10【連載】内部監査の二面性:サンプリング/全量
はじめに
第9回は「効率性」と「有効性」というテーマで、監査対象部門の評価について考察しました。第10回では、内部監査における「サンプリング」と「全量」という二面性について考えていきます。
1. 「サンプリング」と「全量」
内部監査では、限られたリソースの中で、いかに効果的かつ効率的な監査を行えるかが課題になります。従来、サンプリングによる監査は、この課題に対する現実的なアプローチとして広く採用されてきました。
サンプリングには、統計的サンプリングと判断的(非統計的)サンプリングがあります。統計的サンプリングは、確率論に基づき科学的な手法で対象を抽出し、母集団の特性を推定します。一方、判断的サンプリングは、監査人の経験や知見に基づいて対象を選定します。
昨今、デジタル技術の進展により、サンプリングだけではなく、全量データ分析の導入が現実的な選択肢となってきています。全量を分析することで、異常値や例外事項を漏れなく把握でき、より確実な評価が可能となります。
2. アプローチの選択と組み合わせ
サンプリングと全量分析は、対立する概念ではありません。状況に応じて適切に使い分け、また組み合わせることが重要です。
【リスクベースのアプローチ(例)】
高リスク領域では全量分析を行い、中リスク領域では統計的サンプリングを行う。そして、低リスク領域では判断的サンプリングを適用するなど、リスクの程度に応じた使い分けが有効です。
3. 実務での応用
例えば、経費精算の監査では、従来型のサンプリングのアプローチと全量データ分析を導入したアプローチは、以下のようになります。両者は、当然にアシュアランスの深度が異なります。
【従来型アプローチ(例)】
全体の5%をサンプルで抽出する
証憑との突合を行う
承認の適切性を確認する
【データ分析導入アプローチ(例)】
全量データで異常値を検出する
特定の条件に合致する取引を抽出する
抽出された取引に対して詳細なテストを行う
このように、サンプリングと全量データの分析を組み合わせることで、より効果的で効率的な監査(深度あるアシュアランス)が可能となります。
4. まとめ
デジタル技術の進展により、サンプリングと全量分析の選択肢が広がっています。両者の特徴を理解し、適切に組み合わせることで、より効果的かつ効率的な内部監査を実現できます。
次回予告
第11回は、 「広く浅く」と「深く狭く」というテーマを取り上げます。