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【内部監査Tips】初めての監査領域に挑むとき:失敗しないための承認プロセスと柔軟なアプローチ

はじめに


昨今のビジネス環境の変化に伴い、内部監査部門の監査対象範囲(オーディット・ユニバース)は拡大しています

新たな監査領域(例:買収した子会社)においては、従来の監査手続の準用が困難であり、既存の事前承認プロセスが適用できないケースが多く見受けられます。

本稿では、新たな監査領域に対する監査を実施する際の監査手続の更新プロセスと承認に関する課題を段階ごとに分析し、柔軟に対応できる承認プロセスの提案を行います。



1. 新たな監査領域に対する監査手続の事前承認に関する課題

新規に買収した子会社の経費精算プロセスの監査を例にとり、事前承認に関する課題を考察します。

個別監査の計画段階では、監査の基本方針や監査目標、監査目的に加えて、それらに対応した監査要点やサンプリングの方針を含めた初期の監査手続の策定が求められます。

しかし、この段階で新たな監査領域に対する詳細な監査手続を事前に確定することは困難であるため、内部監査部門長等からの承認を得る内容は限定的とならざるを得ません。

多くの内部監査部門では、この事前承認をどのように取得すべきかといった課題があります。
 
本段階では、以下のような水準(例)で内部監査部門長等の承認を得ておくことが望ましいと考えます。

1)     監査要点とサンプリング方針
新たな監査領域(経費精算プロセス)の監査要点を「経費の実在性・正確性」として設定し、サンプル抽出による証憑突合を行う。
2)     基本的な検証手続
経費申請データと証憑の突合や、金額と日付の確認を行い、検証を実施する。(※ただし、この段階での検証手続はあくまで基本的な検証手続に過ぎず、今後の変更可能性を考慮した内容とする)

【図】経費精算プロセス監査における手続の進化と承認のタイミング(例)
※下図は、監査が進んでいくにつれて左側から監査手続が3つの段階で進化し、承認されることを示しています。

新規に買収した子会社における経費精算プロセスの監査を例に、監査手続の進化を具体的に見ていきます。

 ■第1段階:基本方針と初期監査手続の承認(例)

  • 監査要点として「経費の実在性・正確性」を設定する

  • サンプリング方針を「サンプル抽出による証憑突合」とする

  • 検証手続(基本)を申請データと証憑の突合等、基本的な検証手続を設定する

この段階では、詳細な手続は確定させず、基本的な方向性の承認を得ることで対応する。

2. 実査前の詳細な監査手続の承認

監査が進んでいくにつれて、初期段階で想定していた手続内容に追記・修正が必要になることがあります。例えば、監査対象の業務プロセスが親会社とは異なるため、リスクベースの手法に基づき、検証対象や範囲の詳細化が求められる場面も生じます。
 
本段階では、以下のような水準(例)で内部監査部門長等の承認を得ておくことが望ましいと考えます。

1)    リスクベースサンプリングの採用
リスクに応じてサンプリングを行い、具体的な検証手続を追加します。通常案件では各費目25件、高額案件では10万円以上の案件、接待費については全件を対象とするなど、リスクに応じた設定を行います。

2)    検証手続の具体化
費目分類や経費申請の期限の遵守、証憑の完全性確認など、検証対象を具体化し、リスクやコントロール上の要件に応じた検証を行います。
 
監査対象が不確実である新たな監査領域においては、このような柔軟な変更が必要不可欠ですが、そのたびに承認を得ることが難しいという課題があります。

 ■第2段階:詳細な監査手続の承認(例)

  • リスクベースサンプリングの導入

・通常案件:各費目25件
・高額案件:10万円以上
・接待費:全件

  • 検証項目の具体化

・証憑の完全性の確認
・金額の正確性の確認
・費目区分の妥当性の確認
・申請期限遵守の確認
本段階での監査手続の変更は、実査前の文書レビューなどの初期調査の結果を反映したものとなります。

3. 実査中の監査手続の承認

往査に入ると、監査目的に沿って、検証範囲や項目などをさらに詳細化します。特に新たな監査領域においては、監査対象範囲の多層的なサンプリングや、新たに発見されたリスクに基づいた追加的な検証も求められます。

1)     多層的サンプリングの実施
通常案件100件、高額案件30件、接待費50件など、監査対象の範囲を広げたサンプリングを実施し、監査の網羅性を確保します。

2)     網羅的な検証項目の追加
証憑との完全な突合や経費申請の内容の妥当性、費目分類の正確性など、項目を増やします。二重申請チェックやシステム設定確認、例外処理の検証といった追加的な手続も必要になりますが、これらの変更の際にも承認が求められ、迅速な対応が求められます。

 ■第3段階:確定した監査手続の承認(例)

  • 多層的サンプリングの実施

・通常案件:100件(前回手続の4倍)
・高額案件:30件(範囲拡大)
・接待費:50件(重点的に検証)

  • 網羅的な検証項目

・証憑の完全性の確認
・申請内容の妥当性の確認
・費目区分の正確性の確認
・処理の適時性の確認

  • 追加的検証手続

・二重申請チェック
・システム設定の確認
・例外処理の検証
以上の通り、監査が進んでいくにつれて、監査手続はより詳細化されます。

4. 監査手続の変更の事前承認プロセスと課題解決の提案

新たな監査領域における監査手続の進化プロセスを踏まえて、以下のような承認プロセスの確立を提案します。

4.1 段階的承認プロセスの確立

 ■第1段階(個別監査計画の承認):基本方針と初期の監査手続
 ■第2段階(詳細の監査手続の承認):更新された詳細の監査手続
 ■第3段階(実査中の承認):確定した監査手続の承認

4.2 変更管理の柔軟化

  • 軽微な変更:個別監査の責任者(監査主任など)による即時承認(※何をもって軽微とするかを事前にルール決めが必要)

  • 重要な変更:部門長承認(※何をもって重要とするかを事前にルール決めが必要。また、部門長承認は、予め監査主任などへの権限移譲により事後承認も許容するルール設定も検討)

4.3 知見の蓄積と活用

  • 監査手続の進化のパターン分析

  • 次回監査への反映

  • 知識共有とナレッジのデータベース化

まとめ

新たな監査領域においては、監査手続の柔軟な変更が求められる一方で、段階ごとの承認プロセスが煩雑になることによる課題も存在します。

本稿で述べたような柔軟な承認プロセスを導入することで、新たな監査領域においても効率的かつ組織的なアプローチでの監査を実現することが可能になります。

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