュー結果の分析と活用・研修等での利用

  • レビューア向けのトレーニング

 このように、レビューの本質的な目的である「監査リスクの低減」に焦点を当てた体系的なアプローチを確立することで、より効果的なレビューの実現が可能となります。


おわりに

 レビューポイントの体系化は、単なるチェックリストの作成ではありません。それは、監査品質の向上と効果的かつ効率的なレビュープロセスの実現、さらには組織としての監査スキルの向上を支える重要な基盤となります。

次回予告

 次回は、「ナレッジ蓄積・活用の仕組み」について解説していきます。

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