07/15 内部監査という選択:多様な人財が活きる新たなキャリア(第7回)
効果的な監査報告とフォローアップ(組織の改善に資する成果物の作成)
本連載では、内部監査という職業が持つ可能性や魅力を、私自身の20年以上にわたる経験をもとに、全15回にわたってお伝えしています。
はじめに
ここまで内部監査の実務に関し、第5回で内部監査の基本プロセス、第6回でリスクベースアプローチを活用した実践方法について解説しました。第7回となる今回は、監査活動の成果を組織の成長や改善に結びつける「監査報告」と「フォローアップ」に焦点を当てます。
これらの活動は、監査が単なる問題指摘に終わるのではなく、組織の変革を促す手段となるために欠かせないものです。本稿では、その具体的な方法について解説します。
1. 監査報告書の本質的な役割
監査報告は事実の報告に留まらず、組織の改善を促す戦略的なツールです。その役割は次の通りです。
組織の「今」と「あるべき姿」のギャップを明らかにする
改善に向けた具体的な道筋を示す
経営層の迅速かつ適切な意思決定をサポートする
持続可能な成長に資する提案を行う
監査報告というツールを最大限に活用することで、組織の成長と変革の実現を可能にします。
2. 効果的な報告書の構成要素
(1) ロジカル・ライティング:明解で理解しやすい表現
明快で説得力のある報告を実現するため、次の点を意識することがポイントです。
構成構造化された文書(MECE:重複なく、漏れなく)
リスクの重要度に基づく優先順位付け
簡潔で明解な文章(SMART:具体的、測定可能、達成可能、関連している、期限付き)
データや図表を活用した視覚的な説得力
(2) 問題の本質的な理解の提示
読者に納得感を与えるには、以下の内容を報告書に含める必要があります。
客観的な事実に基づき、簡潔で改善策につながる課題の提示
リスクや影響度の評価
根本原因分析(5 whys 分析などの手法を活用)
実現可能で効果的な改善提案の提示
効果的な報告書は、単なる問題点の羅列に留まらず、問題の本質を捉えた提案を通じて組織の変革を促します。
3. リスクベースの視点を活かした報告
(1) リスク評価結果の反映
リスクベースアプローチを踏まえ、報告書の内容を次のように整理します。
重要度の順にまとめる:高リスク領域を中心に記載
組織目標への影響度を明確化:経営層が意思決定をし易い情報の提供
将来的なリスクへの言及:潜在的な課題も含めて提示
組織横断的な影響への言及:個々の発見事項に留まらず、組織全体への影響にも言及
(2) 内部監査の種類別の重点領域
監査の種類に応じて、報告の視点を柔軟に調整します。
ガバナンス監査(※1):戦略的な示唆を中心に構成
J-SOX対応:統制上の課題に焦点を当てる
法規制対応:コンプライアンス上の留意点を明確化
(※1)シリーズ第2回で紹介した内部監査の分類1:「i. 組織のガバナンス、リスク管理、内部統制を評価・助言する内部監査」)
4. 改善を促す効果的なフォローアップ
(1) フォローアップの計画
フォローアップの実効性を高めるには、事前に次の内容を検討・準備することが重要です。
改善状況のモニタリング方法の設定
フォローアップ実施時期の明確化
評価基準の具体化
(2) 実効性のある確認
フォローアップ活動では、以下の要点を押さえることが重要です。
改善計画の進捗状況を確認
新たなリスクの発生の有無を評価
必要に応じて追加の提言を実施
フォローアップは、改善対応の完了を単に確認する作業ではありません。監査を通じて特定した問題や課題への対応が適切に行われてこと(問題に対しては再発防止につながること)を確かめる重要な活動です。
5. 組織の持続的な成長への貢献
(1) 価値創造の視点
監査報告とフォローアップを通じて、組織に対し、次のような価値を提供できます。
ベストプラクティスの共有
イノベーションの促進
組織横断的な改善機会の提示
(2) 長期的な視点での提言
短期的な改善提案にとどまらず、次のような長期的な視点を組み込むことが重要です。
戦略目標との整合性に着目
社会的影響への配慮
将来的な課題への対応
6. キャリア形成の観点から
監査報告とフォローアップの実践を通じて、以下のようなキャリアの強みを築くことができます。
(1) 特に培われるスキル
ロジカル・シンキングおよびロジカル・ライティング
問題の本質を捉える分析力
建設的な対話力
(2) キャリアへの活用(例)
経営層とのコミュニケーション経験
問題発見力・問題解決力の向上
組織横断的な視点の獲得
7. 次回に向けて
次回第8回から13回まで(計6回)にわたって、読者の皆さんそれぞれの状況に応じた視点で、内部監査のキャリアの可能性を掘り下げていきます。まず第8回では、新卒/第二新卒の方々が内部監査をキャリアのスタート地点としてどのように活用できるかを解説します。
おわりに:読者へのメッセージ
監査報告とフォローアップは、内部監査の価値を具現化することのできる、最終プロセスです。単なる問題指摘にとどまらず、組織の改善につなげることで、内部監査人は、経営層や監査対象部門にとって頼られる存在になるでしょう。