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03【連載】内部監査の二面性:客観性/主観性

はじめに

 第2回は「独立性」と「協調性」というテーマで、両者の相乗効果について考察しました。第3回では、内部監査における「客観性」と「主観性」という二面性について考えていきます。


1.「客観性」と「主観性」

 内部監査において、客観性は不可欠な要素です。極端な話しですが、仮に組織的な「独立性」が確保されていない場合でも(例:直属の上司がコンプライアンス統括部門長)、内部監査人の個人の「客観性」を確保できている場合には、監査結果を全否定されるまでには至らないかもしれません。しかし、「独立性」が確保できていない場合には、監査結果の前提として、「独立性が確保できていないことによるリスク」について当然に言及すべきでしょう。
 「客観性」は、監査結果が十分な事実やデータなどの証拠に裏付けられている評価であることが前提となります。また、「客観性」は、監査結果の信頼性を担保する基盤と言えます。
 一方で、完全に客観的な評価は存在しません。言うまでもなく、私たちは、必ず自身の知識や経験、そして価値観を通じて状況を解釈します。どの証拠を重視するかや、何を重要な発見事項とするかなどの判断には、必然的に主観的な要素が介在します。
 では、どのように「主観性」をどのように捉えれば良いのでしょうか?

2.「客観性」と「主観性」の相互補完

 重要なのは「主観性」を排除すべき「悪」として捉えるのではなく、むしろ価値ある「専門的判断」として活用することです。

 例えば、リスク評価において、定量的な指標やデータ分析による客観的な評価は重要です。しかし、それだけでは捉えきれないリスクや着眼点は存在するのではないでしょうか。組織カルチャーに対する深い理解や、業界動向を踏まえた洞察から得られる観点。さらには、過去の経験に基づくひらめき。これらの主観的要素も考慮した上で最終的なリスク評価につながる仕組みを構築すれば、より実態に即した、より本質的なリスク評価が可能になるでしょう。
 このアプローチは、一般に銀行融資の与信判断時に行われる信用リスク評価などで実施されている定量的評価と定性的評価の組み合わせに類似しています。

3. 実務での応用

 以上のような点を踏まえると、以下のようなアプローチが有効です。

(1)「事実」と「解釈」の明確な区別

 監査報告において、「客観的な事実」と「専門的判断」を明確に区別して伝えることが重要です。
(例)

【事実】
・業務マニュアルは、20xx年xx月に改訂されて以降、更新の要否が検討されておらず、更新もされていない。
・現行の業務フローの一部(与信審査プロセスのxx部分)が、業務マニュアルの記載と一致していない。

【解釈】
・業務マニュアルの定期的なレビューや更新の仕組みが機能していない。結果として、「業務の標準化が損なわれる可能性」や「与信審査における判断基準の不統一化の可能性」が生じ、誤った与信審査が行われるリスクがある。

上記の通り、両者を区別することで、読み手に「事実」を正確に伝え、論点となる「解釈」の妥当性に焦点を当てることが可能となります。

(2)「複数の視点」による検証

 主観的判断の妥当性を確保するために、監査チーム内でのディスカッションや上司や品質評価チームによるレビューの機会を積極的に活用することが重要です。異なる視点からの検討を通じて、より多角的な評価につなげることが可能となります。

4. まとめ

「客観性」と「主観性」は、決して対立する概念ではありません。客観的な事実をもとに、専門的な知見に基づく主観的判断を加えることで、より深い洞察と価値ある提言が可能となるのです。

次回予告

第4回は、「理論」と「実践」というテーマを取り上げます。


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