11【連載】内部監査の二面性:広く浅く/深く狭く
はじめに
第10回は「サンプリング」と「全量」というテーマで、監査手法の選択について考察しました。第11回では、内部監査における「広く浅く」と「深く狭く」という二面性について考えていきます。
内部監査では、限られたリソースをどのように配分するかが常に課題になります。組織全体を広くカバーする監査と、特定の領域を深く掘り下げる監査、それぞれのアプローチには狙いと課題があります。
1. 「広く浅く」と「深く狭く」のアプローチ
「広く浅く」のアプローチは、組織全体を俯瞰的に評価することで、全体的なリスクの所在を把握し、問題の早期発見を可能にします。一方、「深く狭く」のアプローチは、特定の重要領域に焦点を当て、本質的な課題を特定した上で、抜本的な改善提案を可能にします。
2. アプローチの選択基準
監査の目的や対象によって、適切なアプローチは異なります。例えば、新たな業務領域の監査や、大規模な組織変更後の監査では、まず「広く浅く」のアプローチで全体像を把握することが有効です。
一方で、重大な不正が発見された領域や、経営上の重要課題については、「深く狭く」のアプローチが求められます。
3. アプローチの特徴と使い分け
両者のアプローチの特徴として、メリット・デメリットは以下の通りです。
【広く浅くのアプローチ】
○ メリット
・組織全体のリスク状況を広く浅く把握できる
・問題の早期発見につながる
・監査リソースの効率的な配分ができる
× デメリット
・本質的な問題の把握が難しい
・改善提案が一般的なものにとどまりがち
【深く狭くのアプローチ】
○ メリット
・根本原因の特定ができる
・実効性の高い改善提案ができる
・専門的な知見の蓄積につながる
× デメリット
・リソースを集中的に投下する必要がある
・他の領域への対応が限定される
4. 実務での応用
以下では、営業部門の監査を例に挙げます。
【広く浅くのフェーズ】
・全支店の業績データを分析する
・基本的なコントロール状況を確認する
・リスク領域を把握する
【深く狭くのフェーズ】
・特定の支店での詳細な調査をする
・重要プロセスを詳細に分析する
・根本原因を究明する
また、年度監査計画の策定に際しては、以下のように、両アプローチを効果的に組み合わせることが重要です。
(例)
1年目:「広く浅く」、全体を把握する
2年目:「深く狭く」、リスクの高い領域を深掘る
3年目:新たなリスク領域を探索する
このように、中期的な視点で両アプローチを計画的に組み合わせることで、より効果的な監査が可能となります。
まとめ
「広く浅く」と「深く狭く」は、対立する概念ではなく、相互補完的なアプローチです。状況に応じて適切に使い分け、また組み合わせることで、より価値の高い内部監査が実現できます。
次回予告
第12回は、「短期」と「長期」というテーマを取り上げます。