【内部監査Tips】年度リスク評価の本質を見失わないために~効果的なリスク評価のためのバランス~
はじめに:リスク評価の目的を再確認する理由
リスク評価の本質的な目的は、限られた監査資源を最適に配分し、企業・組織にとって重要なリスク領域を特定することです。また、評価結果は、ステークホルダーへの説明責任を果たすための根拠になります。
年度のリスク評価のプロセスにおいては、リスク評価プロセスが過度に精緻化、複雑化することで、本質的な目的を見失ってしまうリスクがあります。
例えば、皆さんの部門でも、リスク評価プロセスを高度化した結果、評価項目の細分化や定量化が進み過ぎて、リスク評価の作業自体が目的化してしまうようなことはありませんか?
場合によっては、個々の数値には十分な根拠が無く、“エイヤ(ざっくりと)”で決めているケースもあるかもしれません。
本稿では、本質を見失いがちなリスク評価プロセスにおける「精緻化」と「実用性」のバランスのとり方について具体的に考察します。
1. 精緻化と実用性のバランスを取るアプローチ
1) 「十分な精緻さ」の考え方
リスク評価を精緻化する際には、以下の3つの条件を満たす範囲内で行うことが重要です。
判断の質への実質的な向上につながること
追加的な作業工数に見合うメリットが得られること
評価結果の説明力が向上すること
2) メリハリのある評価プロセス
全てのリスク領域を同一基準で精緻化するのではなく、リスクの重要度に応じた評価のメリハリが必要です。
【重点的に精緻化すべき領域(例)】
・ステークホルダーの関心が高い領域
・戦略上の重要性が高い領域
・過去に重大な問題が発生した領域
・新規かつ重要性の高い領域
【簡素化を検討できる領域(例)】
・過去から大きな変化のない業務領域(何らかの基準に基づいて決定)
・リスクが十分に低いことが内部監査等で確認されている領域
・他のコントロールによってカバーされている領域
2. 実務的な判断のためのチェックポイント
1) 評価プロセスの有効性確認(例)
・評価結果の一貫性が確保されているか(他のリスク領域や過去評価など)
・評価にかかる作業工数は適切か
・評価結果は実務的な判断に活用できているか
・過度に複雑化していないか
2) 本質的な判断の確保(例)
・定性的な重要性が適切に考慮されているか
・専門家としての判断の余地が確保されているか
・新たなリスクに対する感度は維持されているか
・リスク評価の透明性は確保されているか
3. バランスの取れたアプローチのための具体策
以下のような段階的な評価アプローチを採用することが効果的です。
1) 段階的な評価アプローチの採用
第1層:基本評価
↓ ・シンプルな基準をもとに初期スクリーニングを行います。
第2層:重点評価
↓ ・特定の重要リスク領域に対する詳細分析を行います。
第3層:専門的判断
・専門家の経験や知見に基づいた総合判断を行います。
2) 評価の柔軟性確保
リスク評価は形式的に行うのではなく、以下のように評価プロセスに柔軟性を持たせながら運営することが重要です。
・画一的な評価に固執しない
・状況に応じて評価手法を使い分ける
・定期的に評価プロセスを見直す
4. 実務への提言
リスク評価が単なる作業に終わらないようにするためには、以下のような点に留意する必要があります。
・「より良い意思決定のためのツール」という位置づけを常に意識する
・評価プロセスの改善は段階的に行い、効果を確認しながら進める
・専門家の経験や知見を適切に取り込める余地を残す
・定期的に評価プロセス自体の有効性を検証する
5. バランスの取れたアプローチの実現に向けて
リスク評価の精緻化は目的ではなく手段であること、そして「十分な精緻さ」の考え方を部門内で共有することが重要です。また、評価プロセスの継続的な改善には、簡素化を合わせて進めることで、バランスの取れた効果的なリスク評価が可能になります。
まとめ
リスク評価は、より効果的な監査計画立案のための手段です。リスク評価を高度化する場合には、「なぜそのプロセスが必要なのか」「どのような判断の改善につながるのか」を問い続けることが成功の鍵となります。形式的な精緻化ではなく、実質的な監査品質の向上に資するバランスの取れたアプローチを実践していきましょう。
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