3/3【新任内部監査人「必見!」】なぜ監査要点が重要なのか:改善提案の質を高める実践アプローチ
※3回シリーズの最終回です。
1. はじめに:なぜ今、監査要点なのか
2. 監査要点とは:その本質的な意味
1/3【新任内部監査人「必見!」】なぜ監査要点が重要なのか:改善提案の質を高める実践アプローチ|TAIZO
3. 内部監査で「監査要点」が明確に設定されていない背景
4. なぜ「監査要点」の設定が必要なのか
2/3【新任内部監査人「必見!」】なぜ監査要点が重要なのか:改善提案の質を高める実践アプローチ|TAIZO
5. 実践:監査要点の活用例
【労働時間管理における監査要点と改善提案までの流れ】
ここでは、労働時間管理における監査要点として「網羅性」を設定し、改善提案までの具体的なプロセスを紹介します。このケースは労働基準法の遵守という法的リスクに直結するため、コンプライアンスの観点からも極めて重要です。
5.1 監査要点(例):網羅性
「全ての従業員(非正規雇用者を含む)の労働時間が漏れなく記録されているか」
5.2 監査手続
・人事部門が保管する最新の従業員マスター(非正規雇用者を含む)と直近3ヶ月の勤怠システムの記録データを照合
・サンプルベースで、非正規雇用者の実際の勤務実態(現場への観察・ヒアリング)と勤怠記録を照合
5.3 発見事項
「非正規雇用者の一部(パートタイム従業員10名中3名)について、勤怠記録が作成されていなかった。」→網羅性に問題あり!
5.4 具体的な改善提案
1) 勤怠記録の一元管理
・全従業員の勤怠記録を一元管理する体制を構築します。仮に、システム導入が困難な場合は、一時的にスプレッドシートなどで統一的に管理を行い、全従業員の勤怠記録の一元化を図ります。
2) 統一的な記録ルールの適用
・勤怠記録の統一ルールを導入し、特に非正規雇用者の記録漏れがないよう、標準化された記録方法を採用します。
3) モニタリング体制の構築
・人事マスターと勤怠記録の自動照合や、記録されていない従業員の自動検出を目指したシステムの改善を行います。
・また、月次で人事部門長によるチェック体制を導入し、定期的な確認を行います。マニュアル対応が必要な場合には、週次で照合する簡易的な体制でも可とします。
6. 実務上のポイント:効果的な監査要点の設定方法
監査要点を効果的に設定するためには、いくつかの重要な視点が必要です。ここでは、リスクに基づいたアプローチや改善の実現可能性、相互関連性、継続的な見直しの観点からポイントを示します。
6.1 リスクアプローチ
監査要点は、監査対象業務に潜むリスクの把握から始めます。リスクの影響度と発生可能性を評価し、特に重要なリスクに対応した監査要点を設定します。
リスクの影響度(例):リスクの影響度が「高い」とは、組織の財務・法的リスクに重大な影響を与える可能性がある場合です(例:労働時間管理での重大な法的違反など)。
リスクの発生可能性(例):リスクの発生可能性(リスクの顕在化)が「高い」とは、過去6ヶ月間に複数回発生している問題や、内部通報があったケースなどです。
6.2 改善の実現可能性を考慮
発見事項に対して具体的な改善提案を行うために、監査要点を設定する際には、組織の経営資源(人材、システム、予算)を考慮して、現実的に実現可能な改善策を導き出せる視点を持つことが求められます。
6.3 監査要点の相互関連性に注意を払う
監査要点相互の関連性を理解することで、効率的で効果的な検証が可能になります。例えば、在庫管理では「網羅性」と「実在性」が相互に影響する場合があるため、棚卸在庫の実在確認と記録の網羅性を同時にチェックするなど、相互に関連する監査要点の統合的な検証が求められます。
6.4 監査要点の継続的な見直し
ビジネス環境の変化や新たなリスクの発生に応じて、監査要点も進化させていく必要があります。例えば、年次監査計画の作成時には、過去1年間の監査要点の有効性を評価し、必要に応じて見直しを行います。また、四半期ごとに重要なリスクを確認し、監査要点の追加や削除を行うことで、常に最新のリスク対応を維持できます。
おわりに:これからの実務に向けて
監査要点を活用することは、内部監査の品質向上の肝となります。特に、発見事項から効果的な改善策を導き出すためには、「監査要点」の存在が不可欠です。
新任内部監査人の皆さんには、上記の実務上の4つのポイントを踏まえて、この「監査要点(=羅針盤)」を活用して頂ければと思います。