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【Thought leadership】内部監査機能の進化・拡大:社会貢献に向けて

はじめに:「社会的影響アプローチ」の意義を考える

内部監査の役割は、ビジネス環境と社会の期待の変化を反映し、大きく進化しています。

本稿では、内部監査の進化を体系的に整理し、昨今の社会の期待を踏まえて設定した「社会的影響アプローチ」の意義を議論します。この進化を理解することは、組織が複雑なリスクに対応し、持続可能な価値を創造する上でとても重要です。

内部監査人、経営者、そしてステークホルダー全てが、この変化を理解し適応することで、組織の持続的成長と社会への貢献を実現できるでしょう。



1. 内部監査機能の進化モデル

内部監査部門は、これまで、新たな役割を担う度に監査範囲や重点領域、評価対象を見直し、必要な体制を整備してきました。
内部監査の進化は、以下の5つのアプローチに分類できます(番号が大きいほど難易度が高くなります)。

1.コンプライアンスアプローチ(法令等の準拠性確認)
2.内部統制評価アプローチ(内部統制の有効性)
3.リスクベースアプローチ(個々の重要リスク管理の有効性)
4.戦略的アラインメントアプローチ(組織の中長期戦略と整合した全社的リスク管理の有効性)
5.社会的影響アプローチ(組織のパーパスと社会的影響管理の有効性)


2. 各アプローチの関連性

これらのアプローチは、互いに排他的ではなく、段階的に発展し、前のアプローチを包含しています。

例えば、リスクベースアプローチは、コンプライアンスと内部統制の評価を基盤としつつ、より広範なリスクに焦点を当てます。

同様に、戦略的アラインメントアプローチは、これらすべてを考慮しながら、組織の戦略との整合性を重視します。

最終的に、「社会的影響アプローチ」は、これら全てのアプローチを包含しつつ、さらに広い社会的な文脈で組織の役割を評価します。


3. 内部監査の進化・拡大

(図)内部監査機能の進化モデル(※フォントが小さいため、内容は本文をご参照ください。)(※縦軸:項目/横軸:アプローチ)

内部監査の監査範囲は、上記のアプローチで段階的に進化し、その範囲を以下のように拡大してきました。
監査範囲
1. 個別業務レベル
2. プロセスレベル
3. 部門・機能レベル
4. 全社レベル
5. 社会システムを考慮した組織内の取り組み

また、内部監査の重点領域は段階毎に以下のように拡大してきました。
重点領域
1. 法令等の準拠性確認、不正の防止
2. 既存の内部統制の評価と改善
3. 重要リスクの特定と評価
4. 中長期戦略と整合した全社的リスク管理
5. 組織のパーパス(存在意義)と社会的影響の評価

さらに、内部監査の評価対象は段階毎に以下のように異なっています。
評価対象
1. 法令等の準拠性確認
2. 内部統制の有効性
3. 重要リスク管理の有効性
4. 組織の中長期戦略と整合した全社的リスク管理の有効性
5. 組織のパーパス(存在意義)と社会的影響管理の有効性

最後に、各段階の主要なステークホルダーは以下のように拡大しています。
主要ステークホルダー
1. 業務担当者
2. 管理職
3. 部門長・機能責任者(CxO)
4. 経営層
5. 取締役会、社会全体

かつて2000年頃には、日本の大手企業の多くは、上記アプローチの1や2が中心でした。(ただし、当時は一部の内部監査部門では、「経営監査」などの名称で、上記アプローチの3や4の一部を実践していた部門もありました。)


4. 「社会的影響アプローチ」の概要

上記の「内部監査の役割」の5種類のアプローチのうち、役割として最も難易度が高いのは、「社会的影響アプローチ」になります。

「社会的影響アプローチ」は、以下を対象としています。

  • 監査範囲:社会システムを考慮した組織内の取り組み

  • 重点領域:組織のパーパス(存在意義)と社会的影響の評価

  • 評価対象:組織のパーパス(存在意義)と社会的影響管理の有効性

そして、組織のパーパス(存在意義)と社会的な価値創造の結びつき(両者の整合性)を評価します。

その上で、中長期的な社会全体への貢献と経済的な持続可能性のバランスの適切性が維持されていることを確かめるために、以下の点を評価します。

  • 広範な影響範囲の考慮:
    ・組織活動が社会、環境、経済に与える複合的影響
    ・直接的なステークホルダーを超えた、広範な利害関係者への影響

  • 社会からの信頼構築:
    ・組織の透明性と説明責任の強化
    ・倫理的な組織文化の醸成と社会規範との整合性

  • 持続可能な発展への貢献
    ・組織の持続可能性と社会全体の持続可能な発展との関連性
    ・中長期的な社会的課題解決に向けた組織の取り組みの有効性

「社会的影響アプローチ」の具体例

従来のアプローチでは、法令等遵守、内部統制、リスク管理、戦略との整合性を確認するにとどまりますが、「社会的影響アプローチ」では以下のような点も評価することが想定されます。

(例1)製造業における「新製品の開発プロセスの内部監査」
・新製品が社会課題の解決にどのように貢献するか
・新製品のライフサイクル全体での環境負荷
・サプライチェーン全体での人権や労働条件への影響
・新製品が社会の中長期的な持続可能性にどのように貢献するか
・これらの要素が組織のパーパスとどのように整合しているか

(例2)金融業における「新しい金融商品への投資の方針の内部監査」
・新しい金融商品が、社会的課題や持続可能性にどのように貢献しているか
・投資ポートフォリオが、環境や社会的影響を考慮したESG(環境・社会・ガバナンス)基準にどのように対応しているか
・新しい金融商品や投資活動が、組織のパーパスとどのように整合しているか

これらの評価を通じて、内部監査は、より広い社会的な文脈での組織の役割と影響を検証し、改善提案を行います


まとめ

とりわけ社会的影響の大きな上場企業や大規模組織における内部監査の役割は、単なるチェック機能から、組織と社会全体の持続可能な発展を支える重要な機能への進化を期待されています

「社会的影響アプローチ」を採用することで、内部監査は組織の中長期的な価値創造をサポートするだけでなく、より広い社会システムの健全性と発展に貢献することができます。このアプローチは、内部監査部門が、組織の中核的な機能としての地位を確立し、社会全体の信頼構築に貢献する機会となります。

内部監査は、「社会的影響アプローチ」の実践を通じて、組織と社会をつなぐ重要な架け橋となり、持続可能な未来の実現に向けた強力な推進力となるのです。


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