見出し画像

【内部監査Tips】リスクアプローチ監査の鍵を握るのは、重要リスクの特定

はじめに:リスクの特定の重要性

以下の投稿で紹介した「リスクアプローチ監査」では、監査対象部門が直面している重要リスクを特定できることが前提でした。
リスクアプローチで監査リスクを抑え、内部監査の付加価値を最大化する|TAIZO (note.com)

つまり、そもそも適切に「リスクの特定」ができなければ、リスクアプローチ監査は成り立たないのです。
では、適切に「リスクの特定」を行うには、いったいどのようにすればよいのでしょうか?

本稿では、この手順を簡潔に解説します。


1.リスク特定の具体的手順

1.業務戦略と目標の理解

監査対象部門が直面している重要リスクを洗い出すためには、まず、監査対象部門が掲げている業務の戦略と目標を正確に把握することが必要です。これは、リスクが戦略の実行や目標の達成を妨げる要因となるためです。

1.1 業務戦略の確認
監査を実施する前に、以下の手順で業務戦略を確認します。

  • 中長期経営計画や事業計画書のレビュー

  • 経営層や部門責任者へのヒアリング

  • 業界動向や競合分析レポートの確認

例えば、ある部門の戦略が「新市場への製品販売」であれば、この戦略実行を妨げるリスクとして、市場の競争環境や法規制の変更、製造上の問題などが考えられます。

1.2 具体的な業務目標の把握
次に、戦略を実現するための具体的な業務目標を把握します。

  • 部門のKPI(重要業績評価指標)の確認

  • 年度目標や四半期目標のレビュー

  • 中間管理職や現場責任者へのヒアリング

例えば、営業部門の具体的な目標が「年度売上を前年度比20%増加」であれば、この目標達成を妨げるリスクとして「需要の低下」や「サプライチェーンの問題」などが想定されます。

1.3 業務プロセスの可視化
戦略と目標を理解した上で、実際の業務プロセスを可視化します。

  • プロセスフローのマッピング

  • 業務手順書や作業マニュアルのレビュー

  • 現場での観察とワークフローの確認

これらの手順によって、戦略の実行や目標達成のために具体的にどのような業務が行われているか、そしてどの段階でリスクが発生しやすいのかを視覚的に把握することができます。

例えば、業務プロセスをマッピングすることで、注文処理や出荷手続の段階でどこにボトルネックやエラーの可能性があるかが明確になります。

2. リスク要因の洗い出し

前述の手順で業務戦略、目標、および業務プロセスを理解した後、次のステップとして具体的なリスク要因を洗い出します。この段階では、これまでに収集した情報を活用しながら、より深く掘り下げた分析を行います。

リスク要因の洗い出しは、以下のステップで進めます。

2.1 既存情報の整理・分析

  • 戦略文書、目標設定資料のレビュー結果の再確認

  • 作成したプロセスフロー図の詳細な検討

  • 過去の業務実績データや問題点の分析結果の精査

2.2 関係者へのヒアリング

  • 部門責任者や現場管理者、実務担当者など、様々なレベルの関係者に対し、整理した情報を基にヒアリングを実施

  • 各プロセスの段階で想定されるリスクについて、具体的に質問

  • 現場の視点から見えるリスクや懸念事項を収集

2.3 外部情報の活用

  • 業界動向や市場分析レポートの精査

  • 法規制の変更や新たな規制の動向調査

  • 競合他社が直面しているリスクや業界全体の課題の分析

2.4 クロスチェックとディスカッション

  • 収集した情報を基に、監査チーム内でディスカッションを行い、リスク要因を整理

  • 必要に応じて、関係部門等の追加のヒアリングや資料確認を実施

2.5 リスクマップの作成

  • 特定されたリスク要因をプロセスフローや組織構造に紐づけてマッピング

  • リスク間の関連性や影響のつながりを可視化

上記のプロセスを通じて、業務戦略の実行や目標達成を妨げる可能性のある重要リスクを包括的に特定します。

ここでは、文書レビュー、ヒアリング、プロセスフロー分析などの手法を組み合わせることで、多角的な視点からリスクを捉えることが重要です。

例えば、営業部門の「年度売上を前年度比20%増加」という目標に関して、以下のようなリスク要因が特定される可能性があります。
(例)

  • 市場需要の急激な変化(外部環境分析から)

  • 主要顧客の購買ポリシーの変更(顧客担当者へのヒアリングから)

  • 新製品の開発遅延(製品開発部門とのクロスファンクショナルな分析から)

  • 競合他社の積極的な価格戦略(市場分析レポートから)

  • 受注処理システムの処理能力不足(プロセスフロー分析から)

以上のような方法で重要リスクを特定した後は、「リスクの評価」や「リスクの対応(回避、移転、受容、低減)」のステップに進みます。

2.継続的なモニタリングの必要性

最後に、リスクは動的なものであるため、リスクの特定後も継続的なモニタリングが必要になります。

つまり、特定されたリスクがどのように変化するのか(スピードも含めたボラティリティ)、新たなリスクが発生していないかを定期的に確認するプロセスの整備が求められます。

まとめ

リスクアプローチ監査において、リスクの特定は成功の鍵となります。

まずは、監査対象部門の業務の戦略や目標を理解し、多面的な方法でリスク要因を洗い出すことが重要です。
また、業務プロセスを可視化することで、潜在的なリスクをより詳細に把握することが可能となります。

これらのプロセスを体系的に行うことで、リスクアプローチ監査が実効性を持ち、組織全体のリスク管理能力を向上させることができるのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?