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2/2 内部監査:「問題なし」という結論の落とし穴と対策

本記事は、2回シリーズでお届けしています。
1/2 内部監査:「問題なし」という結論の落とし穴と対策|TAIZO

はじめに

前回の記事では、『問題なし』という結論が持つリスクについて解説しました。特に、監査リスクを構成する3つの要素(固有リスク、統制リスク、発見リスク)の中でも、発見リスクが監査の信頼性に重大な影響を与えることを強調しました。

今回の記事では、これらのリスクへの具体的な対応策に焦点を当てながら、特に発見リスクを最小化する方法に重点を置いて解説します。

また、前回取り上げた「『問題なし』という結論が抱えるリスク」をどのように管理し、誤った安心感を与えない監査プロセスを実現するかについても掘り下げます。




1. 監査リスクへの対応

監査リスクを構成する3つの要素の中で、発見リスクは他のリスク要素(固有リスク、統制リスク)と密接に関連し、監査手続の不十分さや誤った結論に直結します。それぞれの要素に対する対応策を以下に整理しました。

(1)発見リスクへの対応(重点項目)

発見リスクとは、監査手続の不適切さや不十分さが原因で、存在する問題を見過ごしてしまうリスクです。このリスクを最小化するには、以下の方法が効果的です。

  • 監査手続の適切性を確認する
    監査手続がリスクに見合った内容かを第三者の視点で評価します。特に、リスクが高い領域(現金取引や在庫管理など)では、不正リスクの視点も含めて、より詳細なテストを実施します。

  • 適切なサンプリング方法の採用と全量チェックの活用
    サンプル抽出は監査の効率を高める一方で、リスクが特に高い領域では全量チェックが有効です。
    (例)不正検出が求められる分野や、高額取引の確認においては、全量チェックを実施することで見逃しを防ぎます。全量チェックを効果的に行うためには、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やデータ分析ツールを活用し、効率性と正確性を両立させることがポイントです。

  • 複数の検証手法を組み合わせる
    文書レビュー、インタビュー、現場確認などの異なる検証手法を統合し、多角的な視点でリスクを評価します。

  • 検証プロセスの透明性を確保する
    チェックリストの活用や、検証結果の記録を詳細に残すことで、後から手続きの妥当性を検証可能にします。

(2)固有リスクへの対応

固有リスク(※)は、特定の業務や環境に固有の問題です。重要な固有リスクに焦点を当てた上で、以下のような対応が有効です。
(※)(例)新しいシステム導入時の業務プロセス変更に伴うリスク

  • 自社や同業他社で発生した問題事例を分析・活用
    不正や不備の事例を分析し、類似するリスクを把握した上で、それらのリスクの低減につなげます。

  • 重要リスクを特定するために業務プロセスを可視化・文書化
    プロセスフローを作成し、リスクの潜んでいる箇所を特定します。

(3)統制リスクへの対応

統制リスクは、組織内のルールや手続きが十分に機能しない場合に発生します。

  • 内部統制の有効性を評価
    COSOフレームワークや内部統制チェックリストを活用し、統制の有効性を客観的に評価します。

  • 統制上の弱点を特定し改善
    発見された弱点に基づいて、運用プロセスを改善します。


2. 『問題なし』という結論に潜むリスクを防ぐためのポイント

前回の記事で指摘した「『問題なし』という結論が抱える3つのリスク」について、具体的な対応策を以下に示します。

(1)十分な検証をしない場合でも使用可能なリスク

  • 対策:検証プロセスの可視化と透明性の確保
    検証内容を詳細に記録し、十分な裏付けがあることを示すことで、このリスクを軽減できます。

(2)監査手続の不十分さが明らかにされない可能性

  • 対策:監査手続の独立レビュー体制の導入
    第三者または上位管理者によるレビューを実施し、監査プロセスの妥当性を担保します。

(3)誤ったアシュアランス(安心感)を与えるリスク

  • 対策:残存リスクと結論の前提条件を明示
    『問題なし』という結論が特定の条件に基づくものであることを明記し、誤解を防ぎます。


3. 具体的な対策の例

以下に、これらのリスク管理を効果的に実施するための具体例を挙げます。

  • 全量チェックの導入
    リスクの高い領域では、対象データをすべて検証することでリスクを排除します。全量チェックを効率的に行うために、データ分析ソフトやRPAツールの導入を推奨します。
    (例)全従業員の経費精算の記録・証跡の自動チェックや、全取引に関するロジック(費用発生日が事前承認日の後など)の確認。

  • チェックリストの活用
    監査手続の網羅性を確保するためのツールとして、チェックリストを用います。

  • ダブルチェック体制の構築
    監査調書や報告書を複数人で確認する体制を整備し、不適切な手続を防ぎます。

  • 標準化された監査報告フォーマットの使用
    結論やリスク評価を一貫した形式で記載することで、分かり易さと信頼性を向上させます。


まとめ

『問題なし』という結論は、監査手続の適切性が担保されて初めて信頼性を持ちます。特に発見リスクを最小化するために、全量チェックや適切なサンプリング手法を組み合わせることが重要です。この記事で紹介した対応策を実践し、監査プロセスを強化することで、組織全体の信頼性の向上に貢献することができます。


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