05コーチングx内部監査:新任監査人(金融機関)成長ストーリー~配属後6ヶ月間の学びと気づき~
本シリーズは12回シリーズでお届けしています。
00【連載予告】コーチングx内部監査:新任監査人(金融機関)成長ストーリー~配属後6ヶ月間の学びと気づき~|TAIZO
第5回:監査手続の実施 - サンプリングの考え方
はじめに
監査手続を実施する際、全ての取引や文書を確認することは現実的ではありません。そのため、新任監査人にとって「どのようにサンプルを選べばよいのか」や「どのくらいの件数を確認すれば十分なのか」という疑問が生じるのは当然です。サンプリングの基本的な考え方について、一緒に考えていきましょう。
1. コーチング手法を活用した対話:サンプリングの基本
佐藤(教育係):「営業推進部の監査で、顧客説明資料のチェックはどのように進めていますか?」
鈴木(新任監査人):「資料が300件ほどあるのですが、何件くらい見れば良いのでしょうか・・・。」
佐藤:「その前に、対象とする期間は決めましたか?」
鈴木:「あ、確かに。今年度の4月から監査基準日(先月末)までを対象に考えていました。」
佐藤:「では、その期間の資料をチェックする目的は何でしょうか?」
鈴木:「そうですね・・・顧客への説明が適切に行われているかを確認するためです。」
佐藤:「では、適切な説明が行われているかどうかを判断するために、どのような点に注目すれば良いでしょうか?」
鈴木:「商品の特徴やリスクが正しく説明されているか、また、お客様の理解状況を確認できているか・・・あ、そういえば、新商品の説明資料は特に重要かもしれません。」
佐藤:「その視点は大切ですね。では、それらを踏まえて、サンプルを選ぶ際にどんな点を考慮すれば良いと思いますか?」
鈴木:「新商品の説明資料は重点的に見る必要がありそうです。あと、担当者や時期に偏りが出ないように選ぶことも大切かもしれません。」
佐藤:「そうですね。サンプル件数も大切ですが、まず目的を明確にして、リスクの高い部分を重点的に見ていく。そういった考え方が重要です。」
2. サンプリングの基本的な考え方
内部監査では、通常、サンプリングの基本的な考え方は、各社内部監査部門のマニュアル等で規定されていますので、まずはそちらをご参照ください。
(ご参考:内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)における「実施基準」では、日常反復継続する取引については、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも25件のサンプルが必要になることが例示されています。)
各社の社内規定を優先しつつ、効果的なサンプリングを行うためには、以下のような点を確認することを推奨します。
目的の明確化
何のために確認をしたいのか
何が問題となり得るか(リスクの所在)
どの程度の件数を確認すれば十分だと判断できるか
対象期間を特定する
サンプルを選定する際の考慮点
高リスクの取引を抽出(例:新商品の販売、複雑な取引、苦情等)
時期的な偏りを排除
(監査対象部門の)担当者による偏りの排除
取引種類の網羅性を確保
サンプル件数の考え方
対象となる母集団の特性(取引の総数、発生頻度、定型/非定型など)
チェック体制の整備・運用状況
対象領域におけるリスクの重要性の程度
なお、監査の対象が不正や重大な法令違反に関する場合など、サンプルではなく全件の確認が必要と判断するケースもあります。
3. コーチングのポイント:リスクベースの考え方
鈴木さんは目的を考えることで、単なる件数の問題ではなく、リスクに応じたサンプリングの重要性に気づくことができました。
問いかけの例
「何を確認するために、このサンプルを確認するのですか?」
「特に注目すべき取引にはどのようなものがありますか?」
「この結果から、どのような判断ができそうですか?」
4. まとめ
サンプリングは、限られたリソースの中で、監査の結論を導くための重要なツールです。単に数を決めるのではなく、目的とリスクを考慮して選定することで、より効果的な監査が可能になります。
次回予告
次回は「ヒアリングのスキル - 効果的な質問のポイント」というテーマでお届けします。